Neetel Inside 文芸新都
表紙

Lei ed un cortile
わたしと、

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 何だっていう話。ぶっちゃけ適当に流してよろしい話。
「んでさぁ……それでさぁ……」
 よくもまああなたの口動く動く動く。わたしが聞き流しているのに気付いていない様子ですか、早いとこオチつけてくださいよ。
「ねぇ、聞いてる?」
「あ? あ、ああ聞いてますわ」
「よかった。そしたらそいつ……」
 エンドレスでございますかそうですか。わたしが眠くなってきたのに気付いてくれ。そろそろ。
 気付くともう夕方だった。わたしは、毎日のように友達と教室に残って楽しいお話なぞしている。
 いや楽しいのはあんただけだ、と言いたいし、言ったら多分すっきりすると思う。色んな意味で。
 ですがわたしはチキンでして、だから言わないよ、角が立つって名目。
「わたしそろそろ帰るわ」
「え、もう?」
「ごめんなさい、お花のお稽古があるの」
「そっか。じゃあしょうがないねぇ……じゃあまた明日ね、お嬢様!」
「ええ、さよなら」

 わたしんちは貴族だ。わたしは、『金持ちなら金持ち然とすべきだ』という金持ち両親の教えを忠実に守っている。うわべだけ。
 実際のところ、わたしはちっとも金持ちじゃないんだ。精神的に。
 嫌味ったらしくて、不平が渦巻いてて、普通の人よりよっぽど腹の底がどす黒い。
 でも、決して表面には出さない。それはわたしが貴族でいられる唯一無二の糸っ切れで、こいつが切れないよう見張るのが目下のわたしの活動目標でもある。

 この国が劣化カースト制度みたいのを始めてから、もう100年以上経つらしい。
 皇族、貴族、平民、ホームレス。左に行くほどハッピーで、右に行くほど可哀想。何てわかりやすいんだろう。わたしは、産まれてオギャアとわめいた瞬間から、左から二番目に幸せで、右から三番目に不幸せな環境を手に入れた。らしい。実感は無い。
 そういうわけだから、わたしは、クラスメイト(ご学友とも言うってよ)から『お嬢様』と呼ばれている。わたしはその度に、へらへらと感じの良い笑みを浮かべる。それで充分だ。
 わたしはこうして日々を慎ましく送っている。まさに貴族の規範とも言うべき存在。麗しく貴く気高く美しく可憐な存在だ。
 両親はわたしが誇りだと言う。よく言う。かなり、繰り返し繰り返し言う。誇りであると信じ込ませようとするみたいに。
 そしてこうも言うっけ。「お前の姉さんは、お前とは比べ物にならない最低の貴族だ」と。なるほど?
 わたしはその言葉を聞く度に考える。最低の貴族は最高の平民より最低なのだろうか? どうなんでしょうね。わかるひとに聞きたい気もしないでもないが、ぶっちゃけ死ぬ程どうでも良いかなとも思っている。
 で、またそんな事を昨晩言われたもんだから、翌日の夕方、華道の稽古をしながらわたしは姉の事を考えていた。
 随分と奔放な人だったらしい。小学生の頃から、貴族とは思えない程活発でやんちゃだったらしい。
 姉はわたしと6つ違いだが、あまり記憶はない。わたしが小学2年生の頃、彼女は何処かへ行ってしまった。14歳だった。
 今、わたしはそんな大変ファンキーで名高い姉が失踪した年齢と同じになった。が、わたしに失踪する勇気はないのが現状である。チキンですから。

     

「ミキちゃん、歌いに行こうぜ」
「……あ、ユウ先輩」

 ユウ先輩は華道部の先輩で、わたしの本当の顔を知ってるひとだった。
 ある時、放課後にわたしとユウ先輩の二人きりになったことがあったのだが、その時にユウ先輩はのたまった。
「素直になりなよシャイガール」
「……は?」
「無理してお嬢様のフリしなくてもいいって事な」
「……」
「"なりきってる"時のミキちゃん……つらそうだぜ?」
 何ですのそれ、っていうお嬢言葉はユウ先輩には通用しなかった。やるじゃん。
 それからわたしは、ユウ先輩にだけ自分の素直な気持ちで話せるようになりましたとさ、ってめでたい話なんだけど別にシカトしてくれ。

「カラオケだカラオケ!」
「またですか? やですよ、先輩サザンしか歌わないし」
「いいじゃないか。TSUNAMIを今日は10回は歌う予定」
「そんなに聴きたくねー」
「行かないならもうミキちゃんと一生行ってあげないよ?」
「別に良いです」
「……行こうぜ?」
「行きたいんじゃないですか」
「一生言ってあげないなんて言わないから行っこうよ!」
「まあ……しょうがないから付き合ってあげますけど」
「けど?」
「サザン禁止令」
「私からサザンをとったら何も残らないぜ」
「ですよねー」
 この人にしかこんな口は利けないから、黙ってる事にした。
 この期に及んでまだ隠し事だ。往生際が悪いとはわたしの事だった。

       

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