Neetel Inside ニートノベル
表紙

猫太郎はもういない
05 Tutorial③

見開き   最大化      

「さ、チュートリアル、始めるぞぉ、っと」
 気楽で、そして何よりやる気無く承服亭さんは宣言した。

 ◇ ◇ ◇。

「地獄行き回避ゲーム! ドンドンドンドンパフパフ……って古いか? ククッ、まぁどうでもいい。えぇっと、地獄は超痛くて死ぬほど苦しいのはご理解いただけたと思いまぁす。だから誰も行きたくねぇよな? 行きたいか? 一秒も休めずに死ぬほど痛いのが継続するけど、死にはしないよ? 永遠に生きられるよ、ある意味な。ま、死に逃げることも出来ない、ってのが正しい認識になるわけだけど」
「ゲームの目的ぃ……は、まぁいいや。お前は地獄へ行きたくない、でいいだろ。それだけ知って信じて動けばそれでいい。……下手に邪推するなよよな、神たる俺の意向を汲もうなんてのは不遜だぜ? 頭が高ぇよ、愚民」
「まぁ、それでも説明するなら、お前の“悔い”、いわゆる後悔な。それを消すのが主目的であり、ゲームクリアの条件になりまぁす。アンダースタァン?」
「お前の悔い。当然ご本人様でいらっしゃいますからお分かりですますよねぇ? そうそう、今お前の脳裏に浮かんだソレ、それよ。それが今回のゲームの対象になる」
「もっと具体的、かつ端的に言うとだな……。えっと、お前が十二歳の時に決定的に決裂し、袂を分かった例の仲間、“オトモダチ”。ソイツらともう一度、腹割って話し合って仲直りしろってことだな。……クククククッ、俺って親切だなぁ。愚民と愚民の仲を取り持ってやるとか。神かよ、……って神でした~! 俺、神でした~! あいた~!」
「あぁい、ゲームのルールを説明ぃ。本日、下界時間、日本標準時で六月三十日、午前七時から午後七時までの十二時間を使って、オトモダチらと屈託なく、笑い合うくらいに仲直りできたらゲームクリア~! 地獄行きは回避されまぁす! おめでと~おめでと~。本当におめでたいのかはさておいてもおめでと~」
「……で、だ現実問題。ムズいだろ。これ。普通に五年前にケンカ別れした友達と仲直り、しかも全員相手にそれを十二時間でするのはぶっちゃけムズい。無理ゲーだ! クソゲーだ! 人生はクソゲーだ! ……って、さじ投げられてもつまらねぇ。まぁ、人間の人生がクソなのは否定しねぇが、まぁ、それはいいとして、だ」
「だから、ゴットちゃんたる俺様ちゃんは救済措置をご用意しております。親切だろ? さぁすが神。ククッ……」
「んで、その救済措置ってな――」

 ◇ ◇ ◇

 私は自宅のベッドで目を覚ました。
 目を覚まして、現在時刻を確認し、慌てて飛び起きる。
 現在時刻は六月の最終日、三十日の午前六時五十分。
 あれは夢だった、みたいなそれこそ夢のような話は存在しない。
 ハッキリとまざまざと覚えてる。少なくとも、承服亭と名乗った、いや、自らを神と名乗ったあの超常存在は「あれ、あんなことがあった気がしたけど夢だったのかな」というまごまごとした話運びが嫌いらしい。
 だからか、私は例の『地獄行き回避ゲーム』のために、直ぐに行動することを余儀なくされた。
 どうしてか私は制服のままだ。いや、寝間着を着てる方が不自然か、なんてことにも取り合ってる暇が無い。
 十分以内に用意を済ませないといけない。昨日、学校や塾とか、外に出たときのままだということが鏡を見て直ぐに分かったけど、用意が無いわけじゃない。
 最低限、スマホと財布は忘れるわけにはいかない。外出用のちゃんとした鞄に詰めたい気もするけど、暇が無い。部屋の中にあった適当な雑誌付録のバッグに二つともを突っ込んだ。
 机の引き出しをまさぐって腕時計を引っ張り出す。そしてスマホの時報を使って腕時計の針を正確に合わせる。たぶん、いちいちスマホを取り出して時間を確認するヒマが惜しくなるはず。そう思って、それをした。そして正確な時刻じゃないと知る意味が無いのは言うまでもない。
 それから髪と服をばたばたで整える。悠長な気もするけど、これから出かける以上、みっともない格好は出来ない。我ながら融通が利かないけど、癖だ。ずっと気にするよりは万倍マシ、と思い込む。
 そうこうしている間にもう八分が経過していた。なんとか、ギリギリ出かけられる体裁を整えられた。
 時計を見ながら、私は考える。思い出すまでもない。頭にしっかりと刻まれているソレを、私は声に出す。
「これから、三人の友達と仲直りしないといけない。制限時間は十二時間。午後七時まで」
 とても出来そうにない課題だ。諦めてさじを投げたい。けど、例の救済措置を意識すると、それも出来ない。
「……救済措置。友達と交渉し、それぞれに欲しいもの、して欲しいことの要求を叶える。叶えると、たった一度だけ、こっちの言うことを何でも聞いてもらえる状態になる」
 本当か、と疑っても仕方ない。もうそこに賭けるしかないのだ。未だに右耳が痛くなる気がして、逃げる選択は絶対にしたくない。できない。
「そして、その一度だけを使って、私は――」

「――あの三人の顔面を、全力でぶん殴り、許してもらうことで、仲直りの証明をしないといけない」

 なんて条件だ、と嘆いてもゲームのルールは動かない。
 もしクリアできなければ私は地獄行きだ。明言された。だから、もう「もし」なんて事すら言いたくない。考えたくないのだ。
 そうこうしている間にも時間は過ぎる。一分がこんなに短いなんて、と嘆いても時計の針は止まらない。時計の針を留めても時間は経過する。
 私は一度、スカートのポケットに手を入れた。
 そこにはちゃんと捜した感触が、安物の指輪が収まっている。
 私はふとソレを取り出し、左手にはめた。さすがに昔のように薬指には入らず、左手の小指にした。ちょっと洒落たピンキーリングにも見える、というのは無理があるか。
 指輪をしたら、少し気分が落ち着いた。頭が冴えた気がしたのはさすがに気のせいだろうけど、気のせいでも冴えていることにした。寝ぼけてはいられない。
 腕に久しぶりにはめた腕時計が七時を示した。
 私は小さく息を吐き、覚悟を決める。

「……ゲーム、スタート」

 そう呟き、もう二度と開けることが無いかも知れない、自分の部屋の扉を開けた。

       

表紙

めろぅ・いえろぉ 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha