目を開けると女が立っていた。黒の長髪、見慣れないセーラー服、そして刀。うちの学校の生徒ではないと瞬時に判断する。
なぜなら俺の知る限り、うちの学校に刀を振り回す授業はない。そもそも、知らない顔だ。
で、俺は今何故か地べたに仰向けになり眼前数cmのところに刀の切先を突きつけられている。
右手に重たい感触。形状、触り心地から言って、銃だろうと確信する。さらに俺の思考は乱れていく。
何故俺はこんな女に刀を向けられているんだ? 人違いじゃないのか?
俺はいったい今どこにいるんだ? 彼女は誰なんだ? そもそも俺銃刀法違反じゃん。
ともかく誤解を解いてもらわねば。そのためにはまず敵意がないことを相手に伝えなくては。
相手と話すとき相手の眼を見て話すのは禁物なんだぜ。高校の面接の時の教則本に書いてあったんだ。
逆光でよく見えないけどとても綺麗な顔立ちをしている。正直俺好みだなあ。
風が心地良いやぁ…、おっパンチラげtt……
さくっ、と小気味よい音がした。
「い…痛ッてえぇぇぇえええぇぇええぇえぇぇッ!!」
この女ッ…何の躊躇もなく、眉間を割りやがったっ!
「眼ェ、醒めた?」
「……なんなんだよっ、この状況…!」
「…わからない?」
「わかるかどうか以前にっ…おまえ、人の眉間をっ……裂くなッ!」
鼓動とともに頭に鈍痛が走り、考えることが困難になっている俺は本能に任せて逃げ出そうとした。
が、どうもうまく立ち上がれない。足元を見ようと視線をさげたところ、足はなかった。
「…斬った?」 「斬った」
「どこにやった?」 「使わないだろうから、捨てた」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!
俺足ないじゃんどうすんのさ誰か教えてよねえねえねぇッ!!!
「どうすんだよ俺明日の修学旅行明けにはバスケの大会があるってのになにしてくれんだよそもそもお前誰だよおれの足返せy」
「るさい」 女が俺の喉元に刀を向ける。
「じきにあんたは目覚める。体も元通り。明日からの修学旅行にも行ける。…ただ」
そこで一旦言葉を切ると、微笑んで言った。
「ただ、忘れないでほしいことは…」
女の言葉を十分に聞き取る間もなく、急速に意識が遠のいていく。
「…生きて、今を」