Neetel Inside 文芸新都
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おひとりさま
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 どちらかというとあまり人目を気にしないほうで、ラーメン屋でも立ち喰い蕎麦でも一人で入れるタイプだ。おひとりさまというやつだ。部活終わりなんかは駅構内の立ち喰い蕎麦屋で仕事終わりのおじさんたちに混じってよくきつねそばを啜ってるし、駅前の某有名ラーメンチェーン店は大のお気に入りでヘビーユーザーと言えるくらいに通っている。 という話をすると、
「へー、女ってそういうのイヤなんじゃねーの?」と隣の席の坂本が言う。
 坂本とは中学から一緒だけどそれまであまり話したことがなかった。高校に上がって席がとなりになったことがきっかけで最近よく話すようになった。
「ぜんぜん、へーきだよ」
「変わってんなぁ。注目されね?」
「見られても関係ないよ。こっちは食事しにいってんだもん。文句あんのかっつーの」朝コンビニで買ったフルーツ飴を口に含みながらそう答える。
「へー……」
 坂本が何かいいたげな顔でぽりぽりと頭をかく。最近気づいたけど緊張しているときの彼の癖なのだ。
「あのさ! そんじゃオレ美味いラーメン屋知ってんだけど一緒に行かね?」
 思わぬ提案に口にあった溶けかけの飴を飲み込んでしまった。胸がどきどきする。男の子にご飯にさそわれるのってよく考えたら初めてかもしれない。
「カウンターしかないんだけどさー、スープがすげー美味くてさ」
 坂本がそのラーメン屋がいかに美味いかをことこまかに語るけれど、胸の鼓動がうるさくて全然頭に入ってこなかった。

「いらっしゃいませー」
 店に入ると溌剌としたわかい女性店員が元気な声で迎えてくれた。坂本お気に入りのラーメン屋は駅から少し離れた路地に入ったところにある7席ほどのこじんまりとした店で、雑居ビルの1階にあった。コの字型のカウンターの端に私たちは座った。
「特性醤油ラーメン。麺かためで。上原は?」
 メニューを見ると醤油のほかにも塩やとんこつ、ワンタンメンなんかもあったけど、さっきから緊張でまともに考えることができなかった私は少し迷った後、
「じゃあ同じので」と答えた。
「ここの醤油ラーメン、マジでおすすめ」
 さっきからずっと口数が少なくなっていた私を気づかってか坂本が積極的に話題をふってくれる。私もすこし緊張がほぐれたのかしどろもどろに答える。
「おまたせしましたー」
 さっきの店員がラーメンを運んできてくれた。見た目は昔ながらの中華そばといった感じで、大きめのチャーシューととろとろの半熟たまごが美味しそうだった。けど初めて男の子と二人でラーメンを食べているという事実に緊張しっぱなしの私は全然味に集中できなかった。
 坂本が隣で「な? うめーだろ?」と笑顔で話しかけてくるけれど、自分の食べ方がきたなく見えないかとか、鼻水がでたらどうしようといったことで頭がいっぱいで、こくこくとうなずくだけでろくに答えることもできない。どうやら一人で行くのと「男に連れられてる女」の立場で行くのとは全く違うようだ。
 でもそんな私に笑顔で話しかけてくる坂本の顔を見ていると、たぶんまた二人でこの店で並んで食べるんだろうなという予感がぼんやりとした。そのときはちゃんとラーメンの味の感想を言おうと思った。

       

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