西暦2033年11月11日
最初に異変が起こったのは、その日だった
PDFの海洋探査チームweeの所持する最高峰の巡洋艦サーフェラスは暗雲を漆黒の外壁に反射させ船体を海面に浸し、その細長い船体でバミューダ海域を突き進んでいた
結露した窓を除き見えてくるのは無造作に漂う霧と当ての無い地平線、この殺風景に退屈さと不安を抱いていたサーフェラス号乗組員のベンは、部屋に閉じこもり毎日窓ばかり覗いていた
「遭難してから2ヶ月…救助船にも遭遇しない…無線も通じない…食料も尽きた…息子達も妻も残してきた…絶望的じゃないか…」
彼の脳は置き去りにしてしまった家族と我が家のあるケンビティータウンの風景を思い出す事だけに利用されていた
今から4ヶ月ほど前、ベンはバミューダに生息する数多くの海洋類の生態調査を任され、他の乗組員と共に出航した。その時の気構えは軽いもので、父としての今後や帰ってきたら息子達と何をして遊ぶかなんて、現状じゃとても考えられない事ばかりを脳の中で交差させていた
それが今では、目の前にある絶望を焦りと共に受け流しながら、過去の虚像に捕らわれ必死にもがいている
今の事態は彼にとって、現実的でもあり、非現実的でもある。
「おい!!なんだありゃ!?」
望遠室から聞こえてきた
乗組員の名前を把握しきっていないベンは、その声の主を模索しながら急いで望遠質へ向かった
ベンと同じくその結果に微かな可能性と希望を見出した人々が部屋から次々と同じ目的地へ向かっていく
「押すなぁ!!」
「うわあああああああああ!?」
「ゴゴゴゴゴゴwwwwww!!」
人々の欲望と罵声が飛び交う中、ようやくベンは望遠室に辿りついた
室内は静まり返ったいた。
「どうやら、ご朗報ではないらしいな…」
ガコン!!!!
次の瞬間、船が何かに引き寄せられるのを感じた
ギギギ…
船は鈍い音を立てながら船体を傾けていく
ベンは自分がここで死ぬ事を悟った
傾いた角度が大きくなるにつれ、悲鳴や泣き声、叫び声も増していった。船内に希望はもう残されていない
ベンは愛する家族の事を考え、なんとか冷静で居られた
そして強く思った。「望遠管の先を見てやろう」と
圧倒的な存在を目で拝む事により、微かな勝気を得たいだけだった
ベンはなんとか姿勢を保ちながら望遠管の鏡面に目をつけた
数10m先に激しく光り輝く光体を確認できた
よく見ると美しい少女の様にも見える
そして、横から囁くような声が聞こえてきた
「ニンゲン…ニン…」
ベンは光に包まれた