「どういうつもり?」
気持ちよく休み時間をエンジョイしていたのに、よく聞き慣れた声に遮られる。
顔をあげた先には、不機嫌そうな葵が腕組をして睨んでいた。
「何の事?」
「はぁ……何であんなこと言ったの?」
あんなこと……ああ、囲碁で対決か。しかも部長に。
今考えると頭狂ってるよな、相手が部長と知らなかったのがまだ救いか。
でも、葵を家に入れさせようとするなんて。許せないな、うん。
ま、恥ずかしくてこんなこと言えないけどな。
「……囲碁がしたかったんだよ!」
「は?」
明らかに虚を突かれた感じの声を聞き、咄嗟にしてはいい言い訳だなと思った。
乗り掛かった船だ、このまま嘘を付き続けるしかない。
「そんなことなら言ってくれればよかったのに」
「ま、部長に教えてもらった方がいいからな」
「何よ、私じゃ不満っていうの?」
ほっぺをふくらませ拗ねたようにしている様を見て、俺は何とも言えない気持ちに満たされた。
このままこの表情を見ていたいけど、ここは教室だしみんなの目が気になる。
「いや、今から入る部活の部長様の力量を見ておきたいんだ」
「ふーん……ま、やる気になってくれたのなら何でもいいや」
両サイドで二つに縛っている、艶やかな茶色がかった髪を揺らし微笑んだ。
「面白いことになったよね」
「え?あぁ、若村くん……なんであんなのの挑戦に乗ったの?」
「囲碁に興味を持っている人もみんな仲間だよ」
「それにね僕は彼の好奇心から始まった冒険。ってのもいいと思うんだ」
「絶対にあなたには敵わないはずです……」
「彼だけならね?」
「へ?何を言って」
「いつも彼のことを話してるじゃないですか。彼の力になってあげてください」
「そ、そんな!私はただ……」
「じゃあ、僕も1週間後のために勉強です」
「優斗」
「ん?」
今日も一緒に帰ろうか?そんなに恥ずかしがって、いつも言ってるじゃないかよ。
もじもじした感じで、顔も少し紅潮しているのがわかる。
はっきりしねえやつだな。
「今日、家に来ない?」
「え?」
俺は自分の耳を疑った。