Neetel Inside 文芸新都
表紙

DeathGame
ハジマリ

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・0・

僕たちは死ぬという概念について若干麻痺している。

実際に僕たちはそうなのだろうし、そこは否定しない。
なぜなら、それとは殆ど縁の無い世界にいるからだ。
むしろそれは恐ろしくない形にされている。
ゲーム・ドラマ・ニュース・小説そういう形で。
小説なんかは昔からあるだろうが、これほどまでに人の死をあっけないものとした時代は無い。
なぜといえば、世界は平和になり僕の住む国は何事も無く毎日が進んでいっている、それゆえに平和ボケしているのだ。
いや、この平和と表現すること自体僕は平和ボケしている節があるのだけれど―
それはともかくとして、僕はそういう世界に住んでいたわけだ。

そう、住んでいた。

今思い出しても後悔しか残らない。なぜ、あんなことになったのか。

僕はあのとき初めて本当の「死」を知った。


・1・

結論を言えば、僕らはとある殺人ゲームに巻き込まれた。

僕ら、というのは僕を除き12人ここにいるからだ。
呼び出されたのはとある豪邸。もちろん僕たちが行ったとき主人はそこにはいなかった。
変わりに怪しげな仮面の男が出た。
今はそのうちの一室にいる。不自然なほど何も無い部屋。
僕らはおのおのそわそわしている。当然だ。不安が募ってどうしようもない。
だが、今から思えばその不安はかわいいものだった。


誰も何も言い出せない重い雰囲気の中、ドアが開く。
そこから来たのは仮面を被った男。
そして彼は言った。

「みなさん、DeathGameへようこそ。」



さて、ここらでここまでにいたった経緯を話さなければなるまい。
いや、さほど長い話ではないから安心してくれていい。

まず軽く自己紹介をしておこうか。
僕の名前は柩 黒衣(ひつぎ こくい)。苗字はあまりよろしくない漢字だが(名前もいささか不吉だ)、いたって普通の高校生。成績普通。運動神経普通。容姿普通。背丈、体重、その他身体測定事項は全国平均値。
全く、普通という以上何も表現できない普通だ。ここまでくると没個性というどころか個性的であるのが全く不思議なのだが、そこに関してはこれ以上説明する意味も無いだろう。
ちなみに将来の夢、なしである。

自己紹介はそんなところで。
質問はありますか?うん、無いね。
さぁ、では事の始まりを話そうか。

それは、二週間前のことだ。
一通の郵便が届いた。

それにはこう書いてあった。

「貴方は選ばれました。」

このとき僕は、どっかのドラマかゲームかに影響された馬鹿なやつの悪戯だろうと思っていた。
君もそう思うだろう?こんなのベタすぎる。
まぁ、明日の雑談のネタにはなるだろうといった感じで、とりあえず最後まで見てみた。

「貴方は選ばれました。私たちはとあるゲームをしたいと思っております。残念ながら内容は来ていただける方にのみしかお伝えできません。その代わりといっては何ですが、参加していただける方には一千万円、前払いで差し上げます。参加していただける方はこちらにお電話ください。TEL090-×××ー×××。では、お待ちしております。」


「全く、ここまでくるとあほらしい通り過ぎて尊敬するな。」

読み終わった時点でもうすっかり興味をなくしていた。

そうして翌日、いつもの仲良しグループでそのことを話したのだが、みんなあほらしい、と一蹴されててすぐ別の話題になった。
当然か。こんなあやしい、しかも面白くない話など誰が好き好んで話すんだ。
しかし、帰り道そのグループの一人、空絵 真紀(からえ まき)に声をかけられた。

「ねぇねぇ、柩。」

「ん?何?」

「今日言ってた手紙のこと・・・なんだけどさ。」

「ん?もしかして犯人はお前だったのか?」

「い、いや、違うよ!違うけど・・・。」

「何?」

いつもはもっとはつらつとしている女の子である。どうしたのだろうか。しおらしい顔をしている。
余談だが、いつもとの彼女のギャップに若干へんな気分だ。恋、ではないな。
萌えとはよくわからない言葉だったがコレかもしれない。いや、すまない妄言だ。
僕の変な言葉のボキャブラリー増加はどうでもいい。
つまりは彼女に何かあったということだ。どうしたのだろう。しかも手紙のことだなんて。
色々考えていると、彼女は小さい声で言った。

「あの、ね。私のところにも来たんだ。その手紙。」

「えっ!?」

「これってもしかして、本物、なのかな。」

「いやいや、違うでしょ。犯人さんはよっぽど暇なんだろうよ。」

「だと、いいけどさ。」

「そうだよ。」

一瞬会話が途切れる。
だが、それはほんの一瞬。
暗い顔から一転、彼女は笑顔になった。

「そっか・・・。うん!そうだよね!深く考えすぎてたみたい。帰ろっか!」

彼女はさっきとうって変わって元気になった。これがいつもの彼女だ。
それでいい。何も変わらない方がいいんだよ。
コレはただの悪戯。きっと他にももらったやつはいるだろう。

でもその安堵は、むしろ不安を表していたのかもしれなかった。


翌日、念のためさりげなくいろんな人に話を聞いたが、手紙をもらった人は僕たち以外誰もいなかった。





     

・2・

さて、こうしてこの手紙が僕たちだけを狙ったものだと分かった。
でも、ここに疑問が残る。

一体なぜ僕たちなのか。

僕だけ、あるいは彼女だけなら個人的な恨みがあってもおかしくは無い。
だが、そうだとしてもあれはなんの恨みも晴らせていない。
そんな回りくどいことをする必要は無いのだ。つまり、その線さえ薄い。
しかし、グループの中で特別仲が良い訳でもなく、まして付き合ってなどいない僕たち二人だけを狙うのは明らかにおかしい。
ここでヒントになりそうなのはやはり手紙の「選ばれました」という文字。

「選ばれました」

つまり、僕たちは選ばれるだけの何かを持っているということなのか。しかし、適当に選んだ可能性も否定できない以上、これも答えは導けそうに無い。
というわけで、結局何も分からないままに終わった。
だが、まだ問題はある。

このことを彼女に言うべきなのか。

彼女は必要以上に怖がっていたように見えた。
僕たち以外に手紙を受け取った人がいないことを告げていいものなのだろうか。
言えば彼女はまた怖がるだろう。
反対に言ってもなんのメリットも無い。
つまり、どうすべきなんて分かりきっていた。

だが、翌日、僕は彼女に告げた。
僕はこの不安を自分ひとりで抱える勇気が無かった。
なんて意気地なしなんだろう。自己嫌悪してももう遅い。
彼女は再びうつむいた。

「そう、だったんだ・・・じゃあアレは・・・」

「もしかしたら本物かもしれない。冗談にしても何故か僕達だけを狙ってる。」

「・・・何で?」

「分からない。昨日考えてみたけどさっぱりだ。ねぇ、空絵は僕のこと好きだったりする?」

「・・・っ!?そ、そんなわけ無いじゃない!・・・っていうかいきなり何なの?今はそんな話してるんじゃあないんだよ!?」

彼女の顔が赤くなる。多分恥ずかしさと不真面目な僕への怒りのせいだろう。
だが、僕だってなにも彼女をいじる為だけにこんな質問をしたんじゃあない。

「いや、君のストーカーが君と君の好きな人を狙った犯行かも・・・って今思ったんだけど。ほら君かわいいし。」

「なっ、何言ってんの!?そそそそれだったら柩はどうなのよ!柩のストーカーかもしれないじゃない!」

「ああそれもあるね。いやむしろそっちの線のほうが高いかもしれない。犯人が僕の気持ちを良く知っているのなら、空絵を狙うことも説明がつく」

「えっ!?」

いよいよ本当に彼女の顔が真っ赤になる。これは恥ずかしさだけによるものだろう。
さて、いい加減にしないとかわいそうだな・・・

「嘘。嘘だ。ジョーク。イッツアメリカンジョーク!」

「・・・」

一瞬時間がとまったようだった。ゴメンなさい。
一応、僕も彼女の不安を除くため場を盛りあえようとしたのだが・・・どうも僕には笑いのセンスがないようだ。
僕が止めた時を再び動かしたのは彼女だった。
ポツリ、と呟いた。

「これ、大丈夫なの?」

「多分ね。」

冷たい言い方だったかもしれない。だが、この状況で確証が持てない以上無下に大丈夫とは言えない。
だが、彼女はそんな僕の考えも知らず、怒りが頂点に達したようだ。

「多分って!人事みたいに言わないで!君だって危ないかもしれないんだよ?」

「?」

おかしい。この会話には明らかにおかしいところがある。
そう、なぜ僕たちはこの手紙をそれほどに恐れる必要があるのだろう。
危ないことなんて手紙には何一つ書いていない。ゲームとやらに参加しなければそれでいつもの日常だ。
ゲームに参加しない限りは。
だったらこの不安はいつからだろうか。彼女と話してからだ。
空絵 真紀、彼女と話してからだ。
彼女は必要以上に怖がっていた。必要以上に。
つまり、彼女は何かを知っている。単に想像力があるだけで逆上するほど怖がるなんて事はまずない。
だったら確かめる必要がある。・・・いや、知っていることを聞きだす必要がある。

「なぁ」

「何」

「なんでお前そんなに怖がってるんだ?ゲームに参加しなければいい話だろ?・・・それともお前何か知っているのか?いや、知ってるんだな、空絵?」

「・・・!!」

彼女は驚いていた。図星のようだ。彼女は何かを知ってる。だが、何かを話す気配は無い。

「何も言わないか・・・。じゃあ俺の質問に答えろ。お前は敵か?」

僕はわざと強く言った。本気で彼女を敵だと思っちゃあいない。だが、口を開かせるには強く言う必要がある。

「ち・・・違うよ。」

返事はひどく弱弱しい声だった。

「じゃあお前は何を隠してるんだ!!!」

「ひいっっっ!!」

彼女はたたかれるのを恐れたのか顔をそらし、顔を手で防御した。
違うんだ・・・僕はおびえさせるつもりじゃあ・・・

「・・・ごめん。だけど僕も正直不安なんだ。だから同じ境遇同士よかったら話してくれないか?」

「・・・」

再び沈黙。だが、数秒後彼女が口を開く。

「・・・私、もうエントリーしちゃったんだ。」
















       

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