Neetel Inside 文芸新都
表紙

The World
私の世界の優しい神様

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プロローグ、2人の出会い

私と彼女の出会いは高校生の時だった。

私はクラスで浮いていた。
お昼ゴハンも一人、登下校も一人だった。

ある日気が付くと、私に近い人種がクラスにもう一人いた。

橘 由利(たちばな ゆり)だ。

彼女は、ず~っと本を読んでいる。
休み時間も、昼食中も帰りの電車の中も。
そして、突然泣くのだ。
情緒不安定なのかな?なんて思っていた。


私は、気まぐれに帰りの電車の中で話しかけてみた。
「ずっと本読んでるね」

彼女はビックリした顔で
「え、うん・・・」と一言だけ返して、また目を本に向けた。

これが最初に交わした言葉。


暫くして、帰りの電車の中で話す様になった時、衝撃的な事実を知った。

なんと、彼女は私の名前を知らなかったのだ。
仕方なく自己紹介した。
「私は、立花 柚(たちばな ゆう)だよ、改めてヨロシク」


それから私達は仲が良くなり、2人で同じ大学を受験した。

見事に私は落ちて、彼女は受かった。
良くある事だ。


卒業が間近に迫った休日に彼女には、「不思議な力」が有る事を教えて貰った。


萎びた草花や、元気の無い動物を元気にしたり、雲の形や天気を変えたり・・・。
普通の人には無い力。

そして、彼女は生き物を決して殺さない。
腕に止まった蚊も、足下を歩く蟻も。


私は勝手に、彼女を「神様の生まれ変わり」だと思っている。

「神様の生まれ変わり」の根拠?
私の好きなバンドが「神は死んだ」って歌ってたからさ。

-つづく-

     

第一話、最近の2人。

高校を卒業して2ヶ月が経った。
私は気楽にフリーターをして過ごしていた。

流行らない本屋のレジで店員をしていた時、携帯が鳴った。
電話してきたのは・・・ユリだ。

通話のボタンを押し、スピーカーを耳に当てる。
「ハイ、今バイト中なんだよねー、後で良い?」
相手が話さない内に一方的にコッチの都合を伝えた。

「うん、いいよー。何時頃終わる?」
相変わらずのホノボノ声が聞こえてくる。

「あと30分。終わったら家まで迎えに行くよ」
私を睨む店長に軽く頭を下げて愛想笑いをしながら言った。

「わかった!じゃ、待ってるねー」
そうスピーカーから聞こえて通話は切れた。


店長の小言を聞き流しながら本の整理を始めた。

暫くして時計を見ると、バイト終了30秒前だった。
「じゃ、お疲れさまでーす」
店のロゴが描かれたエプロンを外して店長に軽く会釈をしながら店を出る。

店のドアを出た瞬間「まて」とか聞こえた気がしたけど・・・いいや。
近くの量販店の駐車場へ行き、車に乗る。

私の愛車は古い外車だ、お姉ちゃんのお下がりで5万円で売ってもらった。
小さくてキビキビ走る良い子だ。(名前もメーカーも知らないけどね)

夏っぽくなってきた日差しの中をユリの家まで走る。
途中、ガソリンスタンドへ寄り、給油する。

この車は良い子なんだけど、
「エアコンの効き」と「燃料タンクの小ささ」が短所だ。

ユリの家の前のコンビニで電話を掛けて呼び出す。
電話が繋がる前に2階の窓が開いてユリが出てきた、手には携帯が握られている。
「まっててー、いま降りるからー」電話に出れば良いのに・・・。


ユリを乗せて、近所の自然公園に向かった。
タバコを吸う私にとって最近の街は不自由だから、だべる時はいつも此処だ。

「はー、疲れたぁ~」タバコを持ちながら、背伸びをした。
「で、用は何? パンツでも盗まれた?」
私は笑いながら言った。

「んー?パンツは盗まれて無いケド・・・あっ!」
ユリは何かを見つけた様だ。

草むらにダンボール箱が有り、中には小さなネコが4匹入っていた。
一匹は既に死んでしまった様だ。

他の仔ネコも相当衰弱している。
ユリは、まだ生きている仔ネコを抱きかかえて暫く動かなかった。

ユリが降ろした仔ネコは元気に動き回っていた。
その代わり、ユリの顔は青ざめていて辛そうだ。

私はユリを公園のベンチまで連れて行き、
座らせた後、ネコの所に戻ってコンビニ弁当に入っていた焼き鮭を置いてきた。

ユリはいつもそうだ。
死んでいく生き物を無視できないのだ。

でも、その能力にも限界がある様で、
死んだ物を甦らせる事は不可能。
元気にしてやると、代わりにユリの体力を消耗する様だ。

止めろと言っても聞かないし・・・。
私は見ているだけだ。

グッタリしているユリの横で焼き鮭の無くなったコンビニ弁当を食べていると、
足元にさっきの仔ネコが寄ってきた。

無視して目の前の川を見ながら弁当を食べていると、
横でコンビニの袋がガサガサ音を立てた。

ネコが悪戯しているのだと思って横を向くと、ユリが「おにぎり」を取り出していた。
まだグッタリしていると思っていた私はビックリして、
里芋を喉に詰まらせて咳き込んだ。

ユリは仔ネコにおにぎりを分けながら食べていたが、
急に思い出した様に立ち上がった。

私は食べ終わった弁当のカラ箱を袋に詰めて後を付いていった。
思った通り、ユリはさっきの「死んでいる仔ネコ」の所へ行った。
ユリは死んでいる仔ネコを抱き上げて涙を流して泣いていた。

彼女は自分には関係無い命の為に涙を流せるのだ。
私にはマネ出来ない。

後ろでタバコに火を着け、その光景を見ていた。
服が汚れる事も、人の目も気にせずに地面に膝を付けて小さな無き声を上げる。

タバコを一本吸い終わった後、ユリの肩に手を乗せて言った。
「ネコのお墓でも作ってあげようか?」
ユリは無言で頷いた。

手頃な木の枝を拾って地面を掘り、穴を開ける。
その中に仔ネコの死体を入れて土をかけた。

2人で手を合わせて目を閉じた。
私はユリと友達になってから決めた。
「私にはユリの様に涙を流せない、だけど命を尊ぶ心を忘れない様にしよう」と。

帰りの車の中には、「きちゃない仔ネコ」が3匹暴れていた。
ユリは疲れて寝てるし、車内は毛とネコウンチが散らかるし、最悪だ。

                   
                  -つづく-

       

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