我が闘病
第5話
つっけんどんにそっぽを向くあなた
くるおしいほどの愛嬌をくれるあなた
生きてきた永い時間の意味ならばきっと
そのコントラストを見つける為の旅だったんだ
-第5話-
「キラ様、お目覚めになって」
誰かが僕を揺さぶる。
愛玩しているバター妹の声だった。
そうだ、僕は毎朝この声で目覚めていた。
妹の亜菜瑠(あなる)は小6の頃から(現在)中2に至るまで、いつか僕と交わした約束を忠実に守っている。それは僕の毎朝の愉しみだ。
この日課を実現させる為のエピソードについても、またいつか別の機会に話そうと思う。
亜菜瑠の少し世間知らずなところは、幼少の頃から少しも変わりはしない。
だが、神様…そんなものいるわけがない。釘宮様に誓って言う。やましきことは一つもない。忠実さ故に、バターと表現しているだけだ。
そして、毎朝の愉しみだったこの声に、全く感情が揺さぶられない。
「亜菜瑠(あなる)か…今何時だ?」
「7時ですわ」
いつもの起床時刻だ。
一向に気分が冴えない。そして僕にはやるべきことがあった。
「今日は体調が悪いから、学校休むってお母さんに言っておいて」
「はい、キラ様」
妹は、そそくさと僕の部屋を後にした。
僕は昨夜から起動したままのPC/AT互換機に向かい、nyを起動した。
昨晩体験したゼロ時間の余韻だろうか、何やら隣り合わせに死を感じる。だが、それがなぜか心地よい。どこか逸脱した精神は、少しずつ鋭利さを増していく。
とにかく、あの快感をもう一度味わいたい。毒性?依存性?なんだって構わない。
案の上、大量のaviファイルのダウンロードに成功した。
1期・2期合わせて5・16GB。途中でディスク容量が不足した為、アンチウイルスソフトとofficeをアンインストールした。
そして僕は再び、ゼロ時間へ舞い降りた。
麗しきルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール…
どうか聞いて下さい。馬鹿犬ならここにおります。
胸の小ささを気に病まないでください。それもまた、あなたの魅力です。
ああ…あなたはガンダールヴに恋をしていらっしゃるのですね。
あなたが幸せならば、私は涙を飲みましょう。
ただしガンダールヴがあなたを傷つけるたびに、私は殺意を抑えきれません。
ヴァリエール嬢に全てを奪われた僕は、ディスプレイ越しにヴァリエール嬢に話しかけ続けた。報われない恋だとは分かっている。それでも僕には彼女しか見えない。
これが例えアニメーションの世界だろうと、この声の主、釘宮様は実在する人間だ。
そう、虚無の魔法は2次元を超えて、僕を包み込んだんだ。
離したくない。