Neetel Inside 文芸新都
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メッシュ短編集
PAIN REVERSE

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目を開けたら、知らない部屋の床と壁が見えて、思わず目を瞬いた。


それから、ぼんやりした頭で、昨日は研究所に止まったことを思い出して、やっと起き上がった。

身体中が痛い。特に、首が寝違えたようにじんじんした。

せめてもう少しソファーがでかかったら良かったのに。ため息を付いて掛け布団代わりのくしゃくしゃの白衣を除けた。

「う゛~~~~~っ!!!はーーーーーあ……」

伸びをすると、背骨やら腰やらが酷い音を立てて鳴った。くそー絶対休暇取れたら温泉に行ってやる!首はぼきりといやな音を立てた。


が、反対に首を回した途端、

がごっ!

と大きな音を立てて、視界がぐるぐると反転してまた床に戻った。


しかし、今度は視界は天井を移し、そして突っ立っている俺の身体を映した。

どぼり、とその俺の首から大量の血液が流れ出した。小学生のころ、近くの山で見つけた小さな湧き水を思い出す。

俺の身体はびくりびくりと痙攣をし始め、そこで漸く俺はそれが自分の身体であるのだ、という実感を思い出した。


一気に焦燥感とパニックと恐怖が押し寄せてくる。


が、それを意識する前に、俺の視界に俺の首からあふれ出た血がパシャ、と当たった。


声にならなかった。


違う。声が出せなかった。

そうとも、俺の首はあそこにある。だから声は出ない。出ない。


あ、あ、あ、あ、死んでしまう。俺のからだが!

死んじまう、死んじまう!

ああ!俺の身体!



瞬間、俺の視界は真っ赤でどろどろとした粘着質のものに全てを飲み込まれた。


















目を開けたら、知らない部屋の床と壁が見えて、思わず目を瞬いた。


それから、ぼんやりした頭で、昨日は彼女の家に泊まったことを思い出して、やっと起き上がった。

身体中が痛い。特に、手首が捻ったようにきりきりした。それも両手だ。


せめてもう少し彼女のベッドで横になっていたかったが、彼女の姿が見当たらないので仕方なく起きた。

ピンクの花柄の布団から、シャンプーのにおいがする。

何処かへ買い物にでも行ったのだろうか?

「ん゛ーーーーーーーっ!」

身体を伸ばすと、少しだけ頭がスッキリした。きょろきょろと辺りを見回して、彼女の姿を探した。

昨日はお楽しみだったしなあ、と思い出して、一人にやけながら、隣の台所へ向かおうと扉に手を伸ばした。


ぎり、と右手首に痛みが走り、思わず手を押さえる。が、押さえた左手首にも痛みを感じて、思わず唸った。

「なん……?…!」


ぶつッと音を立てて真っ直ぐ両手首に赤い線が走り、ぐぐぐぐと手首があらん方向へ開いた。


「う゛ぐああああああああああああっ!!」

強烈な痛みに知れずのけぞる。ぶるぶると肩から腕が震え、両手を前に突き出した格好で膝を着いた。

「ああああっ!!あぐううううう!!!」

もはや言葉にならないほどの痛みに涙が流れた。何もしていないのに手首の傷が広がってゆく。

滝のように流れ出ていく赤いどろどろした液体が、俺の膝を流れていく。

ああ、血が!止めなければ、止めないと、と焦ってふっと視線を周りに走らせた。


途端、ぼぎッと云う音と主に手首が反り返った。


「ぎゃあああああっ!!!!」

身体中ががくがくと震え、痛みに悶絶して俺は頭を激しく振った。骨が折れたのだ。ぶらぶらと手首が動くたび、痛みが走る。

そして、手首が動くたびに皮がギリギリと切れてゆく。


「あぐうっう゛が、あ、あああ、あがああああああああっ!!」


ぶちぶちぶちっという布を裂くような音と共に手首が千切れ、ゆっくりと赤い池の中へ浸かっていった。



俺の血が俺の手首を飲み込んだ瞬間を感じる前に、俺の意識はぶつりと切れた。





















目を開けたら、知らない部屋の壁と窓が見えて、思わず目を瞬いた。


それから、ぼんやりした頭で、昨日は久々に実家に帰ったことを思い出して、やっと起き上がった。

身体中が痛い。特に、目が痛かった。両目の奥がずきずきしている。


せめてもう少し布団でごろごろしていたかったが、今日中には帰らなければ、明日の仕事に出られない。仕方なく起きた。

「はあーーーーーーーーーーっあっと」

身体を伸ばすと、ようやく起きた気分になって、腹が減ったなーと思った。何か作ってくれているだろう、とすいた腹を撫でる。

確か、昨日親父と飲み食いしたものが残っているはずだ。

部屋を出ようとして、ずき、と右目に痛みが走って思わず目を押さえた。

「…て。なに…?」

目の様子を見ようと、壁に掛けられている鏡の方へ行こうと、上体を捻らせると、強烈な痛みが目を襲った。

「うあ゛っ?!」

両手で強く目を押さえつける。えぐられるような、潰されるような痛みに俺は思わず座り込んだ。

脳まで響く痛みに、涙がボロボロとこぼれていく。暖かい涙が。なみだ…がぬるぬると俺の顔を汚した。

いつもの涙とは違う感触を受け、俺は鏡の方へとずるずる移動しながら、目を押さえた。

痛む目玉を知りながら、俺は精一杯の気持ちで両手を剥がして、ぐっと瞼を開いた。

瞬間、鏡に移った俺の目だまがバシュッと音を立てて血が噴出した。

「ぐっあああああああああ!!!!!!!!」

脳髄まで揺さぶらんほどの痛みに、俺はがくがくと身体中が痙攣したように震えた。

真っ赤と云うより真っ暗な痛みの恐怖で身悶えて床に倒れるようにしてうずくまった。

がりがりっといういやな音と共に、声も出ないほどの激痛が脳に走った。



そして俺は脳を潰されるような痛みと共に意識を手放した。
















目を開ける前に、何かが意識に引っかかった。

目を開けるのを思わずためらい、俺は寝返りを打ってもう一度眠りに着いた。




夢の中だけがお前の真実。

誰かが掠れた声で言ったような気がした。

       

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