◇
相原から高崎さんへ
小林くんと、ライブを観に行きました。
ロフトのオムライス、相変わらず美味しかったです。
今日こそはケチャップで何か書こうと思ってたんだけど、小林くんが威勢良く文字を頼む所を見たら、何だか急に恥ずかしくなっちゃって、何も頼めませんでした。
わたしのオムライスはただの波線で、小林くんのオムライスには『SPORTS』って書いてあった。
男の子と二人で何処かに行くのなんて久し振りだから、ケチャップの文字も会話も、何も思いつきませんでした。
高崎さんがあの場に居たら「そういう時に黙っちゃダメ」って言うんだろうな。
エンケンは相変わらず優しいステージで、あんな風に齢を取るのって素敵だと思う。
高崎さんはどんな風に齢を取りたいですか?
わたしはエンケンを素敵だと思う反面、齢を取るのが怖くもあります。
高崎さんと、またライブに行きたいな。
二人で行ったら、ライブよりお酒になっちゃいそうだけど。笑
ロフトで貰ったフライヤー、挟んでおきます。行きたいのがあったら教えてね。
追伸:
こないだ借りた本…難しい!
台詞の意味が分からなくて???な状態です。
読み直したいので、もう少し借りてていいですか?
◇
宮子ちゃんを見ないで
第四話:自分勝手な会話
月曜日。最低限の教材と高崎さんへのノートを鞄に入れて、満員電車へ乗り込んだ。
月曜の一限なんて登録しなきゃ良かった。ギリギリで乗り込めたわたしは、ドアの窓から外を眺めながら、つくづくそう思った。鞄の中で携帯電話が振動しているのは分かっていたが、取り出すような余裕も無い。車内の何処かでも、携帯電話が音を立てて鳴っていた。着メロではない、そのままの着信音。きっと中年のサラリーマンのものだろう。
一駅毎に車内から押し出され押し込まれる。そんな事を繰り返しながら、学校へ向かった。
「デートどうだった?!」
教室で会うなり、宮子ちゃんはものすごい勢いでそう聞いてきた。デートも何も、デートじゃない、と思う。言葉に詰まったわたしは、曖昧に笑う。
そんなわたしの様子を見て、彼女は不満そうな顔をしながら隣に座った。隣?
教室の反対側―窓際をちらりと見ると、彼女がいつも一緒にいるはずのグループが談笑していた。あの子達と一緒に座らないの?わたしの問いに宮子ちゃんはにこりと笑うと、今日はこっちに座るの、と答えた。
教授が話す憲法についての講義はとても退屈で、宮子ちゃんはすぐに机の下で携帯電話をいじり始めた。画面はほとんど机に隠れているのに、迷うことなく器用にメールを打っている。指が覚えているのだろう。わたしはわたしで、高崎さんから借りている本を読み直していた。
重力。石の意志。羊と、羊じゃないもの。光よりも早いもの。
ややこしいな。読み終わったわたしは、しばらく黒板を眺め、それから高崎さんへのノートを取り出し、本の感想を書き足し始めた。
「何書いてるの?」
気付くと、宮子ちゃんが左からノートを覗き込んでいた。嫌だ。咄嗟に左腕でノートを隠す。
何書いてるの?もう一度聞かれた。
「先輩に渡すノート」
「手紙じゃないの?」
「交換日記だよ」
「何でも書くんだね」
「何で?」
「…だって、書いてあったもん」
「何が?」
宮子ちゃんの横でノートを広げていたわたしが悪い。覗かれてもしょうがないのだ。
それでも「勝手に見られた」と自分勝手に苛付いたわたしは、少し声が低くなっていた。宮子ちゃんは困った顔をしている。
「…『小林くん』って書いてあったから。デートの話でしょ?」
「だから、デートじゃないってば!」
宮子ちゃんが一瞬、悲しそうな顔をした。わたしはそれを、見なかった事にした。
教授の話す声に被さるように、ひそひそ話の声や携帯電話をカチカチといじる音が、小さく広く被さっていた。
月曜の一限なんて登録しなきゃ良かった。ギリギリで乗り込めたわたしは、ドアの窓から外を眺めながら、つくづくそう思った。鞄の中で携帯電話が振動しているのは分かっていたが、取り出すような余裕も無い。車内の何処かでも、携帯電話が音を立てて鳴っていた。着メロではない、そのままの着信音。きっと中年のサラリーマンのものだろう。
一駅毎に車内から押し出され押し込まれる。そんな事を繰り返しながら、学校へ向かった。
「デートどうだった?!」
教室で会うなり、宮子ちゃんはものすごい勢いでそう聞いてきた。デートも何も、デートじゃない、と思う。言葉に詰まったわたしは、曖昧に笑う。
そんなわたしの様子を見て、彼女は不満そうな顔をしながら隣に座った。隣?
教室の反対側―窓際をちらりと見ると、彼女がいつも一緒にいるはずのグループが談笑していた。あの子達と一緒に座らないの?わたしの問いに宮子ちゃんはにこりと笑うと、今日はこっちに座るの、と答えた。
教授が話す憲法についての講義はとても退屈で、宮子ちゃんはすぐに机の下で携帯電話をいじり始めた。画面はほとんど机に隠れているのに、迷うことなく器用にメールを打っている。指が覚えているのだろう。わたしはわたしで、高崎さんから借りている本を読み直していた。
重力。石の意志。羊と、羊じゃないもの。光よりも早いもの。
ややこしいな。読み終わったわたしは、しばらく黒板を眺め、それから高崎さんへのノートを取り出し、本の感想を書き足し始めた。
「何書いてるの?」
気付くと、宮子ちゃんが左からノートを覗き込んでいた。嫌だ。咄嗟に左腕でノートを隠す。
何書いてるの?もう一度聞かれた。
「先輩に渡すノート」
「手紙じゃないの?」
「交換日記だよ」
「何でも書くんだね」
「何で?」
「…だって、書いてあったもん」
「何が?」
宮子ちゃんの横でノートを広げていたわたしが悪い。覗かれてもしょうがないのだ。
それでも「勝手に見られた」と自分勝手に苛付いたわたしは、少し声が低くなっていた。宮子ちゃんは困った顔をしている。
「…『小林くん』って書いてあったから。デートの話でしょ?」
「だから、デートじゃないってば!」
宮子ちゃんが一瞬、悲しそうな顔をした。わたしはそれを、見なかった事にした。
教授の話す声に被さるように、ひそひそ話の声や携帯電話をカチカチといじる音が、小さく広く被さっていた。