『科学と魔法と理と(仮)』
砂塵吹き荒れる場景。
確かに記憶に刻み込まれたのは、それくらいかもしれない。それ以外のことは今もあやふやな記憶として脳裏を浮遊するばかりだ。
俺の指に触れていたものは鉄であったかもしれないし、もっとちゃちな代物であったかもしれない。
「兄貴……か」
今思えばその一言が俺を縛りつけていたのかもしれない。否、それは過去形で表わされるものではないし、過去形になる前にこの身は滅びるだろう。それだけあやふやな記憶でありながら、鋭利な刃物のように脳裏に確かな傷を与えている。それこそどちらなのか確定のしないあやふやな記憶。
あの時から今まで歩む道が少しでも違えていれば、少しはマシな現実を生きていけたのだろう。だが、それはこのあやふやな記憶からの指令に逆らうことになる。俺はそこまで薄情でもなければ落ちぶれてもいない。そう信じたい。
並行世界。
昔、誰かがそんなものが存在するということを謳っていた気がする。
パラレルワールド……そんなものが存在するのなら……その世界の俺はもっと別の人生を、現実を生きていけていれば。そう切に願う。
俺という人間が万に一つの可能性として、過去に縛られずに生きていけるのならの話だが。