「コーヒーを飲みながら」
彼女の趣味はコーヒーを淹れること。
それを聞いて、コーヒーが嫌いな僕は必死になって飲んだ。
飲みまくればコーヒーを克服できると思っていたからだ。
くる日もくる日も飲みまくった。
そして、今日もまた無料のおかわりサービスを嫌々ながら利用した。
カフェインをとるならコーラだっていいじゃないか。
そんなことを考えながらまた一口。一口。
子供の頃、ビールは大人になれば自然に飲めるようになると思っていた。
最初のころはやはり苦くて飲めたものではなかったが(今でも苦いとは思う)
少し経つと、やっぱり飲めるようになっていた。
味覚が変化したのか、単に慣れなのか。理由はわからないけれど。
それと同じでコーヒーだって飲めると思っていた。
しかし、それは大きな勘違いだった。
何度飲んだところで、「嫌い」に変化は訪れなかった。
どれだけ僕は彼女にぞっこんなのだろう。
もしもこれがコーヒーではなくて特別な性癖だったりしたら、
それでも僕は彼女に付き合うのだろうか。
「嫌い」という感情はなくなるのだろうか。
彼女はコーヒーの飲めない僕をどう思うのだろう。
やっぱり僕はコーヒーが嫌いだ。
くだらない考えが頭を駆け巡る。
最近眠れないのもコイツのせいにちがいまい。
目の下のクマも、感傷的になるのも、全部コーヒーのせいなのだ。
だからコーヒーは嫌いだ。
今度正直に彼女にそう伝えよう。
野菜やビールとはわけがちがう。
もっと根本的な何かが僕とかみ合っていないのだ、と。
遅れて店に入ってきた彼女に声をかけながら
僕は一気にコーヒーを飲み干した。
下に砂糖が溜まっていた。
どうりで甘くないわけだ。くそ。