Neetel Inside 文芸新都
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見つからない、離れない
見つからない、離れない 11

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 流子は目を覚ます。
目をこすりながら、ベッドの横のパソコンデスクに置いてある携帯電話を、手にとって開く。
十一時二十四分。折角の土曜日なのだから、もう少し寝ていても良かった、と流子は思う。

 ベッドに寝ながら、昨日記憶させられた十一桁の数字を携帯電話に打ち込む。
「はい、もしもし」
三回目のコールで相手が出た事により、アパートの302号室で見た光景が夢でなかったと証明された。
今いるこの世界が夢であるという可能性を、完全に無視すればの話だが。

「草薙です」
「あ、草薙様。昨日は有難うございました。大変参考になるお話をしてくださった甲斐あり、捜査は順調に進んでおります」
相変わらず気味が悪い。
「何か新しく分かった事はありますか?」
流子は社交辞令で聞く。

「はい、お陰様で。まず、遺体の男性の方なのですが、捜索願が出されておりました、黒澤弘樹(くろさわ ひろき)様であると判明致しました。ちなみに、黒澤弘樹様と相生聡子様は、共にK大学の学生であったとのことです」
「はぁ」
「それと、相生聡子様の死因ですが、体内から毒物が検出されました。一応、毒物の名称は、今のところは伏せさせていただきます」
「はぁ」
「それと、相生聡子様の、手首の切断面の近くに置かれていた手の事なのですが、別人のものだと判明致しました」
「・・・はぁ」
「今のところ、手が誰のものであるか、手を失った本体はどこにあるか、分かっておりません。いずれ判明するものと思われます」
「はぁ、それで・・・」

 流子は、気にしている事をさりげなく聞く。
「まだ、犯人は確保されていないんですね?」

「はい。しかし、大体見当はついております。下調べが完了し次第、今日にでも逮捕に踏み切る所存でございます」
警察というのは、案外のらりくらりしているのだな、と流子は感じる。

「ありがとうございました」
流子は電話を切り、ベッドから這い出た。

 洗面所で顔を洗い、歯を磨く。
鏡の中の人物を睨みつける。
寝ぼけた顔しやがって。

 部屋に戻り、クローゼットを開け、灰色のシャツと、黒のパーカーと、黒のジーンズを取り出す。
自分の体温で温まっているパジャマを脱ぎ捨てるのは惜しいが、仕方が無い。
黒の靴下を履き、黒い文字盤の腕時計をつける。

 母親に選んでもらった服を着ていた幼稚園の頃の自分は、もう少しカラフルだったと、流子は思い出した。
自分で服を選ぶようになってからは、意識せずして黒くなった。
黒い服ばかりを着る自分に、母親は、流子は肌が白いから黒が良く似合うね、と言った。
母親にそう言われた日から、何度も何度も記憶の入れ替えが行われているのに関わらず、記憶の中にこの台詞は在り続ける。
理由は分からない。

今日、流子にはこれといった予定はなかった。
だが、何となく漠然と、外に出たい、と思ったのだ。
流子にしては珍しいことと言える。

「さてと」
流子は一人で小さく口にする。
本屋にでも行こうか、喫茶店にでも行こうか。
それとも何か、変わった事でもしてみようか。

       

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