Neetel Inside 文芸新都
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この町のレゾンデートル
第二話「嘘は無い」

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「ママなんか嫌いだから!お仕事ばっかりで何で遊んでくれないの!?」
 嘘だった。お母さんのことは大好きだった。
遊んでくれなくったって、大好きだった。
父のいないこの家で私と生活するには、お母さんが働くしかないことぐらい
六歳だった私にも分かっていたから。
 けれどもその日から、お母さんは遊んでくれるようになった。
どうしてそんな時間ができたのか、何故疑問に思わなかったのかと
今でも悔やむ。お母さんが過労で倒れるのにあまり時間はかからなかった。
「お医者様が、ママはがんばったから倒れたっていってた!
なんでそんなにがんばるの!?」
 お母さんはお金がほしいから、働きすぎたのだとその時は思っていた。
「沙良に、嫌いになってほしくないから……」
 病院のベッドの上で弱弱しく呟かれた答えに、私は一瞬意味が分からなかった。
そして、遊んでくれないから嫌いだと、自分が駄々をこねたことを思い出した。
「ご、めんなさい……」
 謝ったってお母さんは元気にならない。
でも、謝ることしかできなかった。
自分がこねた駄々でお母さんは死にそうなのに、自分は何もできない。
祈って謝って、お医者様にお願いしても
お母さんはよくなったりはしなかった。
 結局、弱ったところをウイルス性の肺炎に追い討ちされて
あっという間に死んでしまった。
 自分がついた「嫌いだ」という嘘で、母は死んでしまった。
それを思うと涙が止まらなかった。
死んだ日の病室でも、お通夜でも、お葬式でもずっと泣いていた。
「私が殺したんだ!私があんなこと言わなければママは死ななかったんだ!!」
「沙良ちゃんのせいじゃないよ、だからもう泣かないで、ね?」
 私が叫び泣いていると、決まって皆言う。
何でそんなくだらない嘘をつくのかと思った。
「嘘つかないでよ!」
 ある日、沙良ちゃんのせいじゃないよと言ったおばさんに
そう叫びながらビンタした。
おばさんの口の中が切れて、血が出てたけど気にならなかった。
 私は嘘をついてお母さんを殺してしまった。
それなのに皆嘘をついて、私に嘘をつかせようとする。
私のせいじゃないと、私に思わせようとしている。
そんな気がして悲しかった。
 私はただ、自分が殺してしまったことを認めてほしかっただけなのに。
そこから逃げないで、進ませてほしかっただけなのに。
 私は、それからもずっと泣いていた。
まだ、泣き足りなかったけれども、そのうち泣けないほど忙しくなった。
私を引き取ってくれるはずだったのが、ビンタしたおばさんだったのだ。
おばさんは、こんな暴力少女は引き取れないといい始め、
そこから私は、親戚中をたらい回しにされた。
最後に引き取ってくれることになった遠い親戚のおじちゃんも、
「俺が面倒みるのは中学卒業までだからな。そこからは
お前は働ける年齢だ。つまり、自分で生きていってもらう」
 なんてことを小学一年生の私に言った。
その言葉を聴いた私は、悲しく無いわけではなかったけれど少し嬉しかった。
だってその言葉は、嘘じゃなかったから。

       

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