「……」
「……」
「ねぇ、早くつけてよ!」
「え?知ってんのじゃないのかよ?」
「いつもは定員さんにつけてもらってるの!」
「機械音痴なのかよ……ぁ、それで俺をさそtt」
「いいから早くつけなさい」
見事にみぞおちへと吸い込まれていったキレのあるジャブを堪能できたんだ。お釣りはいらない。
ったく、素直じゃねーんだから。俺はパソコンの電源を押し、立ち上げた。
何度か呼応するような機械音が鳴り、せわしなく音が鳴り始める。
それに数秒遅れてモニタが息を吹き返したように光りだす。
俺は見逃さなかった。食い入る様に目を光らせて見ていた葵を。
何かこのまま一緒にいるのは気まずいから、ちょっと理由をつけて出ることにした。
「ちょっと飲みもんとってくるわ」
「待って、わかってるよね?」
「ん?」
「私の分もよ!」
「……はいはい」
全く何て人使いの荒いやつ。まぁ、いいか。ついでなんだし、もともと持っていくつもりだったし。
へぇー結構いろいろな種類があるんだな。メロンソーダにコーラ、いちごみるくまであるのかよ!
「あのぉ、すみません」
スポーツドリンクもあるし、野菜ジュース?まじかよ。
「あのー」
服を誰かに引っ張られてる感じがする。でも、人の気配なんてしないけどな。
「あのぉ……」
「ぁ」
ふと視線を下げて見ると確かに人がいた。小さくて可愛らしい――ありがちな表現だと天使みたいだ。
どう見ても小学生だろう童顔、澄み切った汚れを知らない瞳。フリフリのスカートに少しだけ赤い頬。
頭2つ分くらい小さい身長で、甘いシャンプーのにおいが鼻を刺激する。
少し茶色がかった肩までのショートカットヘアがとても似合っており、困ったような表情でさらに上目使い。
赤くて丸いものがついたゴムで、頭のてっぺんにちょこんと出来ている髪がさらに凶悪にしている。
う……いかん、変な妄想はするな!
「どうしたの?」
気持ち目線を合わせるつもりで膝を折り、首を傾げて怖がらせないようにする。
それだけの配慮をしたにもかかわらず、その少女は少しビクッと反応した。
「あのぉ、そこのやつを取ってほしいのです。届かなくて困っているのです」
「ん?どれどれ」
俺はコップか何かかと思って笑顔で指をさしている方を見た。
そこはストローやガムシロップ、砂糖などの備品ゾーンだった。そうか、ストローか。
ストローを取ろうと手を伸ばし、掴もうとした瞬間。
「違うのです。その横のなのです」
「横って……え!?」
フレッシュだぞ?コーヒーに入れるやつじゃないか!
って、今思えばその子は手にコーヒーを持っているじゃないか。
そ、そうか、親のために持って行くんだな……偉いじゃないか。
「ほら、こぼすなよ」
「ありがとなのです。これがあった方がおいしいのです」
満面の笑みでお礼を言われる。そんな大したことしてないのにな……って。
おいしいだって?やっぱ君が飲むのかよ!
「じゃあ、由梨はここでバイバイするのです」
と言うと踵を返し、効果音が出そうなほど可愛く走り去ってしまった。
その場には唖然とするしかできない俺が残った。
「遅かったじゃない」
「まぁな、いろいろあってな」
葵はなにやら真剣にモニタを見て悩んでいる。画面を見てみると、碁盤が表示されていた。
もうやっていたのか、よかったまだ序盤だ。
「相手は誰なんだ?」
「yuriって子よ。さっきから席をはずして……あ打ってきた!」
「この一手は!」