仮面ライダー瞬
一之瞬 「少年は瞬きを見る」
――光があれば、闇も生まれる。
「いるんだろ、出てきやがれ、“機人”」
それは光の当たらぬ陰で、澱のように溜まっていく。
そして、それは、時に光に姿を現す。
輝の男は、ひゅうと口笛を吹いた。
「いいねぇ、潔い」
輝きに包まれている男。
光を吸収し、放さない。
全ての光を力に変える――
そんな、戦闘スーツで全身を守っていた。
「全部の機人がお前みたいなら、こっちもやりやすいんだがなぁ」
男の輝きが、どんどんと増してゆく。
スーツから――いや。
男の体そのものから、光が、解放されてゆく。
「――いくぞ」
仮面ライダー瞬(またたき)
一之瞬 「少年は瞬きを見る」
眠い。
ダルい。
死にたい。
面倒臭い。
学校行きたくないない。
それが、浦賀瞬(うらが・しゅん)の今考えている全てだった。
中学に入学して半年、夏休みボケが未だに取れず、少年は倦怠感に塗れていた。
楽しかった夏休み。退屈な授業。好きなことだけしていられた夏休み。好きなこ
とが出来ない学校――
目に見えない壁が、瞬を日々少しずつ押し潰していこうとしていた。
その壁が、どこに起因するものなのか、瞬には分からなかった。分からないか
ら、苦しむしかなかったのだ。
瞬の視界の端に、長身の皮ジャンを着た男が飛び込んできて、顔をそちらに向
けた。
パン屋の前に置かれている雑誌ラック。週刊少年漫画雑誌「週刊少年VIP」
を読みながら必死に笑いを堪えている。
――あんな大人には、なりたくないな。
でも、なっちゃうんだろうな。
瞬は、自嘲気味に笑った。
「おい」
すぐ前方から声がして、瞬は驚いた顔をして立ち止まった。
――そんな、さっきまで、あそこで漫画読んでたのに――
――捷い。
それは、瞬の常識には存在し得なかった速度だった。
「君、俺のこと笑ってなかったか」
「えっ……い、いや、そんなこと」
「いいっていいってそんなビビらなくて。正直なことを訊きたいだけなんだ」
正直ったって……言えるかよ。
瞬は、内心で呟いた。
男はふうと息をつき、言った。
「正直さは大事だぜ。何事も内に溜め込んでたら、それが腐り出していくんだ。
たまには表に出して、日に当てないとな。光がなければ、闇に侵食されるだけだ」
瞬は、突然発せられた男の電波がかった発言についていけなかった。ただ、悔
いていた。こんな男を見てしまったことに。
「ぼ、僕、学校があるんで!」
そう下を向いて叫んで、男に体当たりする覚悟で瞬は駆け出した。男は寸での
所でそれを避けた。
小さくなっていく瞬の背中を見ながら、男は呟いた。
「…俺だって暇じゃないんだけどね」
そう言った後すぐ、皮ジャンのポケットから着信音が鳴った。
男が取り出したものは、明らかに市販されていないことは間違いない、特殊な
デザインの、携帯電話と判別していいのかさえ分かりかねる物体だった。
「はい光成」
『駿二! 東新都町三丁目の廃工場に機人出現!』
男の顔付きが一変した。
「分かったすぐ向かう」
そう言って電話を切り、男は走りだした。
光成駿二(みつなり・しゅんじ)は、瞬く間に数百メートル先を走る瞬を追い
抜き、そのすぐ先にあった中学校の校舎を「飛び越えて」行った。
まだ世界を知らない少年が、全てを忘れ、ただ飲まれていたのは言うまでもな
いだろう。
チャイムが鳴った。瞬、二学期十三回目の遅刻決定である。
バブル期、日本は建造ラッシュだった。
よく取り上げられるリゾート地や、ただ巨大なだけのビルのみではなく、工場
も当然多く作られた。
しかし、利益が出せず、捨てられ――
――十年が過ぎた。
「…いい具合に、寂れてやがんな。確かにここなら、いっくらでも機人が湧いて
出そうだ」
駿二は、ポケットから携帯端末を取り出し、画面を点けた。
中央に白い点がある。これが今、駿二のいるところ。そして、その右斜め上に、
黒い点が映っている。
駿二は、北東の方角に目を遣った。
そこには、大量の錆びた鉄筋がまるでピラミッドのように置かれていて、中央に、
人一人入れる程度の隙間があった。
機人には幾つかの共通する習性がある。周りの物を用いて、自らのフィールド
――日陰――を作る。それがその一つだ。
駿二は、おもむろに、もう片方のポケットに手を入れた。
取り出したのは、鏡のようなものだった。
極限までに磨かれたそれは、太陽の光を、寸分狂いもなく駿二の心臓に伝えた。
姿が、変わっていく。
光が、駿二を飲み込み、そして。
――弾けた。
そして霧が発生した。
やがて、中から眩い光が発せられ、霧は消し飛ぶ。
現れたのは、輝きを纏った戦士。
その名は、瞬。
仮面ライダー瞬――
次回予告
機人と対峙する瞬。
「俺はお前らと違ってな、溜め込んでおけるんだよ!」
もう一人の瞬はその頃――
「ブロッコリー……」
二之瞬 「絶対の速度」