Neetel Inside 文芸新都
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袋女
一袋目

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10月の夕方放課後、僕は片目の部分だけ穴の開いたスーパーの袋を被った女子生徒に写真を取られた。
いや、たぶん開いていたんだろうと思う。
それとも開いてなかったのか? 想像してみるに、穴の開いてない袋を被って写真を撮るのは無理だ、だから開いていた。



「マゲ、来月の文化祭ギター助っ人で入って」
昼休みパンを買いに下駄箱まで行く途中後ろからそう声を掛けたのはミツアキ、中学時代からの友人。
人付き合いが得意では無い僕にとっては数少ない友人で、対照的に明るく誰とでも仲の良くできて色んな才能に恵まれた奴だ。
「良いよ、何やんの?」
「スカパラ。 俺トランペットやるからギターいねえんだ。」
「ペット吹けんの? あー、聞く必要も無いか、ミツアキだし。」
そう笑いながら返すとミツアキは、緩くあてたパーマ頭をかき上げ、よくわかんねーよ、と笑って僕と別れた。

メロンパンと牛乳を買って自分の教室に戻り、男子4人グループに混じり他愛も無い談笑と一緒に胃袋を満たす。
さして仲良くも無いけど疎外感を感じたまま一人ぼっちで昼の40分を過ごせる程強くは無いんだ。
5時間目の開始を告げるベルは少しの安堵感と気だるい午後を知らせ、僕は自分の席に戻る。
「虎になった彼は~」
独特な喋りで現国の担当をしているクボさんだ。
1年の頃の僕の担任でもある彼は、囲碁の相手を常々探していて妙に気に入られた僕が部活動に加入していない事をしるや、
「キリシマ、お前囲碁やらんか?」と目をキラキラさせながら誘ってきた人だ。
そういえば、「マゲ」はあだ名。 単に髪を後ろで括る事があるからって理由で前出のミツアキに付けられた。

放課後、授業が終わって2時間程ほとんど毎日クボさんと囲碁を打って帰る。
ああでも無い、こうでも無いと思索に思索を巡らせるその時間はそこはかとなく充実した時間だったりする。
そして今日も盤と石を片し職員休憩室を出て、お気に入りのMDを聞きながら下駄箱で向かおうとした。
確かに僕は今学校にいて、タバコ臭い休憩室を出てSONYのヘッドフォンを付けようとしたはずだ。
目の前にいたソレは、僕自身の存在を曖昧にし確認に一瞬を費やさせる程奇怪で、
ヘッドフォンから漏れる Number Girl の I don't know の破壊的ドラムフィルと共に2回、切られた使い捨てカメラのシャッターで僕は我に帰る。
「おい」と無意識が僕の口にそう喋らせるより早くその奇怪な袋女は走り、すぐ傍の階段を駆け下り消えさってしまった。

自宅に帰り着くまでずっとさっきの出来事を頭の中にリフレインさせてはワクワクした。
スーパーの袋そのものに興奮したわけじゃない、あれが被られていたから、被っていたのが女子生徒だから。
訳のわからない言い訳のようなものを自分に言い聞かせ、ミツアキに電話をしてみた。
端的に放課後の出来事を伝えるとミツアキは
「普通隠し撮りだよな、こっそり」
「ビニール袋だぜ?色んな意味ですげえと思ったね、撮られた時」
「で、心当たりあんの? 写真撮られるような」
「無くは無いけど、背が低い子だからその子じゃ無さそう」
二人の知る限りの情報を出し合い、それが誰かを見つけようとしたけど、僕らにはわからなかった。
一頻りその話しを終えた後、バンドの打ち合わせをし電話を閉じ、布団に潜り込んだ。

       

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