ツンデレばあちゃん
アップルジュース
「兄ちゃん、だいじょうぶ?」
「え………ああ、うん」
妹が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
季節は一月、寒さ真っ只中の僕に、お墓は何も答えてくれない。
むしろその冷たそうな墓石が、気温の低さを僕に訴える様にさえ思えた。
そんな中では、この土の下で眠るお婆ちゃんとの思い出すら蘇らず、
僕は不謹慎にも甘酒でも買って飲みたいと思い始めていた。
「お母さんと一緒の墓の中で、お婆ちゃんも嬉しいんかな」
「うん………そうかな、そうやな」
妹はそんな中でも、墓の方をじっと見つめて、昔に浸っている様だった。
思えば妹は一番、母親やお婆ちゃんと仲良く暮らしていた様に思う。
いや、どちらかと言えば、僕が中学生の頃から段々と親離れしていったから、
二人が妹を溺愛していたのだろう。なんせ家族でたった一人の愛嬌の人だ。
妹が一人暮らしを始める時、二人は薄っすら涙を浮かべる程に猛反対したりしていた。
僕の時は素っ気なく許可していた癖に………。
逆に妹も、母親が死んだ時には失神するかと思うほどの泣きっぷりだった。
やはり、妹も母やお婆ちゃんを好きだった。
そう思うと、今泣いていないのはどうだろう。
いや、そう言えばもう妹も十六歳だった。
「え………ああ、うん」
妹が心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
季節は一月、寒さ真っ只中の僕に、お墓は何も答えてくれない。
むしろその冷たそうな墓石が、気温の低さを僕に訴える様にさえ思えた。
そんな中では、この土の下で眠るお婆ちゃんとの思い出すら蘇らず、
僕は不謹慎にも甘酒でも買って飲みたいと思い始めていた。
「お母さんと一緒の墓の中で、お婆ちゃんも嬉しいんかな」
「うん………そうかな、そうやな」
妹はそんな中でも、墓の方をじっと見つめて、昔に浸っている様だった。
思えば妹は一番、母親やお婆ちゃんと仲良く暮らしていた様に思う。
いや、どちらかと言えば、僕が中学生の頃から段々と親離れしていったから、
二人が妹を溺愛していたのだろう。なんせ家族でたった一人の愛嬌の人だ。
妹が一人暮らしを始める時、二人は薄っすら涙を浮かべる程に猛反対したりしていた。
僕の時は素っ気なく許可していた癖に………。
逆に妹も、母親が死んだ時には失神するかと思うほどの泣きっぷりだった。
やはり、妹も母やお婆ちゃんを好きだった。
そう思うと、今泣いていないのはどうだろう。
いや、そう言えばもう妹も十六歳だった。
「もうそろそろ帰ろうか」
「………うん」
妹にそう告げながら、周りをグルッと見回す。
墓石の前で小一時間ほど、周囲の親族も皆帰っていた。
流石にこの寒さの中で、いつまでも立っていれる人も居ないだろう。
と、思っていたのだが、良く見ると遠くに誰かが立っている。
「どうしたの兄ちゃん?」
「いや………まだ人が居るみたいやから、挨拶な」
「?………何処におるの?」
「ええからええから、さき車に行っとき、寒いやろ」
「う、うん………」
妹を先に帰してやり、僕はその人を改めて見てみる。
五家ぐらいの墓の向こうから、こちらをずっと見ていたのだろうか?
なんだかボロいツギハギの入ったセーラー服を着ているらしいからか、
とても苦学生の様に見えて、オデコの広い、黒髪のオサゲの女の子だ。
「あのー!」
「!」
僕が大きめの声で呼んで見ると、驚いた様に体をビクつかせた。
お墓とお墓の間を通り抜けながら、彼女の元へと向かう。
「ごめんな、もしかして、家の葬式に来てくれた?」
「…………」
「?」
なんだろうか、良く見てみると、ヘンテコなズボンをはいている。
ピンク色の生地の薄いジャージにこれまたツギハギをした様な、
葬式にしては、あまり似つかわしく無い雰囲気の服だ。
「高校生?」
「十六」
「じゃあ僕の妹と同じか、どこの子?」
「………」
さっきから変な子だ。僕の方をずっと見つめている癖に、
一言も発さずに、この寒い中で体をゆすりすらしない。
取り合えず葬儀会社に連絡して今日、誰が来てたか聞くか………。
そう思って携帯を取り出そうとポケットに手を突っ込んでいた。
「ちょっとこっち来て」
「え、あ」
グイッと襟を引っ張られ、思わず見とれてしまう。
髪がハラリとおでこに乱れ、真っ直ぐな目が僕を見ている。
顔が数センチ程の距離に縮められ、彼女の素朴で愛嬌のある顔が間近に………。
「はい、これで良いよ」
「え、ああ、ネクタイ………」
「葬式の時ぐらいちゃんとしなさいよ」
「………う、うん」
何を十六歳に……もう今年から大学生じゃないか、僕は。
いやいや、それよりも、この子は何処の子なんだ?僕の事は知っていそうだけど………。
「………うん」
妹にそう告げながら、周りをグルッと見回す。
墓石の前で小一時間ほど、周囲の親族も皆帰っていた。
流石にこの寒さの中で、いつまでも立っていれる人も居ないだろう。
と、思っていたのだが、良く見ると遠くに誰かが立っている。
「どうしたの兄ちゃん?」
「いや………まだ人が居るみたいやから、挨拶な」
「?………何処におるの?」
「ええからええから、さき車に行っとき、寒いやろ」
「う、うん………」
妹を先に帰してやり、僕はその人を改めて見てみる。
五家ぐらいの墓の向こうから、こちらをずっと見ていたのだろうか?
なんだかボロいツギハギの入ったセーラー服を着ているらしいからか、
とても苦学生の様に見えて、オデコの広い、黒髪のオサゲの女の子だ。
「あのー!」
「!」
僕が大きめの声で呼んで見ると、驚いた様に体をビクつかせた。
お墓とお墓の間を通り抜けながら、彼女の元へと向かう。
「ごめんな、もしかして、家の葬式に来てくれた?」
「…………」
「?」
なんだろうか、良く見てみると、ヘンテコなズボンをはいている。
ピンク色の生地の薄いジャージにこれまたツギハギをした様な、
葬式にしては、あまり似つかわしく無い雰囲気の服だ。
「高校生?」
「十六」
「じゃあ僕の妹と同じか、どこの子?」
「………」
さっきから変な子だ。僕の方をずっと見つめている癖に、
一言も発さずに、この寒い中で体をゆすりすらしない。
取り合えず葬儀会社に連絡して今日、誰が来てたか聞くか………。
そう思って携帯を取り出そうとポケットに手を突っ込んでいた。
「ちょっとこっち来て」
「え、あ」
グイッと襟を引っ張られ、思わず見とれてしまう。
髪がハラリとおでこに乱れ、真っ直ぐな目が僕を見ている。
顔が数センチ程の距離に縮められ、彼女の素朴で愛嬌のある顔が間近に………。
「はい、これで良いよ」
「え、ああ、ネクタイ………」
「葬式の時ぐらいちゃんとしなさいよ」
「………う、うん」
何を十六歳に……もう今年から大学生じゃないか、僕は。
いやいや、それよりも、この子は何処の子なんだ?僕の事は知っていそうだけど………。
「いや、だからさ………どこの子なんよ?」
「しらんしらん」
まるでお花畑で遊びでもする様に墓場を歩き出す彼女。
僕も彼女の背中を追って歩き出す。
どこか怪奇な世界だ………しかしそんな物に浸ってるつもりは無い。
妹を車でいつまでも待たせる訳にはいかないし、
何よりもこの寒空の下は拷問にも近い寒さなのだ。
「しまいに怒るよお兄さんも」
「うるさい、アホゆうじ」
優しく諭してやったのに、罵声を浴びせられる。
こんな理不尽な事があって良いものか。
だが不思議と不快な感じはしない。
なんだか、どこか懐かしい感じのやり取りだ。
「アホ言うた方がアホや」
「なにその子供みたいなの」
「君が子供やからや」
「そう」
オチの無い落語の様な会話を続ける僕達。
仕方なく僕は彼女にもうしばらく付いて行く事にした。
「しらんしらん」
まるでお花畑で遊びでもする様に墓場を歩き出す彼女。
僕も彼女の背中を追って歩き出す。
どこか怪奇な世界だ………しかしそんな物に浸ってるつもりは無い。
妹を車でいつまでも待たせる訳にはいかないし、
何よりもこの寒空の下は拷問にも近い寒さなのだ。
「しまいに怒るよお兄さんも」
「うるさい、アホゆうじ」
優しく諭してやったのに、罵声を浴びせられる。
こんな理不尽な事があって良いものか。
だが不思議と不快な感じはしない。
なんだか、どこか懐かしい感じのやり取りだ。
「アホ言うた方がアホや」
「なにその子供みたいなの」
「君が子供やからや」
「そう」
オチの無い落語の様な会話を続ける僕達。
仕方なく僕は彼女にもうしばらく付いて行く事にした。