こうして、今日も夕日が落ちていく。街は煙たい夜に包まれ、次第に静かな物腰で動き出す。
俺は街の歯車として今日も一日、仕事をやりとげた………それなりにだが。
仕事の鞄を助手席に置いて、俺はまた、今日もあの青いビニールシートの屋台へ向かっていた。
何時もの様に広告塔の周りをグルグルと回る………警察官や刑事らしき風貌が辺りに無いと確認する。
足早に人の流れを掻き分けて行き、ブルーシートの中へと声をかける。
「今日は三………」
何時も並んでいるジャンク品を、見た事も無い手が遊ぶ様にいじくっている。
その腕が細いのは前の店主と変わらないが、汚れ一つ無く、気品さえ漂う様なその雰囲気は、
明らかに貧弱で毛むくじゃらなアジア系の店主の物では無い。
後ろで流れる人の流れ、そこから聞こえてくる喧騒が、冷たく静かになっていくのを感じた。
俺は、白い息を吐きながら、ゆっくりと顔を見る。
―――そこには、狐の様に細い目と尖った唇をした細身の男が鎮座していた。
一瞬の沈黙―――明らかに刑事の類では無いが、一般人でもないという推理。
とにかく、何が何だか解らないが、平静を取り繕うとする。
「………ジャンク屋の息子さんかい」
「ビデオ屋さんの間違いでしょうかねえ?」
ほんの数秒の間も空かずに、俺の核心へと突き刺さる質問が帰ってくる。
ギョッと驚いた顔をしてしまい、俺は思わず顔を崩してしまった。
あわてて地面に並べられたジャンク品へと視線を逸らすが、狐男は、
まるでそれを楽しむ様にニヤリと口元を歪ませた。
「付き合ってもらいますよ、デッカードさん」
「………」
突然、左右から二人の男が、俺の自由を奪った。その二人は黒服などは着ている筈が無い。
その動きと風貌は、街中に自然に溶け込んだ、完全な現場実行部隊の類だからだ。
反抗する訳にはいかなさそうだった。もちろん、その二人の動きからもだったが、
それ以上に、俺の背中に突き刺さる冷たい鉄筒は、反抗心を吹っ飛ばすには充分すぎた。
「お前は………っ」
「ここで喋ってもらったら困るんですよねえ、デッカードさん。
私等だって、こんなとこで殺人したい訳でもねえ?」
狐男の視線が少し動いただけで、後ろの二人がさらに鉄筒を背中に捻り込んで来る。
ここで俺に喋らすつもりは無いらしい………俺は素直に従い、口を閉じた。
「………」
「そうそう、上手ですよ、じゃあ付いてきてくださいねえ」
甘ったるい話方で、しかし冷たく、この男は俺の言動を制していく。
恐らくかなり場慣れした奴………それもこの若さで部下が二人以上。
どこかの組織の有力な若手?しかし、顔を見てみても名前は出てこない。
………いや、そんな事はどうでも良い。問題はなぜ俺が捕まったかだ。
そして、その理由が言葉による交渉が効かないのなら、俺は………。
俺の顔が、廃工場群へと向いている、それが俺の未来を教えてくれいた。