Neetel Inside 文芸新都
表紙

改造人間タイガーバロン
その名はタイガーバロン

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1987年。
 僕は、はじめてヒーローを見た。
人々に襲い掛かる醜悪な怪人と、逃げ惑う人々に背を向けて果敢に立ち向かっていく怪人。
同じ怪人でも、僕は平和を守っているほうがかっこいいと思った。

1992年。
 保健室で読んだ本には、未来のことが書いてあった。
空飛ぶ自動車に、パイプラインで繋がれたビル、ビル、ビル。
なんでもこのパイプを通れば目的地にあっさりと到着するらしい。
それで未来人は、文明の発達により運動不足に陥り、
ハゲでヒョロヒョロの体になってしまうのだ。
僕は、来るべき21世紀に向けて、自分の髪の毛の心配をしていた。

1996年。
 1999年7の月、世界から恐怖の大王がやってくる。人類は滅亡する。そんな予言が流行っていた。
未来世紀を迎える前に、俺は死んでしまうのだろうか。
きっと、恐怖の大王というのは、子供の頃に見たような悪の大首領に間違いない。
いや、もしかするとなんとか星人が操る巨大な怪獣かもしれない。
あれこれと地球の未来を心配したが、答えが出てくるはずもなかった。
恐怖の大王が来たら、いっそのこと戦ってしまおう。
電磁波とかの影響で、パワーアップできるかもしれないし。



     

1999年。
 「ハッピーニューイヤー!2000年おめでとう!!」
やっぱりな。ノストラダムスのホラ吹き野郎が。

2001年。
 ポルノグラフティの見解は正しかった。
車もしばらく空を走る予定もなさそうだ。

2008年。
 今年もロクなことがなさそうだ。
少年犯罪は凶悪化し、自殺者も年々増えている。
俺ももう大学3年生だし、これを読むあなたは大学の教授です。
そんな感じで一切が過ぎていきます。他に取り立てて書くことはありません。

                   

     



学籍番号01640 滝川健二



「ま、こんなもんでいいだろ」
滝川健二は、いい加減な字で書き殴ったプリントを満足気に読み返した。
城南大学に通う学生である彼は、先週の講義で出された課題のチェックをしていたのだ。
心理学の講義にて使うとのことだったが、こんなものを提出して自分のなにがわかるのか、
全く持って疑問だった。おそらく講義の大半は寝て過ごしているから、
こんなことを疑問に思うのだろうと自嘲気味に答えを出す。

「さて、講義に遅刻すると出席扱いにならないからな」
健二は颯爽と上着を羽織ると、重い足取りでマンションの外へ飛び出す。そう、健二は学問があまり好きではないのだ。

「…ん?」
ふと見ると、マンションの入り口に見慣れない車が止まっている。
ははあ、あれだな、違法駐車って奴か。それとも恋人でも待ってるのか?チッ、なら死ねよ。
邪推が混じった負け犬的思考。心の中で呪詛の言葉を吐き捨てながら健二は通り過ぎる。事・故・れ、事・故・れ。

「ああ、君。ちょっと、いいかね?」
何の予告もなしに車の窓は開き、何の前触れもなしに男が健二に話しかける。
「…あ、はい。なんでしょうか?」
「ちょっとアンケートに協力していただけませんでしょうか」
面倒な要請だ。お前のノルマがどの程度のものか知らないが、
俺は講義を受けるという学生の本分を果たさなければならないのだ。

「今ちょっと、急いでますので」
でき得る限りさわやかに断ると、健二は普段の倍のはやさで歩き出そうとする。嫌な奴だ。
「なぁに、ほんの3分で済む簡単なものですよ」
なんというしつこい男だ。うんざりしながら再度断ろうと振り向くが、

プシュッ!

これまた何の前置きもなしに車から煙がわあわあと立ち込める。
ま、まさかこれは毒ガス!こいつはきっとKGBのスパイで北方領土だけでは飽き足らず、日本全土を我が物にしようと――

健二のたわけた思考はそこまでだった。



     

鳴り響く電子音。目まぐるしく動く機械の音。とおい過去、歯医者で味わったあのドリル音。

「……う、うう」
メカニックな騒音どものおかげで、健二は目を覚ました。
朦朧とする意識であたりを見回せば、音が知らせてくれた通り機械しかない。
パネルに様々な色を映し出し、発光を繰り返す謎の箱。
キュルキュルと映写機で使うようなテープが周り、何やら紙を放出している怪しげな箱。
バチバチとプラズマを発生させてる謎の球体。

「これは……まるで……」

「おはよう、滝川健二君」

何処からか声が聞こえる。こんな声を何処かで聞いたことがあるような、健二はそんな気がした。

「ここは何処だ!?俺はどうなったてるんだ!?このっ……」
起き上がろうとしても、何かに引っ張られる。鎖だ。両手両足を鎖で縛られているのだ。
おまけに大の字だ、しかも仰向けだ。これは明白な人権侵害であり、憲法違反だ。

「ようこそ、ベクトロンへ」
「ベクトロン!?」

人権蹂躙を訴える前に、謎の声に先を越される。

「そう、そして君は選ばれたのだ。栄えあるベクトロンの改造人間として!」
「な、何のことだ?」
「君のDNAは実に理想的だ。我々が望むものと実によく一致している。それに、身体能力もいい。
今年の箱根駅伝では新記録を出したそうじゃないか。その強靭な脚力、鍛え抜かれた筋肉。
君こそ、我々ベクトロンの一員たるに相応しい」

怪しい声の主に褒められてもちっとも嬉しくない。

「ふっ、ふざけるな!俺はこんな、うさんくさい倶楽部に入会した覚えはない!!」

「ハハハハハハハ……もう遅い、遅いのだ。健二君。何故なら君は既に、
ほとんどベクトロンの一員になってしまっているのだから」

何の変哲もない天井が急に鏡へと変わる。

「じっくりと見たまえ。今の君の姿を!」

うっすらと銀色に輝く漆黒のボディ。
手に吸い付いて離れない真紅のグローブ、ブーツ。
そして何よりも虎そのもの、いや、それよりもさらにおぞましい異形の顔。
紫がかった水晶のような二つの目は、鏡に移る醜悪な化け物を否応無しに捕らえていた。

「これは、こ、れは……」
健二はうわ言の様につぶやく。信じがたい事実を前にして、つぶやく以外に術は無かったのだ。

「理解してもらえたようで何よりだ健二君。
それでは、そろそろ君には完全なるベクトロンの一員になってもらうとしよう」

いつの間に沸いて出たのか。辺りには手術着に身を包んだ医者らしき男たちが健二を取り囲んでいる。
これはきっと盲腸の手術なんだ、これは演出なんだ、そう、あれ、ドッキリカメラとかそんなのだ。
カメラは何処にあるんだ、カメラは……

いくら現実逃避を試みても、陽気なアナウンサーと看板は一向に現れる気配は無い。

「や、やめろ!やめてくれぇ!!俺には田舎に残した家族がいるんだぁ!!」
「君の出世を、御家族もさぞ喜ばれることだろう。さあ、脳幹から前頭葉まで、
脳の底からベクトロンに染まるがいい!」

俺はお前の兄さんだ、実は妻子が居るんだ、塾があるんだ、アンヌ、僕はね、M78から来た宇宙人なんだよ。
考える言い訳を全て吐き出すものの、非情なるベクトロンとやらは一向に耳を貸してくれない。

いよいよ年貢の納め時、執刀医のメスが健二の頭蓋を引き裂かんとしたその時だった!

バツン!!

突如、辺りは暗闇に包まれ忌まわしい機械音も止まった。
機能の停止とともに、健二を拘束していた鎖がボロボロと音を立てて崩れ去る。

「さあ、何をしている!早くここから逃げるんだ!!」

またも見知らぬ声があたりに響く。

「誰だ!?あんたは、誰なんだ!?」
「そんなことはどうでもいい!ここの機能が回復する前に、さあ、早く!!」
「誰か知らんが、ありがとう!」

健二は謎の声に助けられ、無我夢中で駆け出した。この現実から逃げる術を探すかのように。

     


「はぁ……はぁ……」

はじめての秘密基地探検ながらもなんとか逃げ出した健二。
気が付くと、辺りは何もない荒野だった。
ただ、岩肌を晒すだけのこの大地。

「俺は、一体どうなってしまったんだ……」

「見つけたぞ、滝川健二!」

微妙に現実逃避を試みる健二に、甲高い声が響く。これは確実に人間が不快に感じる音域だ。

「バ~ラバラバラ……俺はベクトロンの改造人間、バンバラバンバンマンだ!
全能なる皇王様に刃向かう、馬鹿者め!ベクトロン1の索敵能力を誇るこの俺から逃げられると思ったか!
いいか、確かにお前はちょぉ~っとばかし強いらしいが、今の貴様は自分のことなど何一つ分からぬ、
ようするに赤子同然。貴様を倒すことなどまさに赤子の手をひねるように簡単なことよ!
なにせこの俺様の能力と来たらそりゃあもう、ストーキングにはさいてきっぶぁるが!?」

健二は殴った。目の前の物体を。そうだ、これが、これこそが。

「俺を、俺を、俺の体をぉぉぉぉ!!」

1、2、3、4…幾度も殴る。目の前の物を。憎しみをぶつけるのはこいつしかいない。
怒りを静めるにはこいつしかいない。

「バラっ!バラ!バラっ!馬鹿な……このバンバラバンバンマンが、
手も足も出せぬと言うことが、あってぇ!たまるかぁ!!」

怒声一発。突然、健二の拳が空を切る。
何故かお分かりだろうか?そう、奴は突然姿を消したのだ。

「バーラバラバラ……わからないだろ、わからないだろぉ?俺様が何処に消えたか、バーラバラバラァ!!」

バンバラバンバンマンは致命的なミスを犯していた。


「ぷぎゃあ!!」

それは、ここが荒野だということだ。

「し、しまったぁ……ここでは分離しても、丸見えだぁ……」

健二は地面のところどころに落ちているわっかのような物を1つ1つ足で踏み潰していく。
その圧倒的な踏み躙り力は真性のドMならむせび泣くどころか確実に命を落としてしまうだろう。

「ぐぎゃあああぁぁぁぁ!!ま、まままま待て、話し合おう。
やっぱり僕としては民主主義を貫くのが、一番憲法的だと思うんだ」

「俺をこんな体に改造した組織の手先が、何をほざく!!」

「ぐぎゃあ、や、やめ……て、くださ……や、や」

「死ね」

健二が最後の1個を踏み潰すと、バンバラバンバンマンは声も無く消えうせた。




健二の周りにはもはや何も、ない。

広い荒野にただ一人たたずむ異形の者。

改造人間はただ呼び続ける。

「俺は、俺は……」

自分自身。その意義を。

     

次 回 予 告
         
自分探しの旅に出た滝川健二の前に、予期せぬ災難が降りかかる。

突然握られる俺の腕。
                   
女子高生は叫びだす。
                   
「この人痴漢です!!」
                 
冷たい乗客の視線、詰め寄る駅員、迫り来るポリ公。

それでも僕はやってない。ベクトロンの仕業か!

次回、改造人間タイガーバロン
                   
「その冤罪に手を出すな」

お楽しみに!

       

表紙

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Neetsha