【連載雑誌】 週刊ヤングVIP
【タイトル】 アポロ
【作者名】 Dorir
【ジャンル】 戦争
(粗筋)
ジャックは、放火犯により妻子を殺害された過去を持つ、自暴自棄気味な職業軍人。今日も、自身の人生に終止符を打つ為に、強力無比な火力を持つ無人兵器「アポロ」の跋扈する戦場へと出向いていた。間も無く、見慣れない「アポロ」と会敵し、その攻撃によって同隊は壊滅的な被害を受ける。成す術なく、戦死を遂げていく仲間達。だが、唯一、ジャックだけが、爆風によって気を失ったのみで、不運にも生き残ったのだった。
行動の真意は何なのか。病室で目を覚ましたジャックの下に、リバー・A・キング少佐が訪れる。事の詳細を執拗に問質す少佐。語られたのは、破棄された筈の旧型「アポロ」である、「AT-55」との交戦。そして、「アポロ」製造元での勤務暦を持ち、ジャックとも親しい技術者サム・ローデンの存在。少佐が病室に後にすると、ジャックは記憶を甚振り、皆の死に涙した。
後日、全快したジャックは退役を控えて、偵察任務を志願する。最後に、戦友の亡くなった地を見直す為に。少佐はそれを許可する。「AT-55」による「単独行動」と「虐殺」、生体反応の無い「人間」、目立ち始めた「アポロ社」。様々な謎を残しながらも、戦場を去ろうとするジャック。偵察を終えようとする彼の前に、現れたものとは……!!
(解説)
飛び散る内臓、爆ぜる頭部。四肢と眼球が転がり、嘔吐物と血液が廃墟を満たす「戦場」。無人兵器「アポロ」の誇る圧倒的な破壊を前に、人間達が逃げ惑う様子を淡々と描いているのが本作だ。
まず、最初に読んでみると、グロテスクな描写よりも先に、題名でもあり、物語の最大の肝である「アポロ」の強さに驚かされる。大口径の火砲、積載された装甲、精密な照準、人間を的確に捉える策敵装置、不整地を何ともしない走破性。武装した軍人達が、抵抗の余地も無く、一方的に蹴散らされていく。只管に強い。
そして、これが決して現実離れしていると言い切れないのが、この漫画の面白いところだ。中東で活躍する実在の無人兵器を始め、米軍が陸上車両の半数無人化を標榜する昨今、「アポロ」のような兵器が絶対有り得ないとは誰にも断言出来ないだろう。作者が描く直前に決めたというシンプルな「アポロ」のデザインは、返って的を得ている。
また、人間的なドラマも見逃せない。家族を失い、自身の死を望んでいる主人公。だが、彼は戦場でも、戦友に先に逝かれ、取り残されてしまう。周りの者を失う度に、その大切さを知っていく。これは、形は違えど、現代人にもよく当て嵌まるんではないだろうか。
散りばめられた「謎」も、忘れてはならない。読者を引き付ける大きな要素であり、伏線とも取れる節々の描写が、静かに物語を盛り上げている。
ジャンルは「戦争」となっているが、この漫画はミリタリーであり、ホラーであり、サイエンスフィクションであり、ミステリーだ。
まだ、絵は拙いが、衝撃的なセンスを持つ新鋭作者「Dorir 」が描く「アポロ」。まだ連載中だが、温い漫画に飽きた読者に、お勧め出来る一作。