Neetel Inside 文芸新都
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PIZA’s
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【12月某日 A県某高校校門前】
霙交じりの雨が降る中、僕は誰かの傘を借りてソレがくるのを待っていた。
10分前行動、体に染み付いたやっかいな癖のお陰で肺が腐っていくようなむず痒い感覚に襲われるなんて誰も思ってはいなかった。
何故、僕がソレを待つことになったのか?
きっかけは一昨日の4限目前の休み時間に遡る。

肌寒い廊下にて、僕らは暖房機の近辺に陣取り先生が実習室の鍵を開けに来るまで暫し雑談していた。
お笑いバラエティ番組のような馬鹿話や、オタの多いクラスなのでアニメ、ゲームの話がほどんどで…僕はいつもその中に入らず
周りに合わせて笑ったり、時たま笑いのツボに入って馬鹿笑いするだけだった。
その日を除いては…
「ハラ減ったなぁ」
突如、輪の中心に居た吉川が急にそういい始めた。
始めはスベッた一発ギャグを流すつもりで言っているのだと思ったが本当に空腹のようだ。
「お前www朝メシ食ったのかよwww」
「いや、食ってねぇ…あ゛~なんか食いてぇ」
そういや僕の胃袋もさっきの授業中に唸ったな
そう言って僕は空きっ腹を摩りながら「最近ピザ食ってないな」とそう思っていた。
その時だった…この時、僕と吉川の思考がリンクしたみたいだ。
「なんかさぁ~ピザ食いたくねぇ?」
「はぁ?なんでピザなんだよ」
「そうだ!いいことを思いついた。ピザ頼もうぜ」
「ちょwwwwおまwwww」
冗談だろ?そう言わんばかりの笑いが起こる最中、僕はなんというかその…金色に光る何かを感じた気がした。
『お前のその黄金の食欲に俺の全財産(2,000円)をかけよう』副音声
「んじゃあ、僕は援助するよ」
僕はこの時、実は伝説の扉をノックしていたとは気がついていなかったのかも知れない。
だが、軽い冗談で終わると思っていた周りにとって、僕の一言はVIP的な魂に火をつけたらしい。
「じゃあ俺…五百円だすぜ」
先ほど吉川に絡まれていた片桐の目の色が変わった。
アレは…本気を出したコメディアンの目だ。
「うしっ!じゃあ俺も五百…斉藤はいくら出すよ」
「僕は千円…あと、適当になんか買う」
一度使う額を決めたなら使い切るのが僕の主義だ。
いくら負担が軽減しているとはいえ、甘えなどしない。まぁただ単純に買いたい物がないからなのかもしれないが。
「でも斉藤…それじゃ」
流石に一人で倍負担させるのは気分がよくなかったのかも知れない。
だが、ここで引くつもりは毛頭無い。
「いいんだ…こういうイベントってのは金の心配するより楽しむことを優先しなきゃいけないし
 二千円なら、ほぼ全部のLサイズの注文も出来るし、気にすんなって」
なれない笑顔を浮かべて僕は2人にそう言い、次の日にチラシと金持ってくると約束した。

次の日、アレってネタなんじゃなかったの?と金を忘れた片桐を冗談の範囲内でフルボッコになったのは内緒だ。

その次の日、僕は朝のHR前に吉川と片桐に金の有無を確認した。
もちろん、2人ともしっかりと金を持ってきている。
とりあえず、1限目から3限目にまでメニューを決めなくてはならない。
だが、予想外にその作業は遅れたが、3限目にまでは間に合った。
その間、便乗して菊山、狩田、小田らからサイドメニューやSサイズのピザを頼まれ、僕は快く受けた。
もちろん、トラブル無しの前払いだ。

4限目前の休み時間、さて…最大の問題はここだ。
少し前に僕は親とトラぶって携帯を解約された。
実は僕には連絡手段が無いのだ。もちろん、念のためにと渡されたテレカがあるが…
これがさっきから何度入れても使えない。
この時間で電話をかけないと…昼休みには間に合わない。
クソッ…教室に戻って誰かに十円借りるか…
乱暴に受話器を置き、急いで戻ろうとした瞬間、ちょうど部活の後輩がおかしな顔をしながらこっちを見ていた。
「何慌ててンすか先輩」
その瞬間、僕はデッドボールを受けた外人助っ人バリに後輩に襲い掛かり耳元で言う。
「携帯か、30円貸せ」
「は…はい…先輩?」
「いいから貸せ」
「テレカ貸しますよ?」
恐る恐る財布から出されたテレカを受け取り、何遍も頭を下げて俺はピザ屋に電話をかける。
ミックスピザとSサイズのサラミそれと…と無事注文を終えたのはよかったが、ここで僕は大変なヘマしてしまった。
とりあえず、届け先等を店員に告げた後、店員は頭から?マークを出して肝心なことを聞いてきた。
「えーと、いつ頃お届けにあがりましょうか?」
「じゃあ午後1時でお願いします。」
特に考えもせず、なんとなく僕はそう答えてしまった。
午後1時の校門前…それは生徒指導部の喫煙所、その時間帯にそこにいるということはすなわち、作戦失敗と受取人の死が決まっているようなもんだ。
「おいおいどうすんだ!?」
「もちつけwww百城(担任)ならノリでわかってくれるかもしれねぇ」
軽くパニックに陥るメンバーとオーディエンス、わかっているさ…
「僕が取りに行く…これで問題は無いだろ?」
その一言でパニックは歓声へと変わったことを確認した。
そして4限目が終わり、今に至る。

背後では4、5名の野次馬(カメラマン)達が携帯(カメラ)で撮影している中、僕は何遍もため息をしながらソレを待つ
田舎にある高校であるので目の前には彼果てた田園が広がり、その寂しい風景と雨の音で独特の雰囲気をかもしだす。
何度か軽トラが目の前を通り、その度に僕は小動物のように無駄に細かく動いて確認する。
何分たっただろうか、寒さに手が痛くなり始めた頃、ソレはやって来た。
僕は傘を上げ、ソレが校内に侵入してしまわないようにソレを停める。
赤と黄色のつなぎを来た店員が降りてくるとわざとらしい営業スマイルを浮かべながら
「ピザを注文した方ですか」
と尋ねてきた。
そこからはスムーズに進むと思っていたが、裏切られた。
バイトなのか、手際が悪すぎる。
いや、確かに注文した量は確かに多いが…遅すぎる気がする。
少しばかりイライラしながら、品を受け取り、金を差し出す。
ぴったりで出してやったからおつりにゃ心配ねぇだろ?
「レシートはいりませんから」
そう一言残し戻ろうとした瞬間、店員が止める。
「今キャンペーンでスピードくじを引いてもらっているんですよ」
しぶしぶ戻り、一枚くじを引き、開けようとしたが…駄目。
悴んでいるのか、それともクジがちょっと湿っているのか分からないが、この三角形の紙切れが開かない。
「開けましょうか?」
「ははwお願いします」
情けなく笑いながら店員にクジを渡した…その瞬間だった。
後方からエンジン音が聞こえた。
思わず振り向いて確認すると、健康的に太った事務室長が愛車のセダンで出かけるところだった。
「…なんだ…」

ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド (エンジン音)

振り返ろうとした瞬間、僕の目に入ってきたのは百城の姿だった。
まるで漫画のワンシーンを切り取ってトレスしたように、この状況はインパクトがあった。
動揺する僕を尻目にゆっくりと近づいてくる百城
『オラァ!』副音声
「…どうぞ」
僕はとっさに店員から手渡された『千円以上買えば○○農場アイスが無料になる』クーポンを差し出してしまった。
『貧弱貧弱ゥ!!!』
「…いらねぇ」
わかってたさ、叩き落とされるなんて…誰だ!ノリで許してもらえるって言った奴
説教か?没収か?と覚悟していたが、百城は通り過ぎ
「常識を疑います」
とそう一言残し、ポケットからライターとセブンスターを出した。
僕は一目散にその場を去った。
生徒玄関には一部始終撮り終えた野次馬らがヒーローインタビューを求める。
僕は一言
「もうやらないほうがいい」
とチキン発言をして、上履きに履き替えた。

教室に入るとオーディエンスはさらに増えていて、お祭り騒ぎどころではなかった。
僕は深呼吸をすると迷惑をかけない程度の大きな声で言う
「ピザ食うぞぉ!!!」

その日食べたピザとフライドチキンの味は今でも忘れられないのは確かだ。

       

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