「ポラロイド」
彼女が好きだった古いポラロイドカメラ。
デジカメじゃないなんてなんだか古臭いなぁなんて思っていた。
画質だって悪い。
それでも彼女はポラロイドカメラが好きだった。
きっと僕よりも好きだった。
カメラに僕は負けた。
古臭いカメラに僕は負けた。
譲りもののカメラに負けた。
でも、彼女はバインダー越しに僕を見ていた。
カメラは彼女を見ることはできない。
ある日ふと思い立って、ポラロイドカメラを借りて彼女を撮った。
恥ずかしそうに髪を撫でつける仕草を今でも時折思い出す。
シャッターを切って、僕は瞼を閉じた。
カメラはやっと彼女を見ることができたようだった。
それから数年して彼女はこの世を去った。病名は忘れた。
遺影は僕の撮ったものではなく、別のものだった。
彼女の写真は本になって発売された。
少しだけ売れて、すぐに忘れられた。
昨日部屋を掃除している時に彼女が写っている写真を見つけた。
捨てたハズだったのだけれど、僕の手の中には確かに写真はあった。
照れ笑いしている彼女を久し振りに見つめる。
僕はやっぱり古臭いなぁ、と思った。