Neetel Inside 文芸新都
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そして俺はカレーを望んだ
『おっぱいの可能性』

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『おっぱいの可能性』



「そーいえばさー、紗綾ちゃんは何歳なの? 同年代がどうとかって言ってたけど」
「え、わ、私ですか? 兄さんが言っていた通りなら、相羽さんと同い年ですよ」
「なんで開道寺が俺の歳を知ってんだよ……おっかねえ……」
「兄さんは学生証を見せてもらったと言ってましたけど、なにかされたんですか?」
「そういえば、されたといえばされたかもしれない」
 銃を突きつけられ、学生証を出せなんて脅されただけだ。とは、言えなかった。妹の前で兄の悪口を言うのはどうかと思う。でもさ、悪口っていうか、本当のことだよね。うん、ちょっとほろ苦い思い出として胸の中にしまっておこう。
 そんなこんなで普通の会話をしていた時だった。俺がカレーについて熱く語ってると、紗綾ちゃんの背後に見える白い扉が開かれた。入ってきたのは、眼鏡をかけた白衣の男。無駄に伸びた前髪を鬱陶しそうに払いながら、こっちに歩いてくる。
「あ、足立さん」
「足立?」
「ああうん、いいよ、僕に構わず話を続けてくれても」
 そう言って、足立と呼ばれた男は傍にある椅子に腰掛ける。いや、話を続けろと言われても、あんた誰だよ。すげえ気になるんだけど。紗綾ちゃんは気にしてないようだけど、俺は男が気になって話どころじゃなかった。
 紗綾ちゃんにこの人誰なんですか的な視線を送る。気付いてくれない。そもそも目が見えてないわけで、アイコンタクトをできるはずがなかった。ごめん。……それでも俺が黙ってしまったことで気がついたんだろう、紗綾ちゃんは男と俺を交互に見て、閃いたように口を開く。
「あ、そうですね。相羽さん、この人は足立さんといって、ここで研究してる人なんですよ」
「ほー」
「そうだった、自己紹介をするべきだね。今紗綾君に紹介されたとおり、ここ、楠木コーポーレーションで隕石とチルドレンの研究をやらせてもらってる、足立広大だ。君のことは獄吏君と改君から聞いてるよ。実に興味深い」
 足立さんはそう言うと、眼鏡をくいっと持ち上げる。なんか怪しい感じにレンズが光る。これはあれだな、マッドなサイエンティストに違いない。俺が怪訝な目を向けていると、紗綾ちゃんが慌ててさっきまでの話題を続ける。
「そ、それで、そのカレードリアがどうしたんですか?」
「ああ、カレードリアは黄金の草原を彷彿とさせる素晴らしい見た目と味を兼ね備えた素晴らしいカレーだった。ありゃあ神だね。母さんにしか作れないよ」
 俺が話してると、足立さんが不意に壁を見つめて、くいっと首を動かす。なにやってんだ。釣られるように足立さんが見つめていた壁を見るけど、ただの壁にしか見えない。もしかしたら、足立さんにしか見えない妖精さんが飛び回ってるのかもしれないな。そりゃやべえ。さすがの俺も妖精さんは見たことない。この人レベル高いわ。
 紗綾ちゃんも俺と同じ方向に顔を向ける。複雑な顔だ。なんだろ、やっぱあの壁になにかあるんだろうか。
「足立さん、あの壁になにかあるんですか?」
 たまらず俺は聞いた。すると、足立さんは慌てて視線を俺に戻して、笑う。
「いやね、実はあの壁、秘密基地への入り口なんだよ。こう、左右に開いて、奥には司令部と総督が控えてるというわけさ」
「え、うそ。さすがにそれは嘘だ。俺はバカだけどそれは嘘だってわかるぞ」
「嘘じゃないよ。なんなら、見せてあげようか?」
「……いや、いいです。負けました」
 子供のように笑う足立さんに、俺は何も言えなくなってしまった。なんにせよ、あの壁の向こうには何かがあるらしい。らしいけど、言えないと。紗綾ちゃんは俺たちのそんなやり取りを見て、胸を撫で下ろすように息を吐く。まあいいか。壁の向こうに何があったって、俺には関係ないだろう。
「よし、それじゃあそろそろ行こうか。紗綾君が言った通り、君にはある検査をしてもらうために来てもらったわけだからね」
「あ、はい」
 そう言いながら立ち上がる足立さんに、俺は呆けながら返事をする。そうだった、そういえばさっきそんなことを紗綾ちゃんが言ってたな。しかしながら、今の今まで忘れてたけど、動くと腕が痛いんだよね。これを無視して歩けってのは色々ときついものがあるぞ。俺が言いたいことに気付いたんだろう、足立さんは俺の腕を見つめて、紗綾ちゃんに話しかける。
「紗綾君、一人じゃつらそうだし、相羽君を研究室までつれてきてくれないかな。車椅子を部屋の前に用意させておくからさ」
「わかりました。……相羽さん、私がついてますから、心配しなくてもいいですよ」
「それじゃ、僕は先に行ってるから。急がなくてもいいよ、大事が無いようにゆっくり来てね」
「はあ」
 話が勝手に進んでいくのを耳で聞きながら、またも呆けた返事をしてしまう。それを聞いて、足立さんは部屋から出て行った。
 検査、検査かあ。なにすんだろ。なんつーか、俺って危機感ないよね。普通なら、知らない場所につれてこられただけでも泣けるだろ。それに加えて検査とか、なに普通に受けようとしてんだ俺。そう思うんだけど、傍で微笑みながらベッドから降りるのを手伝ってくれる紗綾ちゃんを見ると、警戒心が薄れるというかなんというか。……決して鼻を伸ばしてるわけじゃないぞ。俺は紗綾ちゃんの優しさが心にしみただけなのだ。ただ、ちょっと腕に当たる胸の感触がやべえとか思っただけだ。男って悲しい。


       

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