Neetel Inside ニートノベル
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天元の輝き
8手目:放課後

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「であるからして――」

ここで授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。先生はどこまで進んだかをメモして、残念そうな表情を浮かべる。
俺は寝ていたからどこまでやったとかは別にどうでもいい。ただ、この後のことにワクワクしている。
今日は葵が近くのネットカフェに行って、碁をしに行くって。俺のためかわからないけどいいよな。

「きりーつ、れい」

形式だけのあいさつを済ませ、終礼のための準備に皆とりかかる。
俺は楽しみの意を含めて、満面の笑みで葵の方を向いてみた。
すると何やら一瞬固まって、顔を真っ赤にしながらそっぽを向いてしまった。
何だよ、そんなに面白かったのかよ。失礼な。

「な、何こっち見てんのよ。そんなに笑顔で」
「え?ホントに葵は可愛いなーって思ってさ」

今のうちに機嫌とっとかないと、急に行かないとか言われても困る。
褒めて褒めちぎるんだ!これが俺のこの時間のミッション。

「ば、ばっかじゃない!?ばか、ばっかみたい。何言ってんのよ」

とだけ残すと、後ろのロッカーに猛スピードで走り去って行った。
お前の方が何言ってんだよ。文法めちゃくちゃじゃねーか。
それより……2,3人は轢いたな。ご愁傷様。


「私はちょっと1局部活の子と打たないと駄目だから。どっかで待ってて」

すっかり調子を取り戻した野球選手のように、いつも通りの淡々とした口調だ。
どこかで待てか。ん?いや、待つ場所は決まっているじゃないか!

「俺も囲碁部に行っていいか?見学させてくれよ」


「こんにちは!」
「……どうも」

扉を開けた瞬間、別の次元に飛んだ気がした。空気が冷めきっており、痛々しいほどの沈黙がその場を制している。
まるで全身に針を打ちこまれ微動だに出来ない感じだ。本能的に、身の危険が迫っているような感覚に陥る。
こんな場所で打つのか……。こんなんじゃ実力発揮どころか、逆に呑まれるな。

「君は……天元君。ようこそ」

わざわざ勝負中なのに、席から立ち上がって歓迎か。対戦相手の迷惑も考えろよ。

「囲碁部の部長……名前は知らんが」
「若村です。そろそろクラスメイトの名前ぐらい覚えたらどうだい?」

早速、決戦前に火花を散らす戦いとなった。俺と若村は睨み合い、10秒くらい動かなかった。
そんな様子を見て、葵が苦笑していたが気にはしない。

「若村、ちょっと見学させてもらうぜ?」
「どうぞ、思う存分見て行ってください」

そこまで言うと、相手に一言謝り再開した。その一瞬での表情の切り替えを見て、恐怖が走った。
こいつはただものではない。やはり、部長なだけあるな。

「じゃあ、私はあっちで対局してるから後で見に来てね」
「おう、頑張れよ」

とは言ったものの、俺はあの部長にしか興味ないんだが。
葵とは毎日打てる。けど、あいつは今回が最後のチャンスじゃないかと思っている。
ま、後でちょこっと葵を見てやるかな。
ってか、あいつこのあとネットカフェ行くってことは、負けることは考えてねえな。
すげえポジティブだぜ……。
俺は半分ぐらいまで進んでいた、部長の大戦を見るために一歩踏み出した。

       

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