Neetel Inside 文芸新都
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そして俺はカレーを望んだ
『始まりの可能性』

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『始まりの可能性』


 目の前で何が起こっているのかわからなかった。
 彼女の手には夜でも黒く光る銃が握られていて、それを人に向けて容赦なく撃っている。アクション物の洋画ではよく目にする光景だけれど、現実ではあまり見られない光景だ。いやいや、見るような状況に俺は疑問を抱いているわけで、この考え方はちょっとおかしい。
 目の前の光景から目をそむける。違いねえ、これは夢じゃない。いや、バイト帰りに夢を見るほど俺は眠りに貪欲ではないし、立ったまま眠るなんて高等技術も持ち合わせちゃあいない。というわけで、この考えもなんかおかしい。
 もう一度視線を目の前へ向ける。ああ、黒のロングコート男に向けて、彼女が銃を撃っている。……ここは日本だぜ。天下の日本だ。治安だけはいいはずなんだ。不祥事だの何だのと言われているが、日本にも警察はある。なのにまだ警察が来ないのはどういうことか。俺を早くこの場から助け出してほしい。そうだ、俺は無関係な通行人だ。別にこんな非日常なんか求めちゃあいないし、明後日の小テストのことを考えたくらいで死にたくなる善良な高校生だ。そんな俺を巻き込んで、この目の前でドンパチやっている二人は楽しいのだろうか。よくよく考えれば不可抗力もここまで極まれりと言うのか、俺がこの場にいる理由なんてこれっぽっちも無いわけだ。ならば話は至極簡単、この場から一目散に逃げ出し、家に帰って布団に包まるべきだ。ああ、それが正しい。
 我ながら恥ずかしい、尻餅をついていた体を起き上がらせ、落としてしまった鞄を拾い、俺なんかには意識を向けてないと願いつつ体を反転させ、さあ、逃げよう。
「――その道は通行止めだ」
 駆け出した直後、背後から若い男の声。間違いねえ、彼女とドンパチやっていた奴の声だろう。だが、知ったこっちゃない。なんせ俺の目の前に障害物は無いし、これだけ広い公園なんだ、たとえ通行止めになるほどの物があったとしても、いくらでも逃げようはあるさ。撃たれる可能性として、男は銃を持っているけど、所詮ハンドガンだろ。これだけ離れていれば当たることはないだろう。以上、漫画で仕入れた知識披露終わり。走る。……それにしても内履きって走りづらいな。今日に限ってだよくそたれめ。
 無視して走っていると、背後から“轟音”としか表現できない音が聞こえてきた。そう、過去形。焦げ臭い空気が頬を撫でたと思ったら、急に明るくなり、何故かはわからないが目の前に俺の身長ほどはある火の壁が出現した。
 そう、火の壁。まんま火の壁。MTGで言わせるとパワーが2ほどある壁。それが俺の目の前で轟々と燃えている。火なのだから燃えているのは当たり前。やばい、目の前の出来事に頭が追いつかない。
 こうなれば人間も本能で動く、俺は火の壁を回り込むように向こう側へ進もうと走り始める。が、俺の動きが想定内と言わんばかりに、またも目の前に火の壁。壁。半円を象るように現れた火の壁は、なんてことはない、俺の逃げ道を完全に潰してしまいやがりました。
 諦めて後ろを向くと、ロングコート男が勝ち誇ったような笑みを浮かべて俺を見ていた。なんだそれ。なんでこんなに燃えてんだよとか、色々と思うところはあるけど、なによりもなんでそんなに勝ち誇ってんだよ。口に出したらちょっと悲しいから言わないけど、俺はただの通行人だぜ。MOBだぜ。毎日同じことしかしてないような、そんな普通の人間捕まえて、なんでお前はそんなに勝ち誇ってんの。さすがの俺も少しビキビキきちゃうんですけど。
 そんなビキビキも、ロングコート男が銃を構えて近づいてきたことにより一瞬で萎えてしまう。どうしよう、銃で撃たれたら痛いのかな。痛いだろうな。しかし、逃げ道を思う。焼死ってのは個人的に一番やりたくない死に方なんだけど。あれ、どうしよう。なんで俺、こんなことになってんだ。

 というか彼女はどこだよ。

 それだよ。

 なんで俺がコイツに絡まれなきゃいけないんだ。

 彼女とドンパチやってろよ。

 頼むよ。

 お願い。

 帰らせて。

 今日の晩御飯は俺の好きなカレードリアなんです。

 誰か。

 神様。

 死にたくない――。


       

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