短編「ドラえもん Another Ending」
夕焼けが、街を赤く染めるある日の夕方。
今日も、のび太はジャイアンとスネ夫にいじめられて帰ってきた。
「ドラえもーん…!」のび太はまるで漫画みたいに涙を流しながら、
勢いよく、自分の部屋のふすまを開けた。
ドラえもんは、いない。時が止まったかのように静まり返った自分の部屋。
「そっか…もうドラえもんは…いないんだっけ…」
ドラえもんは、昨日未来へ帰ってしまったのだ。
のび太は無言で、明かりもつけぬまま部屋の隅っこにうずくまった。
「ん?あれは…?」
部屋の向かい側の角に、何か立てかけてある。
ごそごそと這うようにして、のび太は反対側の角に向かった。
それは、ドラえもんの形をした小さな箱だった。
「そういえば…」のび太は思い出した。
帰る前、ドラえもんは言ってたっけ。
『何か困ったことがあったら、これを開けてごらん。
そのとき君に必要なものが入ってるから』
さすがドラえもん。復讐の道具を残していってくれた。
のび太は、にやりと笑って箱を、開けた。
「…」
入っていたのは、透明な袋に入った、米粒ほどの大きさの薄黄色の固まり。
「なんだこれ!鼻くそじゃないか!!」
ドラえもんまで僕を馬鹿にして!
のび太がくやしまぎれに箱を投げつけようと振りかざした時、
はらり、と一枚の紙が落ちた。
「…手紙だ」
のび太は、その手紙を読んだ。
『のび太君
君がこれを読んでいるということは、君はまたいじめられたのだろう。
箱に入っているのは、僕が帰る二日前、君が漫画を読みながらほじっていた鼻くそだ。
君は最初それを、左手の人差し指でほじくりだした。
そしてそれを、今度は右の人差し指ではじこうとした。
鼻くそは、はじかれず右の人差し指にくっついた。
次に君はそれを、左の中指ででこぴんの要領で飛ばそうとした。
君も覚えているように、鼻くそは左の中指にくっついた。
激高した君は、右の人差し指の腹で払った。
鼻くそは、右の人差し指に喰らい付いた。
最後に、君はティッシュを取り出し、鼻くそをつまんでゴミ箱に捨てた。
君は、本当に最後まで喰らい付いたのかい?
叩かれても殴られても、自分の全力で立ち向かおうとしたかい?
自分の限界まで喰らい付いていけよ。どこまでも、どこまでもさ。
君の鼻くそに出来たんだ。君に出来ないはずはないよ。』
手紙を読んだ後も、のび太はしばらく静止していた。
が、やがてすっくと立ち上がると、決意に満ちた表情で袋から鼻くそを取り出し、
一気にそれを飲み込んで、夕闇迫る街へと駆け出していった。
完
M/m [えむえむ]
短編「ドラえもん Another Ending」
雨と人とそれ以外
「こんにちは、いいお天気ですね」
「は?」僕の言葉に、彼女は眉をひそめた。
しまった。昨日は確かにいい天気だったけど、今日は大雨じゃないか。
一晩中、今日こそこの言葉で話しかけよう、話しかけようってそればっかり考えてて、
実際の天気のことなんか全然考えてなかった。まずい、変な人だと思われる。何とかフォ、フォローしないと。
「あ、あの、人間にとってはその、悪いお天気かもだけど、蛙とか、カタツムリにとっては
いいお天気なのかもなって」
「・・・?」
彼女の顔がさらに曇る。
雨は、ますます強くなってきていた。
何言ってんだ俺。なんでこんな時にカタツムリさんや蛙さんの心配なんかしてるんだ。
「いや、あの、人間とカタツムリは関係ないと思ってるかも知れないけど、そんなことは絶対なくて
カタツムリが悪い虫を食べてくれるから、人間は安心してお米を食べられるわけであり、
そう、世界っていうのはみんなつながってるんだよ、みんな。ミミズもカタツムリも僕らも・・・」
終わった。完璧に終わった。変質者決定。
何も聞こえないのは、雨の音のせいだろうか、それともショックだからだろうか。
と、彼女がくすっと笑った。
「面白い人。あなたって、よくここに来てますよね。あなたもここ、好きなんですか?
良かったら一緒に雨の中歩きません?蛙とか、カタツムリの事考えながら。ふふ」
雨は降り続いていた。でもその時僕には確かに、厚い雲を割って差し込む太陽が見えた、気がした。
「こんにちは、いいお天気ですね」
「は?」僕の言葉に、彼女は眉をひそめた。
しまった。昨日は確かにいい天気だったけど、今日は大雨じゃないか。
一晩中、今日こそこの言葉で話しかけよう、話しかけようってそればっかり考えてて、
実際の天気のことなんか全然考えてなかった。まずい、変な人だと思われる。何とかフォ、フォローしないと。
「あ、あの、人間にとってはその、悪いお天気かもだけど、蛙とか、カタツムリにとっては
いいお天気なのかもなって」
「・・・?」
彼女の顔がさらに曇る。
雨は、ますます強くなってきていた。
何言ってんだ俺。なんでこんな時にカタツムリさんや蛙さんの心配なんかしてるんだ。
「いや、あの、人間とカタツムリは関係ないと思ってるかも知れないけど、そんなことは絶対なくて
カタツムリが悪い虫を食べてくれるから、人間は安心してお米を食べられるわけであり、
そう、世界っていうのはみんなつながってるんだよ、みんな。ミミズもカタツムリも僕らも・・・」
終わった。完璧に終わった。変質者決定。
何も聞こえないのは、雨の音のせいだろうか、それともショックだからだろうか。
と、彼女がくすっと笑った。
「面白い人。あなたって、よくここに来てますよね。あなたもここ、好きなんですか?
良かったら一緒に雨の中歩きません?蛙とか、カタツムリの事考えながら。ふふ」
雨は降り続いていた。でもその時僕には確かに、厚い雲を割って差し込む太陽が見えた、気がした。