Neetel Inside 文芸新都
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Sweet Spot!
2nd.Match game1 《水面下》

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 翌日からは、俺たち1年も初めからコートに入って練習することになった。
 あの辛かった日々から遂に解き放たれた。ぃよっしゃーっ!!!!
 先輩たちと一緒に練習するのも久しぶりである。
 ほんの少し前までは最上級生で後輩を評価する側だった。しかし、今度は評価される側にまわる。忘れかけていた緊張感が蘇ってくる。
 うわ、あの先輩グリップ太いなー。よくあれでラケット振れるなぁ。
 えっ? そのラケットの握り方は何ですか!? 薬指と小指遊ばせちゃってんだが。そんなのアリか? いやいやナイナイ!
 ちょ、あの人サーブ速すぎ。しかもナイスコースだし!
 見るものすべてが新鮮だ。みんな個性的で面白い。
「次、渡瀬入って!」
「はい!」
 うっし、いっちょ頑張りますか。
 俺はパン!と頬を叩いて、ボールに集中した。

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「さて、みんなの意見を聞こうか。」
 テスト終了後、岩崎さんがマネージャーである私と他の3年生たちを集めた。
「上野はスタミナと安定感があると思うよ。まだ若干パワーが足りないけど、あれは鍛えたら間違いなく上手くなるね。」
 そう言ったのは永野さん。副キャプテンで、後衛では1番上手。前衛の岩崎さんと組んで、うちの頼れる1番手です。
「幸田は読みが的確だ。前衛の動きをよく理解してる。横内も上手いけど、読みの面では幸田が1枚上手ってところか。」
 と、これは江副さん。2番手の前衛です。
「古屋鋪はサービスとバックハンドがほかの1年に比べてずば抜けてるよ。特にバックハンドは俺たちも見習うべきだな!」
 と言う鬼木さんもバックすごく上手ですけどね。江副さんとのコンビは熟練の域です。
「でもさ、やっぱ現時点では―――。」
 最後にゆっくり口を開いた宮奥さんの言葉に続けて、
「渡瀬、か。」
 と岩崎さんが答えた。みんなも一同に頷いている。
「おっ、イワっちも気になっちゃう感じ? でさ、ちょっち俺に考えがあるんだけど……。」
 宮奥さんが思いついた計画に、みんなは耳を傾けた。
「…………、っていうのはどう? とりあえず来月の大会で試してみるってコトで。」
 みんな突然の提案で驚いている様子。もちろん、私もだ。
 岩崎さんは目を閉じて暫くこめかみに拳をあてて考えていたけれど、パッと目を開いて、
「やってみる価値はある。これがもし上手くいけば、今より確実に戦力が増すからな。」
 と握り拳にグッと力を入れて軽く振りながら話し、不敵な笑みを浮かべた。
「ただ、アレを上手く操縦しなきゃならん。鵜飼には大きな負担になるが、やれそうか?」
「が、頑張ります!! 任せてください!」
 やるしかないわよね。星和のためにも。
「よし。じゃあ先生や他の連中には俺たちから納得いくように説明しよう。」
「みんな見たんだし、納得するはずだ。」
「うん、あとは今後の成り行き次第だな。そんじゃ、かいさーん!」
 先輩たちはお互いに頷きあい、とても張り切っている。だって、彼は星和の救世主になれるかもしれないんだから。
「よしっ、がんばるぞーっ!」
 私は帰り道、自然と何度も声に出しては決意を新たにしていた。

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「渡瀬、ちょっといいか?」
 数日後、俺は校内で岩崎キャプテンに呼び止められた。
「あっ、キャプテン! こんちゃーっす。」
「ん。今日の練習が終わったら部室に残っていろ。話がある。」
「はい、わかりました!」
「じゃ、また部活でな。」
 深刻そうな顔でそう言うと、先輩は3年棟に向かっていった。
「一体何だろう? キャプテンが俺に話って……。」
 まさか、いきなりレギュラー昇格か!? ふっとよぎった考えに、忽ちストップがかかる。
「いやいやそれはない。多分ない。あるワケが……。」
 待てよ。もしかしたらこないだのテストが認められて……! いや、あれでか……?
「んー……。んっ!? いや、むー……。」 
 教室に戻っても、俺は目を閉じてぶつぶつ呟きながら呼び出しの理由を考えていた。
「…………んー、駄目だ! 謎過ぎ!」
「ああもうコーイチうるせーっ! 何が! なんなんだ!」
 ……思わず大きな声が出てしまっていたようだ。ゲンキはこっちに振り返り、首をものすごい角度に曲げ傾げた。そしてそのまま凝視。ひゃーい☆
「す、すまんゲンキ。さっき岩崎先輩に呼ばれてさ。何か俺に話あるみたいなんだよ。」
「そ、そっか。そうなのか。ふーん。」
「んで、一体何だろーなーって気になって。」
「さあねえ、何だろうな。オイラにはまったくこれっぽっちも見当つかないなー。」
「……だよな。ま、どうせ後で解るコトだし別にいいんだけど。悪いな、変なコト聞いて。」
「ああ。別にいいんだけどよ……………………がんばれよ。」
「ん、何だ? 何か言ったか?」
「いや、別に何でもないぞ! そ、そういや午後の授業って何だっけか?」
「あ? 数学だろ。って、おいゲンキ、昨日出されてた宿題やってきたか?」
「へ? なんですと??」
「なんですとって……。」
 ぽかーんとしたゲンキの顔に、俺は思わず吹き出してしまった。
 この後自分の身に訪れる悲劇も知らずに……。

「ぴんくのすかーぁとぉ、おはなぁーのー……ふんふふん♪」
 放課後、俺は鼻歌を歌いながら部室でウェアに着替えていた。
 今日は一体どんな練習をするのだろう。俺はここのところずっといい調子を維持している。
 こんな時は1分1秒でも早く、長くテニスをしていたいし、片時もラケットを手放したくなくなる。
 それは今の自分の打球感覚をしっかり体に上書き保存していたいからだ。
 でもそんな時期が続くと、同時にこの調子がいつまで続くかどうか不安にもなり始める。
 
 テニスを始めてある程度上達するにつれて感じるようになってきた感覚がある。俺の体は、バイオリズムみたいに好調・不調と調子の波があるようなのだ。
 スランプは突然にやってくる。一旦不調の時期に入ると、それまで何気なくできていた自分のプレーを見失い、ボールを打つ際に迷いや余計な感情が出てきやすくなる。そうなると、今まで自分がどうやってラケットを振っていたのかさえわからなくなったりして真剣に悩んだりするのだが、俺は普段からフォームを意識してプレーするタイプではなく、体が覚えている感覚に頼って打っているので、不調になった要因にたどり着くまでにとてつもなく苦労したり、あるいは見つけられずにかなりイラついたりしてしまう。
 たいていの場合において、俺は不調になると自覚症状は無いのだがテンションが急転直下してしまうらしい。ゲンキに言わせると、『心底惚れている女の子に存在自体を否定された』かのような表情をして俯き、ラケットを見つめながらあーでもない、こーでもないと首を傾げ呟きつづけているそうだ。
「イレ込み過ぎてもイイこと無いって! そういう時はラケットを置いて、何日かテニスから離れてみろ。適度に力を抜くんだよ。そしたら自然と調子も戻ってくるって! 大切なのはポジティブシンキングだぞ、コーイチ。」
 これまで何度となくお世話になった言葉だ。ゲンキとは中学校の3年間をペアとして過ごして来たから、俺の精神分析とアドバイスはお手の物だそうだ。
 面と向かっては恥ずかしいから言わないが、アイツは俺にはもったいないくらいのパートナーだ。いつだって前向きだし、落ち込んでも気持ちの整理の仕方がすごく上手い。
 だから、今でも俺は心のどこかであいつを頼っている。心の逃げ道を作っている。
 それがとても楽だからだ。困ったときにはアイツが導いてくれるから。

「今日の練習はこれで終了だ。坂下先生は都合がつかなくてこっちに来れないそうだから、これで解散する。下校時刻をまわってしまっているから各自速やかに帰宅しろよ。じゃ、お疲れさん!!」
「「「「お疲れさまでしたーっ!!」」」」
 練習が終わり、俺たち1年生はコート整備とロストボール探しに取り掛かった。
 みんなクタクタに疲れているため、あまり会話らしい会話はない。それぞれ黙々と自分の作業をこなしている。
 コートの整備も終わり、残りわずかになったロストボールを皆で探していると、マネージャーが俺を呼びに来た。
「ちょっと部室に顔出してくるから、悪いけど後は……。」
 後は任せた、と言おうとしたが既にみんなも気づいていたらしく、
「「「任せろ!!」」」
 と言わんばかりに親指を立てて最高のキメ顔をみせていた。
 俺とマネージャーは思わず顔を見合わせると、
「「あっはははははは!!!!! 何それ!!!」」
 と2人でオナカを抱えて大笑いしてしまった。

       

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Neetsha