Neetel Inside 文芸新都
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アナログメール
知らない素顔

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 桜の風景がよく似合うこの日、学校は学生でごった返していた。
なんの取り合わせか、今日は入学式と始業式が重なっているために人で溢れているというわけだ。
あっちで活き活きと眼を輝かせている学生たちは新入生で、その姿を休みボケと言わんばかりに虚ろな表情で見ているのは在校生だ。もちろん、俺もその一人だった。在校生の皆は考えることが一緒で「これからまた面倒臭い学校が始まるのか」と、万国共通の話題に草を生やしている。女は不思議なもので、俺たち男とは違って学校が始まるのが待ちきれなかったようにお喋りに花を咲かせている。その有り余る余力を俺たちに注いで花を咲かせてほしいくらいだ。
「よおっ」
空虚なテーマに頭のお花を咲かせようしたが、水差しを止められた。
「終業式以来だな、何ヶ月ぶりだっけか」
「何ヶ月ぶりってお前なあ、昨日一緒に海いったじゃねぇか」
 すらりとした長身に筋の通った容貌は、一言で言うとモテる奴。人生勝ち組ってやつだ。なんでそんな俺最高みたいな奴が俺と一緒にいるのかわからないが、相性はいいらしく、小学校からの付き合いもあってか、今じゃ立派な親友として今も床を一緒にしている。あーいった意味ではなく、2人で一緒に田舎から出てきたため利点を活かしたためにこうなったわけだ。
 「いや悪い、普通に忘れてただけだ。休みボケっていうのか」
 「いやいやそれは休みボケじゃないだろ・・・jk」
 「まぁいいや、新クラス見たか?」
 「まだ見てないが、それがどうかしたのか」
 「ははーん、やっぱりお前は損するタイプだな!」
こいつの普段の姿は落ち着いていて素直クール、クーデレってやつか?ちょっと違うか。とにかくこいつが笑うと本当に可笑しいように笑う、周りの半数がキャラを疑ってしまうんじゃないかって勢いくらいバカみたいに笑う。現にムカつくし。
 「うるさいよ。で?何かあったのか」
 「悪ぃ悪ぃ、お前は2年のBクラスなんだけど同じだぜ」
 「…何がだよ」
 「気になるか?」
 案の定、冬樹は口元をゆがめ擬音が付きそうなほどニヤニヤと笑っている、ムカつくし…。
 「気になんねぇよ、じゃあな」
 「わーったわった、俺が悪かったって!」
 「何なんだよ…」
 「実はな、お前のBクラスに噂に名高い撫子がくるらしいぜ」
  撫子というのは、1年に1度行われる学園一の美女を決めるコンテストの優勝者の呼び名だ。何でも呼び名や歴史には所以があるらしいが俺は知らない、知らなくても困らないし。
 「おー、すげー」
 「棒読みかよ、やっぱ乗り気じゃねぇなあ」
 「やっぱお前って不感…」言い切る前に左手がすっ飛んだ「殴ることないじゃん!」
 「俺は興味ないだけって、キレイ可愛いだけだろ」
 「ッつつ…とりあえず伝えたぜ、後で報告してくれよな!」何をだ。
 足早く冬樹は廊下の影に消えていった。あんなに眼をギラつかせて言ってくるってことは、相当気になってんだな。
 
校内に日が射す頃、学校には俺を含め一部のクラブ活動している学生しかいなかった。少なくとも校内では俺一人だった。
 俺はいつものようにまっすぐ進む。数える間もなく目的の場所に着く。ネームプレートには図書分離室と書いている。要は図書室に置けないありあまった本や予備の蔵書など本の倉庫だった。ポケットにしまってあった鍵を取り、鍵を開ける。
 休みの間、人の出入りがなかったのか埃が宙を無尽に舞っていた。
 俺はとりあえず窓を開け、埃っぽいグレーの空気を入れ替える。少し肌寒い空気と共に黄金色の日差しが肌を射した。
 教室と身体を鮮度な状態へと充分に満たしてから、俺はいつもの日課へ移る。
 「久しぶりだな…」前の日記がうっすらと書き残されていた。
 人の居ないこの時間、素の自分がだせ落ち着けるこの一時を手に入れてから、俺はこの教室の机に日記を書くことを日課していた。最初は数時間教室で本を読んだりしているだけだったが、興味本位で日記を書いていたら知らずのうちに日課になっていた。習慣というのは恐ろしいものだ。
 「ふぅ」
 今日はペンの走りがよかった、久しぶりだからだろうか?こんな日はゆっくりしてから帰りたかったが、入学式始業式の後なので下校時間は早い。俺はカバンを閉じ、日記を残しその日を跡にした。

     

 おはよう。いや、もう夕方前だしこんばんはかな。
 今日は始業式、新入生にとっては入学式だけど俺には関係ないけど。君も始業式だよね。どうだった?
 相変わらず、漆先生の件は長いし疲れるよね。ある意味学校の名物かも。飽きずに10分以上もよくやるよ…。
 そうだ、今日は発見があったんだ。
 
 あぁ…でも、たいして面白くないし今のなしで。って、もうこんな時間だ。終業式以来だったけど、君は元気だったかな。

*****

翌朝、相変わらずの肌寒さの残る空模様だったが、それを除けば過ごしやすい1日だった。
桜の入学式から1年、学校までの通学路は色々と便利なものも出来てきたが、20分もかかる道は相変わらず憎たらしかった。うん、憎たらしいな。
 休み明けの運動に多少息を切らせ、新しいクラスに入ると見覚えのある面子、見知らぬ面子の視線を頂戴する。通例儀式だけど相変わらず慣れない。
 無表情を装いながら自分の席へ着き、カバンをかけていると前の席の奴がこちらを向いて喋りかけてくる。それに釣られてか隣のやつ、後ろのやつまで暖をとろうとする。なんなんだ、新手の何かか?
 俺は無意識に左へ逃げようとしたが、窓際の席だったために敢え無くそれは阻止された。残された手段は話を聞くか、無視をする、窓から逃げるの3つだが1つ目はなんか嫌だ。最後のはココ2階だし…、無視するのがいいかと考えていると前のやつが何かを体ごと訴えてきた。
 「そろそろ相手してもいいんじゃねえか、俺はマゾじゃないんだ。マゾだけど男に対してはなく女に対してのみだなぁ……」
 まだ何か言っていたが長くなりそうなので聞かなかったことにする。
 「英田、本題からずれてるって」
 隣の奴が話を止めにかかったがあまり効果はなかった。
 「無理だよ佐伯、あーなったら喋り終えるまでとまらんよ」
 後ろの席、藤田が無駄な労力は使うなと遠まわしに注意した。昨日世話になったので藤田だけ名前は覚えていた。英田的意味で。
 「まあ、当分英田はほっといて…」
 佐伯が何かに諦め、手元の手帳を開いて調子よく喋りだす。この手帳佐伯ノートといって自分に関する好都合なことを全て書き留めているらしい。他にも色々書いてあるらしいが…。
 「本題なんだけどさ、席も近いしこうやって仲良くなったんだしさ。学校終わったら4人でカラオケいこうよ、仲良くなったよカラオケ」
 なんだよそれ。「いいね、いこうぜ!!」と英田、いつから復活したんだ。「今日は何もないしいいと思うよ」
 俺除く3人は合致し、流れは何を歌うか行く前提への話しに。俺もメンバーとして入ってるのに俺の賛否はなしなのか。寧ろ、昨日少し話しただけでまだ友達じゃ…「俺たち友達だよな」英田がニッカリと笑顔で問いてくる。こいつ読めるのか。
 色々理不尽だ、友達はまだ考慮するもなぜカラオケなんだ。くそう。
 「悪い、今日は大事な用事があって外せないんだ。だから行けない」
 適当に理由を付けて断る。さすがにこう言えば強引でも引くしかないだろ。
 「なんだ、そういうのは早く言えって」「僕らは他人の意思、事情、私用は考慮するよ」「そうだな、俺たちは別に無理強いはしない」
 なんだ、案外分かってるじゃないか。というか、藤田違うだろ。しかし、これでカラオケはなくなった。空気の読めるやつらでよかった。
 「じゃあ、カラオケは明日だな!!」「ぶっ」
 その一言で満場一致。反抗虚しく俺の予定は強引にも埋められてしまった。

 放課後、残る生徒は一部の生徒と部活動の学生だけとなった夕刻。
 俺の足は意識から外れたように自然と図書分離室へ向かっていた。
 旧校舎の2階に位置する比較的大きな教室。大きな教室といっても大半は机や本棚に占領されていてスペース的には小さいわけだけど。
 鍵を開け、扉を引く。
 陰の落ちた教室、茜色の夕日から漏れる黄金色の陽射し。その組み合わせは寂しくもどこか居心地のよさを身体に染み付かせる。
 そして、俺は息をすることも忘れ教室に身を刷り込ませた。
 足は一直線にひとつの机へ向かった。なぜだか机に書いた日記が気になってしかなかった。こんなことは日課を始めてから初めてだった。
 躍る視線を机に書かれた文字列へと安定させる。
 「なんだこれ…」
 思ってもみなかったことに思考が停止する。こんなことはドラマかアニメだけだと思っていた。実際に起きてしまうと思考どころか身体も時も何もかも止まってしったようだった。
 机に書いてあったはずの日記は全てなくなっていた。いや、消されていた。
 変わりに少し丸みを帯びた字で、
 こう書いてあった。

 「メッセージ、あなたは返さずにいられますか?」

       

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