Neetel Inside 文芸新都
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ルナーン戦記
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[1]迅雷の戦乙女

 大いに荒れて果てる平野の最中。
一辺一万歩の壁に四方が囲われた
大規模兵営が主然と聳えている。
 角四点に掲げられた軍旗は
黒地に十字と"白鷹"の画が描かれている。

「お早う。諸君」
 壇上に登る少女の朗らかな挨拶。
女史の頭より二回りも大きな軍帽は不恰好さを
あからさまに顕していたが哂うものはいない。
 扇状に広がる一万二千の兵達は
一斉に最敬礼の挙手で迎え入れた。
「お早うございます。大元帥」
 扇の始点で整列を統括する大元帥親衛隊―…
女史直属の護衛部隊長が代表して挨拶を交わす。
 女史は軽く頷くと皆に"休め"の支持を出す。
「漸くここまで来た」
 淑やかに始まる口上。
「かの狂気に染まる星が」
 右の端から一人ひとりと視線を合わせるように
眼と顔を動かす女史の頭上には蒼い月が微笑む。
「空に居ついて以来永らく」
 元来なら白き陽が在るべき位置に。時間に。
「吾等諸君は苦汁を舐めてきた」
 吾等とは"私達"を意味する古語である。
女史はこうした古語を好んで用いた。
「魔物―…痴れる獣どもは人肉を好み」
 扇全体が嗚咽を漏らす。
殆どの軍人は身近な者を魔物に食われている。
家族であり、恋人であり、同僚である。
 また、卑しく雌を好んで食む魔物は
怒れる青年達を討伐と云う一念の元、軍に集めた。
「悪魔―…狂気に堕ちた人は暴徒と化した」
 異論は強く残りながら、
人語を解し二足歩行する魔物を悪魔と呼ぶ。
半ば以上狼のような獣であったり、
"外道法"を用いる人間を総称した。
 悪魔化した知人を持つ兵は多数派ではなかったが
その鮮烈な記憶を思い起こさせ、扇の中に泣き出す者がいた。
「そして、魔王。"幻月城"に巣食う諸悪の根源」
 あたかも女史の言葉に呼応するように。
幻影摩天楼の彼方に古城が空に朧気と浮かび上がる。
但、遠からじ。誰もがそう断言できる程に巨大強大な影。
 圧倒的な威圧感に一糸乱れぬ筈の扇が揺らぐ。
「彼奴等を一掃する機会が来た」 
 女史、翻る。扇を背にし、目的地たる幻月城を睨みつけ、
腰に差した"聖剣"エクスカリヴァーを抜いた。
「往くぞ最終決戦!」
 世界神聖軍大元帥ユリアリアの雄叫び。咆哮。
聖剣の鋭鋒を天高く掲げた、その瞬間。
カッ
 暗雲を切り裂いて、一陣の雷が鳴る。
聖剣目掛け、吸い込まれるように落ちた。
 それは天啓神託だったのだろうか。
女史は帯電する刀身で幻月城を指し示し、再び叫ぶ。吼える。
「突撃!」
 兵営を囲うように掲揚される四枚の軍旗が風に翻る。
彼らの健闘を、勝利を、生還を祈るように。

ユリアリアは今日より"迅雷の戦乙女"と呼ばれることとなる。

       

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