Neetel Inside 文芸新都
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青春小説集「青春ドンドコドコドコ」追加
「腎臓ボール-伝説の七つの結石を求めて-」

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 タンパンという女が訪ねてきて「腎臓ボールを出して」などと言い出した。
「腎臓ボールとは何やね」と私は聞いた。
「言い直すと結石よ」とタンパンという女は言った。女は短パンを履いている中年女性であり、私は野外露出中の中年男性であった。私の名は虚空というが、この先名前は出てこない。この話は伝説の七つの結石を求めて旅に出る私たち中年コンビの話である。その後「腎臓ボールZ」「腎臓ボールGT」などに続いていく予定だ。多分続かない。

 私はなおも露出中であったが、寒さもありちんちんが縮んできてしまった。私は手でちんちんを隠した。少し前まで夏日が続いていたのに、突然冬になったような日だった。私は露出決行の日を確実に間違えた。寒風の吹く空を先ほどまで私が履いていた白いブリーフが飛んでいく。尻のあたりが少し破れている。ブリーフをなくした私は全裸を手で隠す他はない。
「早く腎臓ボールを出しなさい」とタンパンは続けるのだ。
「結石なら確かにある」と私はちんちんと乳首を隠しながら答えた。全てを隠しきることはできなかった。ちんちんは一本であり、乳首は二つあった。私の手は二本しかなかった。露出するならコートを羽織ってくるべきだったのだ。

「突然左下腹部に激烈な痛みが襲ってきたことがあった。後に腰も痛み出した。数時間苦しんだがやがて治まり、翌日朝一で泌尿器科に訪れたら、『結石があるね』と言われたのだ」私は泌尿器科でおじいさん先生に肛門に指を入れられたことを思い出しながらタンパンに告げた。
「腎臓ボールを七個集めると願いが叶うのよ」
「なぜ私の結石を求めるのだ」
「これ」そう言ってタンパンは懐中時計のような大きさの機械を出した。
「腎臓レーダーっていうの。私の発明よ」
「腎臓を見つけるのか」
「結石のある腎臓を見つけるのよ」
「そんなものはそこら中にいるのではないか」
「伝説の結石は世界に七個しかない。私のレーダーでは一番近くにある一つしか分からないの」
「寒いので服を着たいのだが」
「私の下着を貸してあげる」
「あなたの下着はいらない」
「遠慮しないで」そう言うとタンパンは器用にブラジャーを抜き取ると私に投げつけてきた。
「いらぬというのに」しかし私はブラジャーをつけてみた。乳首が隠れるだけで、寒さは大分やわらいだ。
「すまぬ。いつか借りは返す」そう言い残して私は家へ帰ろうとした。パトカーのサイレンが近づいてきたからだ。

「待ちなさい」タンパンは手裏剣を投げてきた。タンパンは手裏剣を使う、という事実にここまで触れてこなかったのは、今まで投げられてはいなかったからだ。初対面の時から気付いていた。片手に腎臓レーダー、片手に十字手裏剣を持ち、「結石よこせ」と迫ってくるタンパンは恐ろしかった。冷静に描写できなかったことをここに詫びよう。私は咄嗟に股間を手で守った。手裏剣はタンパンに与えられたブラジャーの紐を切り裂いた。
「何をする!」
 私はブラジャーを切り裂かれた怒りで我を忘れた。私の乳首を守ってくれていた大切なブラジャーが、頭のおかしな中年女性に切り裂かれる。こんなに頭に来ることはない。命の次に大切にしていたブラジャーだった。亡き祖母の形見だった。違うかもしれなかった。

「いいから黙って結石をよこしなさい」
「人を傷つけてまで集めた結石で、何を願う」
「しれたこと。素敵な彼氏よ!」
 私はタンパンの構える手裏剣にちんちんで立ち向かう。防御のために一時的にギンギンにしたちんちんはキンキンと手裏剣を弾き返した。たくさんのスマホが私たちの戦いを録画していた。
 既に祖母の形見のブラジャーは跡形もなくちぎれ飛んでいた。もちろんそんなことをここで書きながら、ついさっきタンパンに貰ったブラジャーだったことには気が付いていた。私はそれでも賢明に祖母との思い出を力に変え、死に物狂いで戦った。駆けつけてきた警察官たちは私たちの姿を認めると、即座に発砲した。全てちんちんで弾き返した。

 その後いろいろあってタンパンと私は一緒に暮らし始めた。半年後、ようやく私のちんちんから大きな結石が出てきた。オレンジ色で、星の形が四つ入っていた。確かに特別な結石らしかった。腎臓レーダーはまた次の結石も私の腎臓にあると告げていた。
「そうえいば全部で七個ある、と先生が言っていた」私はまた肛門に指を入れられた触診際の記憶が蘇り、尻の穴がむずむずした。
「それじゃあまだまだ、ここで暮らすことになりそうね」

 彼女の願いであった「素敵な彼氏」は私と住むことで叶ったはずなのに、彼女はこれ以上何を求めようというのだろう。直接聞いてみた。
「まずあなたは全然素敵ではない。露出狂だし」
「しかし彼氏ではある」
 彼女はそこは否定しなかった。
「今の私の願いは、あなたの健康よ」
 そう言ってタンパンは、近所の物流倉庫の仕分け作業をするために出かけていった。
 季節は変わり、外に出るのにコートを着る必要はなくなった。
 だから私は全裸で外に出た。
 尻の穴がむずむずした。

(了)

     


     

あとがき

「腎臓ボール-伝説の七つの結石を求めて-」は大長編として構想したもので、最終的に腎臓人間と宇宙規模で戦闘を繰り広げる予定でした。しかし残念ながら私の力では、露出狂の中年と、彼の元に現れた手裏剣を持つ中年女性の話にしかなりませんでした。

 そもそもこれは何だろう。これはどこに出せばいいのだろう、と尻の穴がむずむずしている中で思いました。noteでは毎日何かしら書いていますし、多数のPNを使い分けてkindle出版もあれこれしています。タイピングのしすぎで首と肩が爆発して整形外科に通っています。でもそれだけでは足りない気持ちがありました。足りていないもの、それは新都社への投稿でした。

 本能が新都社への投稿を求め始めていたところに、鈴木先生の「絶対死にたい子」を読み、この傑作についての長い考察を書こうかなと考えました。しかしそちらはプリスカ先生の仕事であると気が付いて止めました。私が私なりの「絶対死にたい子」に対するレスポンス、アンサーソング的なことを考えた時、浮かんだのが、七つの結石を求めるアドベンチャーでした。

 最近子どもたちはゆるふわ系日常アニメを好むようになり、今は「けいおん!」を観ています。「山中さわ子先生はThe Pillowsの山中さわおから、平沢唯は平沢進から名前を取っているんだよ」と娘に教えて「うっとうしいロック親父」を体現してしまいました。息子はドラゴンボールの劇場版を少しずつ観ています。娘はドラゴンボールを好まないので、私と二人だけで観る状況の時に観ました。先に私一人で観ていたものを観直すこともあり、近いスパンでの再視聴ということで、観ている間にいろいろと思うことがありました。そうして自分の中で練りあがっていった結果が今回の「腎臓ボール」かもしれません。私の中の結石はまだ一つも出てきていません。

 長編とはならなかった。ではコンセプト小説集の一編として世に出すことにしよう。これまでに私が書いていないジャンルとは何か。青春である。というわけで「青春小説集」に決めました。更新頻度は「新都社向けっぽい作品を書きたくなった時」とします。次回は二日後かもしれませんし、二年後かもしれません。


       

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