カラコロと音をたて扉をあけると、やわらかい暖色系の灯りに包まれた店内は
正面にペットフードや用品が詰め込まれた棚が5つほど。奥にレジ。
左の壁には子猫のディスプレイ、右の壁は子犬のディスプレイが並んでいる。
閉店間際のため、いつも見かける男性の店員はほぼ必ず
猫のケージの清掃をしている。つまりこの時間帯は店員を気にすることなく
ハナがのんびりと子犬を眺めて楽しめる絶好のタイミングだった。
パグ、レトリバー、キャバリア、マルチーズ、ミニチュアアダックス、
ポメラニアン、ハスキー、シーズー、プードル、ヨークシャテリア、
どれも生後半年と経たない子犬たちはどこまでも愛くるしく
それらをガラス越しに見つめるハナの表情はみるみると和んでいく。
今の部屋はペット禁止だから、来月のバイト代とわずかばかりの貯金を
合わせて新しい部屋に引っ越さなきゃ。
それでもさすがに女一人で世話をするのが大変そうな
大型犬を飼うことは無理だろう。しゃがみこんだレトリバーやハスキーに
頭を乗せて寄りかかりながらくつろぐのが夢だったけど。
小型犬ならポメのコロコロした動きがたまらない、
キャバの気弱そうな目も母性本能みたいなものをくすぐる
パグはそのブサイクな面構えがたまらなく魅力だし
マルチーズの前髪をリボンで束ねるのは最高に楽しそうだ!
未来の同居人との生活を想像するだけでもハナは心が少しずつ
ほぐれていくのを感じられた。ガラス越しじゃ物足りない、
直に触って抱きしめてみたい!でもここはペットショップ、
すぐにでも買うなら平気だろうけど、まだひやかしに過ぎない自分が
子犬を抱かせてくれなどと頼むのは少しずうずうしい気がする。
そろそろ店員が猫のケージの清掃を終えて、今度は犬のケージの
清掃を始める時間だ。名残惜しいが退散しなければならない。
そう思いつつハナが猫のケージのほうの店員にチラリと目をやる途中、
レジの横の床に簡易的に立てられた柵の中からこちらをじっと見つめる
一匹の小さな柴犬と目が合った。