1 ハジマリ
平成18年8月5日。日差しが強い夏の日。
僕は休日を自宅で過ごしていた。
お気に入りの曲を聴きながら近くの古本屋で買った小説を読むのが僕の休日の過ごし方だ。
今回の本はシリーズ物のミステリー小説。主人公が謎を解いていく一般的なミステリー小説だが友人に進められずっぽりハマってしまった。
この日もこのまま一日中窓際のソファーで扇風機の風で涼みながら時間を潰す予定だった。
ソファーにもたれてカラン、とグラスに入れた氷が解ける音が聞こえる。
本を読みながらいつの間にかうたた寝していたようだ。
窓から外を見ると空はもう紅色に染まっていた。
適当に夕食を作り、食べ終わって一息付いた頃、
何か頭の中で言葉が聞こえた。
・・・暑さに少し疲れたのだろうか。
僕は体を冷やすためにシャワーを浴びに行く。
シャワーを浴びている途中でも頭の中で出てきた言葉が気になって落ち着かない。
何故こんなに気になるんだろう、どうせ大したこと無いんだからさっさと忘れてしまおう。
そう僕は思い込ませた。
シャワーから上がり謎の言葉も薄くなって来た頃、ベッドで横になって居る僕を睡魔が襲ってきた。
いつもは日が変わっても襲ってこない睡魔が今日に限って襲ってくる、何でだろう・・・。
ふとさっき頭の中に出てきた言葉が過ぎる。
・・・を・・えて・・・
僕は断片的な言葉を思い出して眠りに落ちた。
翌日 午前8時。
夏の朝は日の出が早く、僕が目覚めた頃には辺りはもう夏の熱気を帯びだしていた。
しかしまだ眠気が晴れない僕はもう一度寝ようとベッドに潜り込む。
だが一つ異常な光景が目に入った。
机の上に古く色あせた巻物が置いてある。
僕はそれを見てベッドから飛び起きた。
まさか泥棒が入った・・・?いや、それならこんなもの置いていく必要なんて無い。
窓開けっ放しでどっかから飛んできた?いや、偶然こんなものが風で飛ばされるわけが無い。
仮に飛ばされたとしても偶然机の上に落ちるなんて事、ありえない。
僕はありとあらゆる可能性を考えたが全く理解できなかった。
それにしても何だろうこれ・・・
見た感じ色褪せた紙を丸めて蝋の封印をしてるみたいだけど・・・
僕は段々その紙の内容を見てみたい欲望が強くなった。
恐る恐る何も柄の無い蝋の封印を割り、紙を広げた。
見た事も無い文字だった。
いや、文字なのかさえ判らなかった。
大体の人は気味悪がってしまいそうな、そんな不気味ささえ漂わせていた。
だが何故か僕自身、その紙に書かれている何かを見ていると、読めそう。と思えて来た。
その時ふと昨晩の事を思い出した。
・・・を・・えて・・・
忘れようとした筈の幻聴がこうも引っかかる。
謎の幻聴と謎の巻物。
ある日突然僕を襲った不可思議な現象だった。