夏、過ぎ去ってから
第十四話『告白:佐藤啓太』
屋上を後にして、階段をゆっくりと降りる。そのまま立ち止まらずに裁縫部の部室へ向かうべきなのだが、一旦踊り場に立ち止まり、ふう、と軽く溜め息をつく。……最近になって頻繁に見えるようになった女の子は、見守るように俺の視界の端でちらついている。いつからだろうか、これが見えるようになったのは。不思議と違和感は無く、あるのが当たり前だと思えてしまう。……急に現実感が薄れた頭を切り替えるように目を瞑る。すぐさま目を開き、冷ややかな目で見られることを覚悟しながら、俺は裁縫部へ向かった。
屋上から四階へ。四階から三階へ。三階から……と、ここまで降りて気付く。我ながらとても恥ずかしいのだが、俺は部室の場所を聞いていなかった。じゃあどこに向かおうとしていたんだと、自分へのツッコミ。視線を少し上げて、天上からぶら下がるように設けられた時計の針を見れば、既に四時半を回っていた。どうしよう。
ここにきて程度の低い問題にぶちあたってしまい、非常に焦る。人に聞こうにも、既に部活は始まっている時間。廊下を歩いている暇そうな人間なんて、俺しかいない。
「しかたがない」
なんて独り言を漏らすと、俺は職員室へと向かった。もういないと思うけど、古雅原先生がいれば一緒に行くついでに教えてもらえるだろう、と。
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「――で、なんでまだ職員室にいたんですか」
カツカツとハイヒールの甲高い音が廊下にこだまする中、俺は古雅原先生に向かって“ありえない”と悪態をついていた。
俺が職員室に入ると、丁度いいタイミングと言うのか、古雅原先生が正に今出て行かんとするところだった。もちろん俺は面食らってしまい、むこうもむこうで嫌そうな表情を浮かべて。なんで俺が嫌そうな顔を向けられなければならないのか、という言葉を飲み込んで一緒に向かっている次第。
「なんでもなにも、細かい仕事が残ってたのよ。そんなに目くじら立てなくったっていいじゃない。さすがにサボるってことはないない」
「まあ、怒っているわけじゃないんですけど」
三島が言うに、古雅原先生に顧問を頼んだ時は乗り気ではないものの快く了解してくれたと。そういうことだったらしいのだが、隣で気だるそうに歩く古雅原先生を見れば、なんてことはない。十分乗り気じゃないのは言われなくてもわかる。ほれ見ろ、あくびまでする始末だ。
「何見てんのよ。あれかい、青少年の淡い恋心が芽生えた瞬間ってやつ?」
「百年の恋は醒めても、落ちることはないですよ」
「……相変わらず可愛げの無い。ショタっ気は無いものの、十分童顔なんだから、もう少し可愛く振舞っていれば綺麗なお姉さんのハートを鷲掴みだろうに」
そんなことを言いながら、俺の顔をまじまじと見つめる古雅原先生。
口では悪く言いつつも、実際、古雅原先生は悩める青少年を恋に落とすに十分な顔立ちをしていると思う。遠くから見ている分には非の打ち所が無いと言ってもいい。ただ、俺はこの人のずさんな生活を目の当たりにしてしまっているので、詰まるところ、醒めてしまっている。
俺がろくでもないことを考えていると悟ったのか、古雅原先生は“やっぱないわ”なんて言いながら視線を正面へ戻す。それはこっちの台詞だと言いたい。
「そういえば、なんで武田は職員室くんだりまで来たのよ。真っ直ぐ部室に向かえばいいじゃない」
「先生が来るか心配だったんです」
「ホント、芯まで腐ってるわね。こんな生徒の担任じゃなくてほっとするわ」
しつこく詮索されなくて、一安心。自分で自分を卑下するのは好きだが、それはプライドありきのこと。余計なところでプライドが高いのは自分でも理解している。やはり、古雅原先生に“部室の場所がわからないんです”なんて言うのは癪だ。色々とからかわれるのは目に見えている。ここに俺の自尊心は守られた。
二階の職員室から西へ続く廊下を歩き、三階へ。そのまま東へ続く廊下を歩き、その中ほどに来た辺りで、古雅原先生が立ち止まる。遅れて俺も立ち止まると、左手にある教室へ目を向けた。
「裁縫部……」
「なに? もしかして場所知らなかったとか?」
「そんなことないですよ」
「まあいいけど。もうとっくに部活動は始まっているはずだから、さっさと入るわよ」
そう言われて、俺は遅刻しているという事実を思い出す。顧問が遅れるならまだしも、部員が遅刻するとは。しかも活動初日。……佐藤に会わす顔がない。
昨日から今日にかけてあった事も重なり、扉を開ける手が重い。正直佐藤云々のことが無かったら、俺はこんな場所には来ないだろう。俺だって人間だ、“嫌われる努力”という傍から見れば少しかっこよく見えてしまうことでも、嫌われるという事実は耐え難い。なんだかんだで楽しく会話出来ていた相手だけに、なおさら。
「どうしたのよ。行かないなら先に行くわよ」
「いえ、なんでもないです」
これ以上色んな人と関わるのは、正直避けたい。古雅原先生、と言うよりも“先生”に悟られるというのは些か面倒に感じる。なるべく普段どおりの無気力な顔で応対すると、俺は内心ビクつきながら部室の扉を開いた。
『告白:佐藤啓太』
結果を言えば、大方予想通りの展開だった。
どの面を引っさげて、と言わんばかりの視線が二つ。本堂はわかるとしても、まさか杉林さんにまでこんな目を向けられるとは思わなかった。比較的“仲良く”出来ていた相手だけに、つらいものがある。
他の二人はいつも通り。三島は何やら探るような目で俺を見ていたが、佐藤に関しては逆に浮いているくらい普通だった。笑顔で挨拶をしてくれた佐藤に、戸惑いながらも挨拶を返す。
「それじゃあ、全員揃ったことだし、あらためて自己紹介をしたいと思うんだけど、みんなはいいかな?」
部室の中心に置かれた机を囲むように座っていた俺達。そこに、さすが部長と言うべきか、佐藤がもっともらしい提案を出した。俺を除き、他の奴は周りの奴と目配せをしながらも“賛成”とのこと。
……自己紹介には苦い思い出がある。まあ、簡潔に言えば俺を取り巻くこの状況を作り出した原因だろう。もちろん、自分が悪いということは俺が一番知っている。あるのは後悔だけ。だからこそ、図らずとも再度自己紹介をする機会を得た俺は、少しばかりの動揺と共に“やりなおすことが出来るかもしれない”という淡い思いがこみ上げてくるのを感じていた。
「それじゃあ部長となった俺から、と、行きたいところだけど、序列的に考えてまずは顧問の古雅原先生からお願いします」
「……え? あたし? パスパス。そういう甘酸っぱい春なことは嫌いなのよ。名前は全員知ってるみたいだし、それでいいじゃない」
「は、はあ、そうですか」
久しぶりにテンションを上げていた佐藤が、隅の方でパイプ椅子に座っている古雅原先生の言葉で熱気を失われる。……俺が言えたことじゃないが、少しは空気を読んで欲しい。ここで佐藤が落ち込んだら、俺の頑張りが水の泡だ。
「じゃあ、あらためまして、佐藤啓太です。発足の原因は大きな声で言えるものじゃありませんが、部長となった以上、部員全員が楽しめる場にしていきたいと思います」
パチパチパチと、人数が少ないせいか、まばらな拍手の音が部室に響く。それでも全員が笑顔を向けていたんだ、十分すぎるだろう。自分は普段こんな拍手を向けられるほどの行いをしていない所為か、若干捻くれた感情を覚える。まあ、無視だ無視。
続いて立ち上がったのは、ちゃっかり佐藤の隣に座っていた本堂。自己紹介するって時なのに、さりげなく俺に嫌な視線を投げかけてくるあたりが女々しいと言うか何と言うか。
「本堂恵です。実家は寺、趣味は布と綿で出来た動物の置物集め、特技は勉強。気の利いたことは言えませんが、よろしく」
再度拍手。わざわざ言わなくてもいい事を言う辺りが本堂らしい。ガスガスと刺さる視線を無視して、続いて立ち上がった三島を見る。コイツは何やら考え事をしているようで、いつものような能天気な表情とは打って変わり、神妙な表情を浮かべている。……女の勘とでも言えばいいのか、たまに嫌な所で勘付いてくるからな、コイツは。あまり悟られないようにしなければ。
「三島早紀です。まあ、この裁縫部を作るに当たって一番貢献したのがわたしです。以上」
……俺も含め、静まる部室。
神妙な顔をしていると思った直後にこれか。どう反応していいかわからないのは俺だけではないようで、古雅原先生も含めてふんぞり返っている三島をただ見つめる。自分でも何かが滑ったと感じたのだろう、三島は少し赤面しながら、“冗談よ、冗談! よろしくね!”と、見苦しいフォローを加え、あらためて拍手。
続いて杉林さん。
「……」
気まずいので余所見をしていた俺は、自己紹介がいつまで経っても始まらないことに気付く。席を立っているだろう杉林さんの方に目を向けると、ガッチリと視線が噛み合ってしまった。……そう、杉林さんは黙って俺を見つめていた。あからさまなその光景に、他の奴もつられて俺を見る。
居心地が悪い事この上ないので、俺は仕方が無く口を開く。
「なんだ?」
「いえ、別に……」
なんで、とは言えない。杉林さんがこんな行動を取るに足り得ることを俺は言ったんだ、むしろ自然な流れだろう。けれども、さすがに黙って見つめられるのは精神的にくる。無言の非難が一番残酷だと、身をもって知る。なんせ相手が黙っている以上、こちらが相手の言いたいことを想像して補完するしかない。いや、勝手に頭が“そう”動く。平たく言えば単なる被害妄想だが、なんてことはない、俺みたいな奴には効果抜群ってやつだ。
「まあ、何でもないなら自己紹介しようぜ」
さすがにもう耐えれそうにないので、冷や汗を流しながら無理に笑顔を作り、杉林さんに促す。向こうも飽きが来たのかもう十分効果があったと悟ったのか、俺に反応することなく自己紹介を始めた。
「杉林心です。部活動をするのはこれが初めてなので至らない所があると思いますが、よろしくお願いします」
変な空気になったものの、まあ、順当に自己紹介が終わる。杉林さんの口が閉じるか閉じないかの辺りで、自然と拍手が沸く。俺もつられて拍手をするが、杉林さんが俺を見ることはもうなかった。
さて、と。
佐藤が目配せで俺の番だと伝えてくれている。俺は複雑な心境を振り払うようにパイプ椅子から立ち上がると、これまた多数の複雑な目で見られる中、口を開いた。
「武田智和です。趣味は家事、特技は妄想、B型。根も葉もある噂の所為で一年の頃からお世辞にもいい目では見られていませんが、この場にいる人には、僕自身がその事実を忘れるくらい良くしてもらいました。恩を仇で返すことになった人もいますが、このコミュニティを通じて、少しでも恩を返して行きたいと思います」
話し終えた俺は、深く息を吐いて、ゆっくりと椅子に座る。みんなは俺がこんなクソ真面目な、今の若者で言うと“面倒”な挨拶をするとは思っていなかったのだろう。決していい顔はせず、ただ呆然としていた。
少し眺めの沈黙を感じて、俺が気の早い太陽が部室をオレンジに染めていることに気を向け始めた頃、耳に音が飛び込んできた。……拍手。音がするほうを向けば、真面目な表情を浮かべている佐藤。続いて三島、古雅原先生、本堂、杉林さんの順に拍手の波が広がる。
別に褒められることを言ったつもりはない。むしろ、この場で言うべきことじゃなかった。結局は自己満足、“やり直し”をするために取った行動だ。全員に無視されることも考えていた。けど、形式上でも拍手された事実は、確かに俺の中の何かを救ったんだろう。……不意に涙腺が熱くなるのを感じて、無理やり止める。俺はこんな青春する奴じゃないんだ、と。気付けば拍手は止んでいて、まるで何事も無かったようにさっきまでの空気に戻っていた。依然本堂と杉林さんはこちらを見ようとしない。……ただ、俺が言ったことに偽りは無い。本堂は癪だが、少なくとも杉林さんには、いつか謝りたい。
拍手の余興に浸っていると、俺の所為だろう、妙な空気が流れているのを切り裂くように、佐藤が座りながら喋り始めた。
「――この際だから、やっぱり、みんなには知っててもらいたい」
嫌な予感がした。
「その、めでたい部活動初日に言うことでもないんだけど、うーん」
「佐藤……まだ別に言わなくとも」
「いや、いいんだ武田。隠し事は苦手だし、いつかはわかることだから」
俺と佐藤が話す中、他のみんなはわけがわからないと言った風に黙って注目している。俺はそんな視線を無視して、なんとか佐藤の“告白”を止めようとするも既に決心は固いようで、何を言われても曲げる気は無いと、まくしたてる俺を手で制する。
「武田はもう知っているんだけどさ、俺、もうすぐ死ぬんだわ。もちろん冗談じゃなくて、もう医者にも“好きなことをしろ”って投げ出されるほどなんだ。多分、長くてあと二週間くらい」
「ちょ、ちょっと待って。あたしはそんなこと聞いてないわよ」
少し動揺している古雅原先生が音を立てて席から立ち上がり、胸倉を掴む勢いで佐藤に詰め寄る。佐藤は困った顔をしながら古雅原先生をなだめると、再度喋り始めた。
「ま、まあ落ち着いてくださいよ古雅原先生。この事は親に口止めしてもらってたんです。俺がギリギリまで普段どおりの生活をしたかったんで」
ははは、と。周りの空気とは正反対にあっけらかんと笑ってみせる佐藤。古雅原先生は、いきなりの事で混乱してしまったのだろう、自分の椅子に戻り、そのまま力尽きるように座る。それを見計らっていたかのように、本堂が座ったまま、隣を見ずに口を開く。
「何故黙っていたんだ」
「いやあ、今も言ったけど、なるべく普段どおりの生活をしたかったんだ。別にお前が信用に足らないから黙っていたわけじゃないよ」
「なら……!」
“なんで武田には”。そう言おうとしたんだろうが、そのまま黙ってしまう本堂。佐藤が不思議そうに顔を覗き込むが、本堂は黙ったままだ。そこに、今まで沈黙を守っていた三島が佐藤に問いかける。
「病名は?」
「ん、ヒスチオサイトーシス……なんとか。もうこだわるものでもないし、最後はおぼろげだけど。まあ、要するに肺だよ肺」
「そう。何か隠し事をしているとは思っていたけど、さすがに予想外だったわ。何より、それを武田クンだけに言っていたというのが驚き」
ちら、と。三島が俺のほうを見る。見られても、こうなった以上俺にはどうすることも出来ない。俺の反応が得られないと悟ったのか、三島は再度佐藤に向き直り、質問を続ける。
俄然騒々しくなってしまった部室、俺の割り込む余地がないことは見てわかる。それぞれの思いの丈をぶつけて、佐藤は苦笑いを浮かべながらそれを受け流す。……まあ、これが普通の反応なんだろう。俺だって、最初に聞いた時は頭が真っ白になった。高校に限ってはそう親しくない奴から、急に“俺はもうすぐ死ぬ”なんて言われたんだ、もちろん混乱した。どう反応していいかもわからなかったし。本堂なんかは前のクラスでも佐藤と仲良くしてらしいから、それこそ、言いたいことは山ほどあるだろう。
しかし、見ていられない。こういうことは少し時間を経てからのほうが考えがまとまる。俺がそうだったから、と言えば信憑性も何も無くなるのだけれど、それでも混乱したまま数人で騒ぎ立てるよりはいいと思う。
俺はなるべく音を立てることを意識しながら、勢いよく椅子から立ち上がった。
「もうそろそろ、止めとこう。みんな混乱しているだろうし、佐藤に言いたいことがあるのなら、明日言ったほうがいいと思う。部活どころじゃなくなったし、先生、今日は解散したほうがいいんじゃないでしょうか」
やはり“知っていた”俺が止めるというのはみんなにとって癪だったらしく、非難を含んだ視線が俺に集まる。そんな中、今まで呆けていた古雅原先生が慌ててこちらを向いて返事をする。
「…………え? あ、そう、そうね。あたしも含めてみんな、佐藤に言いたいことがあるのはわかるけど、今日は解散にするわよ。ああもう、佐藤、これは担任に報告してもいいのよね?」
「はい、しておいてくれるのなら助かります。やっぱり、学校側としたら放置するわけにも行きませんよね」
「その通りよ。それじゃあ、はい、解散解散」
パンパンと手で合図し、解散を促す古雅原先生。みんながそう簡単に引き下がるとは思えなかったが、案外にも大人しく席を立ち始める。約一名、大人しいとは言えない目を俺に向けて――本堂以外考えられないが――いたが、気付かないふりをしてやり過ごす。そのまま各々がロッカーに入っている鞄を手に取ると、黙って教室を出て行った。佐藤はやっと解放されたことで安心したのか、深いため息をついている。
俺は皆が出て行ったことを確認すると、ぐったりとしている佐藤に近づく。近づいても反応しない佐藤にかまわず俺は問いかけた。
「なんで、今日なんだよ」
「……罪悪感、かなあ。武田が言ったことを考えていたらね、やっぱ言わなきゃいかんかな、と」
「俺が言ったこと?」
「ほら、根も葉もある噂って部分。俺ってさ、武田が一年の頃に何をしたのか、具体的には知らないんだ。ただ、風の噂で武田が嫌われているってのを聞いて、その流れに任せていただけ。でもさ、やっぱり知らないとわからないんだよな。昔も含めて、やっぱり俺はお前を嫌う理由が無いんだよ。だから俺も、自己満足で終わらせないで、みんなにちゃんとわかって欲しかった。わからない奴に勝手にレッテルを貼られることが一番嫌だからね」
「……」
「ま、そんな感じ。臭いこと言ったけど、まあ、本音は隠しとおせる自信が無かったってだけなんだけどなー」
佐藤はいつも通りの、軽い笑いを部室に響かせて、そのまま立ち上がる。
ダメだな。やっぱり佐藤には敵わない。もう幾度と無く思ったことだけど、佐藤ほど主人公然とした、“できた”奴は見たことがない。もう今じゃ嫉妬すら沸かないほどに、俺は佐藤に惹かれていたんだと、今更ながら気付く。沈黙している俺に対し、佐藤は“まあ気にしないでくれよ”と言い残して、部室を出て行った。
一人、夕焼けに浸った部室に取り残される。……俺が頭の中で描いていた理想を、佐藤自身が崩した。結局俺が何をしようと、佐藤は自分でどうにかするんだろう。自分の考えを真っ向から否定されたはずなのに、何故か、怒りは湧き上がらない。多分、認めてしまったからなんだろう、不思議と嫌な感じはしない。……はあ、と。溜め息一つ。
遠くで反響している生徒の声を聞きながら、鞄を肩にかける。部室の鍵をもらってないなあ、なんて考えながら部室を出て、いつものように視界の端でちらつく影。“それ”を確かに感じながら、明日からの振る舞いを考えつつ、夕日の中、帰路に着いた。
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