Neetel Inside 文芸新都
表紙

恋愛事情
事情その一

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俺には妹がいる。
容姿端麗で成績優秀。外見は日本人形って感じだ。綺麗って意味でな。
当然かどうか知らんが告白された数は星の数ほどらしい。
しかしどういう訳か全部断っているのだから理想が高いのだろう。
まぁ、そんな妹がいる訳で、対する俺はというと。
引きこもりな訳だが。

     

俺に両親はいない。
三年位前に交通事故で二人とも死んだ。
その頃はまだ俺もヒッキーじゃなかったんだけどね。
まぁ要は俺と妹を残して死んだと。
両親、特に父親が残した莫大な遺産のおかげで俺は今もこうして引きこもりが出来ている。
50億だのどうだのという数字らしいがよくは知らない。
叔父さんが親切心から俺たちを引き取ってくれるといっていたが何故か妹は断固拒否。
親の金目当てとでも思ったのだろうか? まぁそんなことはどうでもいいけれど。
仕方ないので叔父さんも諦めてしまい、遂に俺と妹だけの生活が始まったのだ。
その際に妹は手を叩いて大喜びした。
本当に手を叩いていた。ただの馬鹿だと思う。
少なくとも月一回は叔父さんが顔を出すのだが、その日は妹は途端不機嫌になるのだ。
何でそんなに叔父さんが嫌いなのかは知らない。
つーかどうでもいい。
しかし、あれだ。
なんでこんな事を言ってるかというとだ。
脈絡がないようだが、言おう。
妹が俺のベットに潜り込んでいるんだ。
ああ、別に性的な行為はしていないから安心していい。
近親相姦なんて洒落にならんからな。
妹が俺のベットに潜り込んでいるなんてのは日常茶飯事なので今更なんだけれど。
ちなみにうちは基本質素倹約な生活を送っている。
妹が何故か知らんが金を使いたがらないのだ。
で、一人より二人の方が暖かいという理論を振りかざして俺のベットに潜り込んでいるのだ。
っと脱線した。いつも通りなのだが、今日は少し違ったのだ。
妹に抱き枕にされているというところか。
どんなに頑張っても抜け出せない。
相手は女だぞ? なのにだ。
長い事引きこもりしていたから筋力がこれほどまでに落ちたのだろうか。
昔は剣道やったんだけどなぁ。
いい加減おきて欲しい。
「起きろこの野郎」
辛うじて動いた右手で妹の額にでこぴんをかました。

     

「うみゅ」
うみゅ?
変な鳴き声を漏らすものだ。
いっとくがあんまり萌えないぞ。
「お・き・ろ・この野郎!」
片方の手の中指を内側に丸め、それを親指で抑える。中指に力を入れて、親指を離す。張り詰めた中指は親指を離れ、外側に向かって勢いよく飛び出す。これによって相手の額に打撃を加える方法を俺は使った。(Wikpedia参照)
それと、力士は一人前になるとデコピンされるという仕来りがあるそうだが、正直訳がわからない。一体何をしたいんだろうか。
「い、痛いです兄さん」
「黙れ。俺の怒りは世論の怒り」
「意味わかりません」
意味わからんのは俺のほうだ。
「そろそろ離れろ。そして金輪際一度たりとも俺に話し掛けるな」
「それは無理な相談ですね」
そう言いつつもゆっくりとした動作だが起き上がる。
なんだか名残惜しそうに見えるのは俺の気のせいという奴だろう。
というか、そう言う風に見える俺は末期かも知れぬ。
確かに、俺は童貞さ。スペックも普通さ。
「けれど誇りは失ってはいなぁい!」
「突然なんですか兄さん。どうかしたのですか」
「俺は童貞だが誇りは失っていない」
「ええ、知ってますよ」
そんなにさらりと流されると色々と。
まぁ、どうでもいい。
「飯、朝飯食べるから用意しろ」
黙って台所に向う妹。
いや、よく出来たどれ……ではなく、妹だ。
今何時だ。
時計を見ると9時ちょうどをさしている。
そろそろか……。

     

ピーンポーン
「はいはい。今出ますよ」
俺はゆっくり腰を上げて玄関へ向う。
言っとくが俺は引きこもりだ。
「あ……おはよう……優君」
「ああ。おはよう千華」
午前9時くっきりに俺の家に来るのは必ず千華だ。
千華は俺の幼馴染で気弱で内気で陰気な奴だが、大事な俺の友人だ。
「まぁあがれ」
「うん……お邪魔します」
俺は居間まで千華を案内させる。
案内といっても何度も来てるから分かりきってるんだろうが案内しないと絶対に家に入らない。
千華は俺の許可を出るまで一歩も動かない。ずっとドアの前で待っている。
一回やってみたんだが、その日は雨だった。
2時間以上ずっと雨に打たれて待っていたという奴だ。凄すぎる。
「最近はやってないだろうな」
「うん……大丈夫だよ」
「そうか」
ちなみにやってないというのは別に怪しい薬とかじゃありませんよ。
決して法律的にいけないものではない。けど人道的というか、客観的に変なもんだが。
まぁ、要するにリストカットな訳ですね。
「兄さん、千華さん来ていらっしゃていたんですか」
「ん。そうだな」
「…………」
何故か目を伏せる千華。
千華と妹は仲が悪い。昔はよく一緒に遊んでいたんだけどな。
「それでは三人分用意しますね」
「う……あ……」
何が言いたいんだこいつ。
千華はいつも大体最後まで喋らない。
俺のときは最後まで言うんだけどやはりあれだろうか、幼馴染と引きこもりで同類みたいに思われているのだろうか。だとしたらアレだ、へこむわ。
それとめちゃくちゃ綺麗なのにまったく告白された経験がないらしい。
やっぱり性格的にだろうか。俺が言うのもなんだが分からなくはない。
「兄さん、食事ですよ」
「おう」
今日はサンドイッチか。
サンドイッチを俺が取ったとき隣で聞こえるか聞こえないか位の大きさで千華がボソッと呟いた。
「私ご飯とお味噌汁が良かった……」

――――この野郎。

       

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