Neetel Inside 文芸新都
表紙

風が吹たら桶屋がつぶれた
チンピラ怒る

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一体築何年かもわからねえほどの木造製ボロアパート。
外壁にはヒビが入り、見たこともねえかたちの虫が俺の部屋と外を出入りしてる。
このアパートが建築されてから一切、手が加えられてないらしく最高に汚らしい。
近所でも有名な通称おばけやしき。

202号室-6畳間キッチン・トイレ付
この部屋が俺の居場所だ。

外側だけじゃなく、部屋の中も混沌としているのだが、
これは俺のせいだ。まあ仕方がない。
部屋を見回して、剥がれている壁紙をよく見ると、
小さな虫が湧いていた。壁と壁紙の隙間からうじゃうじゃと出てくる。
「またか…」
殺虫剤をとりに行こうとしたら、転がっているワンカップを踏んで派手にコケた。
背中を冬から出っ放しのホコリをまみれのヒーターに体重ごとぶつけた。
息もできずにのたうちまわっていると、部屋のドアを乱暴に叩く奴がいる。ドカ。ドカ。ドカ。
背中の痛さで返事もできずにいると、ドアの音はさらに増した。ダン。ダン。ダン。
ドアにはめられているガラスが揺れた。

「そんなに、叩いたらドアが壊れて開くだろうが!ノックの意味を考えろバカヤロー」
背中の痛さとドアの打撃音で俺はキレた。
ドアの音はピタリとやんだ。ドアの向こうの奴は俺がドアを開けるのを待っているようだ。
ガラス越しにツンツンの頭のシルエットで見て取れる。

相手はわかっているヤクザだ。いやチンピラだ。
今日はドアの叩き方からして、かなりの下っ端だろう。
ドアのノックといい周りに威嚇したくて、行動の一つ一つがいきまいている。
ふん、カスが。


俺がドアに近づくと、向こうにも俺のシルエットが見えるのか、そわそわしている。
俺は勿体ぶってドアを開けた。
「なに?」
出来るだけ不機嫌そうな顔をしてドアを開けた。
「でへへへ、部屋みつかりましたあ? 」
殴られたような顔の男が派手な白地に金のストライプのスーツを着て
ニヤニヤと笑っている。
こんなスーツ一体どこで売ってるんだ…。と思ったが聞く気はない。
「その前にお前らのほうこそ…」
いいかけた時、隣りの部屋から物音がしたのがわかった。
隣りのじいさんが聞き耳を立てている。
「まあ、中に入れ」
俺はドアを大きく開いた。

そいつは俺の部屋を見て、あからさまに嫌な顔し、
「いや、ここでいいっすよ…」
と言ったが、無言で睨み返し、中へ招き入れた。
「あいにく、茶もコーヒーも切らしていて、水道水しかないんだが」
自分の座る場所を確保するため、周りにあるものをどけているそいつに
黄ばんだ湯のみを差し出した。中は茶渋だらけであろう。
自分でも使ってからわからない。キッチンは1年前から蛍光灯が切れている。
触るのさえ嫌そうな顔で、受け取った。
案の定、一口も飲まなかったが。俺も嫌がらせのつもりでやっているから特に腹も立たなかった。


「で、部屋はみつかったんすか? 」
1分足りともこのこの部屋に居たくないらしく、すぐに本題に入った。
「お前、ここの10倍の金額でみつかると思うか? 」
「……」
「なあ、無理だろうよ。2万の家賃の10ヶ月分。たった20万で敷金・礼金払えるのか?仲介手数料は?
この辺の相場しってるか? 」
「…まあ、」
「だったら大家と交渉して来いよ。一本ぐらい安いだろうが」

そう俺は今、大家から立ち退きをくらっていて、
仲介業者と名乗るほとんどヤクザな業者達と立ち退き料の交渉をしているのだ。
企業名を名乗っている以上、出来るだけ話し合いでどうにかしたいらしく。基本は低姿勢である。
下っ端なんかは身なりや動作にチンピラ臭さが抜けてないのだが。

最初に立ち退き料として、定時された額は入居時に払った敷金礼金にプラス家賃5か月分だった。
5ヶ月分と聞けば大層な額のように聞こえるが、俺の部屋の家賃が2万なので、10万だ。
パチンコ屋に行けば1日で無くなるような額だ。話にならない。
2回目の交渉で、さらに倍になったわけだが、それでも20万。
俺の住んでる部屋の家賃相場が7万なので、敷金礼金仲介手数料なんか考えると、
次に移る部屋があるわけがない。
100万なら出て行ってやると先週末に伝えた、今日はその返事に来たはずなのだ。

「それが、オーナー一家がハワイに旅行中でして」
こんなアパートの持ち主でもオーナーと呼ばれるのか、とかどうでもいいことを考えつつ、
「この辺の小さい土地全部買い取って、どっかの大企業がビルをおっ立てるんだろ。
大企業からオーナー様とやらに随分、金が行ってるはずだろうが、仲介業者の裁量でどうにか… 」

「さっきから、お前の話し方が気にいらねえんだよ。
 こんなボロ家に住んでるような奴が偉そうに上から話しやがって… 」
急にドスの利いた声でしゃべりだした。


沸点の低いチンピラがキレた。

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