夕日が満ちる、放課後。
緊迫した空気と中佇むのは、二人の生徒。
軽い風がそんな空気を消し去る様に辺りを駆け抜け、二人を包み込む。
ふと、少女が声を出した。
「ご、ごめんね……海野君、いきなり呼び出して……」
「……いや、構わないよ」
少年、海野真矢が応え、また沈黙が流れた。
手には汗が滲み、どこか落ち着かない雰囲気。
対する少女は、何かを言おうと口をもごもごさせながら俯いている。
このまま何時までも時間が過ぎて行くのだろうか。
しかし、ずっとこうしている訳にはいかない。
緊張と興奮に逸る心臓を軽く押さえ、少年は口を開いた。
「……それで桜美、話って何?」
頭の中ではこれからの展開を既に想像している。返す答えも用意してある。
それでも拭えない不安、抑えきれない興奮。全てが少年を加速させ、その心を弄ぶ。
そんな少年を他所に、クラスメイトの少女、桜美綾香は告げる。
「うん……あのね……いきなりで、びっくりすると思うんだけど……」
顔を上げ、伝えるべき相手の眼をしっかり見据え告げる。
少年は、そんな彼女の決意の眼を見た。
どこからか一枚の落ち葉が風に乗って運ばれ、二人の間を通り過ぎる。
そして、
「私、海野君のことが好きです」
彼女は告げた。決して迷わず、はっきりと。
「っ……!」
「……付き合って、くれませんか……?」
用意していた言葉が、口から出ない。
動け、動けよ自分の身体と心で叫ぶ。しかし、胸の奥で空しく木霊するだけだ。
心の中で叫ぼうが、それは相手にとって沈黙の返答となる。
「あぅ……こんなこと言われても困るよね……」
少女は苦笑いし、また俯く。
違うんだ、と言おうとし、
「あの……その……」
伝えたい言葉は口から出ない。むず痒い感じが身体を包む。
「すぐに答えなんて出せないよね……いつでも、いいから」
最後にそう告げ、少女は夕日が刺し始めた放課後の中庭を後にした。
残された少年は何時までも立ち尽くす。拳を強く握り締めながら。
そして、遅すぎる答えを一人呟く。
「――僕で、良ければ」
彼女には、もう届かない。遅すぎた答え。