ルオは疲れたらしく剣を振るのを止めて、肩で息をする。
ガルフのほうも少し息が上がっていた。横目でさっきの男"シフト"に目が行く。
しかし、今は気にする事は出来ないから軽く流し、ルオと目を合わせ短剣を構える。
「ガルフ……」
ガルフには、ルオが呟いた言葉は届かない。不意に風が2人の髪をなでるようにして吹く。
ルオは両手をかざし、呪文を唱え始める。ガルフはその間息を整える。
「バーニング・フレイ!」
炎の玉が放たれ唸りを上げて向っていく。だが、その炎の玉はガルフには向っていない。
「な! そんな!」
怖いもの見たさで残っていた人達のところに向っていた。キリタは走りその団体の前に出る。
真正面からぶつかり爆発音が鳴り響き、視界を悪くさせる。
「キリタ先生!」
煙の中からキリタが姿を現す。笑ってガルフに話しかける。
「こっちは任せろ。ガルフ……」
ガルフは下を向き、肩を震わす。
「なぜ、一般人を巻き込むのですか?」
「……黙れ」
顔を上げてルオを正面から見つめる。そのまなざしは厳しく悲しい目。
「ルオ先生。そろそろ限界です」
ガルフは集中力がきれかけていた。そして、気も。
「ならば……これで終わらすぞ。最後の一撃だ」
「はい」
ガルフはルオを厳しくにらみつけて、ジリジリ一歩ずつ間合いを詰めていった。
ルオもガルフの間合いを知り尽くしていて、間合いに入らせないようにしている。
思い切って踏み込み、間合いを詰める。が、その分ルオがさがり間合いはさっきと同じになる。
ガルフは待てなくなって、剣を振り上げ飛び上がる。ルオはその隙に呪文を唱えだす。
「! やばい!」
空中にいるときは方向転換が出来ない、従って魔法をもろに喰らってしまう。しかしもう戻れない!
ルオが少し唇を緩ませ笑う。手を飛んでいるガルフに向ける。手のひらから青い光が散っている。
「ウォーター・バシリッド!」
ルオの手のひらから水の塊が放たれ、ガルフに向ってくる。ガルフは覚悟を決め、その塊を切り捨てる。
それを見てルオは軽く舌打ちをし、跳躍してガルフとすれ違いざまに一撃入れる。
ガルフの右肩が血でにじみだす、剣を仕方なく左手に持ち替える。
「ガルフ、聞き手と逆で勝てるのか?」
「知らないよ! ただ……」
自分の剣を握っている左手を見てガルフは話す。
「左手で持ったとき……血が騒いだ。なんか、自分じゃなくなるような感じ」
ルオはそれを聞き終えると、間合いなど気にせずに跳びかかり、斬る。
ガルフはそれを楽に左手の短剣で受け止め、剣を払い斬り返す。
軌跡は顔に行きルオの顔に少しかする。ルオは以外な事に驚き退く。
ガルフも自分自身がしたことが判らなかった。
「くっ、このぉ!」
ルオは己を忘れて、剣を振り上げ跳びかかる。ガルフはそれをさらりとかわして後ろから剣を振る。
ルオの後頭部の上でぴたっと止まった否止めた。ため息をついて緊張をとき、ガルフに話しかける。
「殺してくれ、ガルフ。俺が俺じゃないみたいだ」
ガルフは躊躇し、首を横に振り必死に抗議する。
「先生。大丈夫、俺が何とかしますから……」
今度はルオが首を横に振る、カルリが悲しい目でルオを見る。カルリは、付き合いが長いルオの行動を悟る。
「ルオさん……そうですか」
キリタは集まっていた人達を帰し、ルオを見て表情を曇らせる。
「……悲しいものだな、ルオさん」
「嫌だ! ルオ先生。戻ってきてくださいよ、道場に! また教えてくださいよ……」
ガルフは涙を流して、必死に抵抗する。ルオは振り返り、額を押さえたままガルフの頭を抑えなでる。
「強くなれ。ガルフ」
「え?」
胸が張り裂けそうになり、悲しみがこみ上がってきた。
顔に何か液体が付き、なんだろうと手で触る――それは血だった。
ルオは自分の剣を心臓に突き刺しており、それの血だった。
力無く地面に倒れこんだルオを見つめるしか出来なかった。
今起こったことについての考えが追いつかない。頭の中が真っ白だ。
ルオは笑ったまま絶命した。キリタがゆっくり歩み寄ってきて呪文を唱える。
「ホーリー・シルクレット」
キリタの手から優しく温かい光が出て、ルオを包む。その光にかき消されてルオの姿は消える。
キリタがガルフの肩に手を当ててしばらく黙っていたが、何も言わずに道場の中へと消えていった。