fifty five〜55番
MISSION No.0
2002, Friday,August 10th.
豪華客船にて。
今日、俺は政治家やシークレットサービスが集まるパーティーに出席をしていた。
メインホールでの、主催者や政治家が演説をしていたその時。
突如、何者かがお偉いさん達を撃ち、大勢の観客の前で殺してみせた。
いきなりの出来事に騒乱する人々。
犯人「死にたくない奴は床に伏せろ!この船は俺達が乗っ取った!」
そう大声で叫ぶと共に、人々は恐怖心に煽られ、床に伏せた。
そんな中、特殊要員として呼び出された俺は、当然犯人を確保、もしくは殺さなければならなかった。
スーツケースに忍ばせておいたPPKとM24を取り出す。
殺す他無かった。
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2001, Thursday, August 9th. 事件の前日。
―――俺は今まで眠っていたようだ。目が覚める。
俺はすぐに異常に気付いた。
・・・体が動かない。何も見えない。
必死に動こうとしても無駄だった。何かに縛り付けられているらしい。
そもそもここは何処だ。
この臭い、明らかに自宅ではない。少し古びた鉄の臭い。地下施設?
束縛された俺の目の前で、書類をバサバサと捜す音が聞こえる。
―――俺の目の前に何かがいる?
やがて音が収まる。書類が見つかったのだろうか?
その目の前にいる「何か」がその書類を読み上げる。
コードネーム:No.55
国籍:アメリカ
性別:男
年:38歳
習得済み言語:英語、中国語、ロシア語、日本語、イタリア語…etc
経歴:元海軍所属、階級は若くして大佐にまで上り詰める
様々な紛争に幾度も関わったが、その持ち前で生存する
過去にはデルタフォース、SAS、陸軍。実に様々な部隊を転々と渡り、優秀な功績を残していった。
IQ185。得た資格は実に様々…
俺のステータスだった。
「素晴らしい…申し分無い…わが国にもこんな人材がいたとはな…」
俺の目の前で誰かが囁いている。
「ここは…何処だ?どういうことだ…」
目には手ぬぐいを当てられ、更には手足が鎖で縛られている始末だ。
誘拐でもされたのか俺は… しかしそのようなことは全く記憶に無い。
「気が付いたかね?No.55。」
奴は何も悪いことはしてないかのように悠然と話す。
「俺をさらっておいてその態度はなんだ?ここは何処だ?早く離してくれっ!
お前、自分のやっていることが分かっているのか!?これは拉致監禁と言う立派な犯罪だぞ!」
溜まった鬱憤を破裂させるように俺は奴に言った。
「まあ待て。落ち着け。落ち着くんだ」
「こんな状態で落ち着いてられるか!アイマスクくらい外せ!」
「分かった…おい、アイマスクを」
誰かに頼んでいる。一対一では無いようだ。
「失礼」
明らかに女性の声だった。
俺はアイマスクを外され、新鮮な視界が広がる。
目の前には椅子に座っている眼鏡をかけた五十代半ばくらいの男。そして奴と俺の間に小さいテーブルが一つ。
そして何よりも、部屋全体が白1色だったことが驚きだ。
身体全体を椅子に固定されていたため、後ろにいる女性は見ることができなかった。
俺は奴に話しかける。
「これはどういうことだ。金目当てなら他を当たってくれ。」
「いや…生憎そういった者ではない。私に犯罪に手を染める度胸は無いよ。」
人を拉致監禁しておいてか? そう言いたくなったがここは抑えた。
奴は続ける。
「…君も、何でここに連れてこられたか、大凡の見当はついている筈だ。」
「・・・・・」
俺は答える術が無かった。
「安心しろ。別に悪いようにするつもりはない。ちょっとした頼み事を、な。」
確かに暴漢の類ではないらしい。いや、それよりもたちの悪い・・・
「・・・・・」
俺がしばらく黙りこんでいると、奴はフーッとため息をついた。
「君の力を貸してほしいんだ。」
「生憎だが断る。俺は誰かの道具にはならない。五年前に決めたことだ」
「・・・」
奴は何か考えているようだった。
「俺にはもう何年ものブランクがあるし、人殺しの趣味はない。
くだらん殺し合いゲームはあんたたちで勝手にやってろ。俺には関係の無いことだ。
そもそも何故俺なんだ?優秀な人材は他にも―――」
「そこまで言うのなら仕方がないな。」
俺の話を遮り、奴は言う。説破が詰まったような様子だった。
「おい、あれを頼む。」
奴は例の女性に呼びかけたようだ。何かが始まるらしい。
部屋の奥にスクリーンと映写機のようなものが出現した。
「・・・何をする気だ。。。」
「観ていればわかる」
スクリーンに映像が映される。銀行の防犯カメラの映像だった。
人々の声と、機械の雑音が休み無く聞こえる。
どこにでもある光景だった。
ところが、その長閑な様子も十秒くらい経過したところで突然変貌する。
「なんだこれは…」
人々が悲鳴を上げた。 銀行に強盗が押し入ってきたのだ。
銃を持った二人組みの男。縞模様の服を着ている。
―――マスクを被っていない?
その二人の男は黒いバッグと拳銃を銀行員に突きつけた。金でも要求しているのだろう。
一人(A)が金を巻き上げている間に、もう一人の男(B)は客を見張っている。
Bがふと、こちらの監視カメラと目が合った。
「そんな馬鹿な…」
俺は、あらずべき真実に絶望するしかなかった。
奴はまさしく俺の顔だった。
銀行強盗犯Bは、驚くほど顔が俺に酷似していた。
いや、顔だけではない。銃を左手で持つ独特の構え方や、癖。全く俺と同じものだった。
Aが金を根こそぎ奪い取ると、二人の男は銀行から出て行ってしまった。
映像が終わる。
男が再び口を開いた。
「…何か、気付いたことはあるかね?」
「いや、何も無いな」
「おい、例のシーンまで巻き戻してくれ。」
映像が巻き戻る。強盗が侵入してから少し後の様子。
Aが金を押収している最中に、Bがこっちを向いた。
「…止めろ。Bの男の顔を拡大してくれ。」
Bの顔がスクリーン全体に映し出される。
「この顔に見覚えはないか?」
やはりどう見ても俺の顔だった。
「俺は強盗なんてした覚えは無い。本当だ」
奴は何時見ても無表情だった。奴の眼鏡が光る。
「…これは、一昨日に起こった事件なんだが…犯人が未だに捕まっていない。」
「・・・・・」
「犯人がここにいるからだ。」
「違う!こんな筈は無い!俺は強盗なんかしていない!こんな馬鹿なことは…!」
「言っておくが、この映像は合成などではない。列記とした真実だ。
ふむ…この強盗犯は、顔だけではなく君の癖も同じなようだな…。」
俺に弁解の余地は無かった。
「この証拠文献を提出すれば、君は間違いなく有罪となるだろう。」
「あんたらは何処まで腐っているんだ… 俺を脅すつもりか」
「だからさっきも言っただろう。ちょっとした頼みごとを聞いて欲しいだけだ。
我々も私も、こんなことは好きではやっていない。我々にはもう、後が無いんだ。分かってくれ」
「本当はどうだかな。信用できない奴にいきなり頼みごとを強いられて断らない奴がいるか。
俺だったら、その偽者を捕まえて自分の無実を証明する。
お前らの思い通りにされてたまるか。」
俺は奴に言ってやった。後悔はしていない。
なぜなら、俺には偽者を捕まえる自信があったからだ。
それに、別に投獄されてもよかった。
「おい、いい加減解いたらどうなんだ」
チェックメイト。