Neetel Inside 文芸新都
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カモンゴースト
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「僕はセミだったよ。」
TVの画面でせわしく動くキャラクターをじっと見つめたまま、僕の唯一の友人は呟いた。
しかしどう見ても彼は人間だし、もちろん彼の両親もずっと人間で、彼の遠い先祖がセミであるとも思えなかった。
「僕はセミの気持ちがわかる。」彼はさっきよりはっきりとした口調で言いなおした。
僕は漫画を読む手を止め、彼に尋ねた。
「どう鳴けばより多くのメスが寄ってくるとか、アブラゼミのフォルムには他と替え難い魅力があるとか、そういうこと?」
「違う。昨日さ、なんとなく近くの商店街まで行ってみたんだ。」
セミと商店街の共通点。どちらも名付けの親は僕じゃないこと。
「僕の場合はまだ2年かそこらだったけど、1日外に出ただけで、信じられないぐらい疲れてしまった。昨日は20時間ぐらい寝たよ。でもセミはもっと何年も――詳しくは知らないけど――土の中にいるんだろ?そりゃそれだけ長いこといていきなり外に出たりしたら、セミじゃなくても1月と持たず死んじゃうんじゃないかな。そういうこと。」TVの画面を見つめたまま、彼は言った。
僕らは徒歩10秒のお互いの家を行き来するぐらいで、外出という外出をここ2年あまりしていなかった。幸い僕らの親は一代では使いきれないほどの資産を持っていて、僕らはそれを食いつぶしていくことを許してくれた、というより僕らの生き方について無関心を決め込んでたようだったので、将来の不安を感じることなくニートを楽しめた。2年というのは、僕らが中学を卒業してから経った年月でもある。
「死ななくてよかったね。」と僕は言った。
彼はそれきり何も言わなかった。
どちらにせよその彼の奇行は、僕らにとってビッグニュースであることにはかわりはなかった。そして僕にとっては彼がセミに興味を持ったということも、奇行のそれより遥かにビッグニュースだった。10数年間ほとんどの時間を僕らは共有してきたが、彼がゲーム以外の物に興味をしめした様子を見たのはこれは初めてだったからだ。その日から、彼は色々な物に興味をしめすようになった。それらは取るに足らない小さなことばかりだったけど、そのことに僕はいちいち驚かなくなってきたころ、彼は地図を片手にとんでもないことを言い出した。
「なあ、九州におもしろい所があるらしいんだが、行ってみようぜ。」
その衝撃的な切り出しから小一時間に及ぶ彼の話を要約すると、九州の田舎の方に魅力的な廃村があり、日中はただの寂れた場所なのだが、いざ日が沈むとオカルトな噂の絶えない超穴場心霊スポットに豹変するらしい。
なんて馬鹿らしい事を言い出すんだとあきれ返った。次の日、気がつくと僕らの体は新幹線に揺られている。セミ科の憂鬱も目覚めたばかりの好奇心には勝てなかったらしい。

       

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