「と、いうような文面の手紙が妹に幾度となく送られた、というわけだ」
僕の座っているイスに手を置きながら、吉田は言ったのだった。
「またかよ」と僕が言うと、吉田は「おまえが聞いてきたんだぞ? 」と言い返してきた。
「それで菊蔵って人は今どうしてるのさ」
そう僕が聞くと吉田は嫌そうな様子で僕にこう答えた。
「生きてるよ」
「…そうか」
そして吉田は嫌そうな様子で僕にこう言い放った。
「それさ、前にもおまえに言わなかったっけ?生きてるって言わなかったっけ?無限ループって怖くね?」
「ああ言われてみればそうだったかもな。っていうのはおいといて…」
「また引っ越しの話かよ」
「ああそうだけど」
「前にも聞いた」
「マジかよ」
「サジだよ」
吉田の「サジかよ」を見事にスルーしたあと、僕はこう聞いた。
「なあ吉田、僕が引っ越ししても本当は、なんにも思わないんだろ?」
「いいや、思うさ。寂しいよ。なにせおまえとは小学生からの仲だからな」
と、吉田は棒読みに言った。
「本当のとこはどうなんだよ。怒らないから言ってみろよ」
そう僕が言うと、吉田は考える仕草をこちらに見せたあと、
「悲しいよ」
とやや笑みを含んでいるような含んでないような様子で言い放った。僕はちっとも嬉しくなかった。いつもの僕ならこんな言葉にでも感動して涙を
流してしまうのだけれども、この頃は見えない不可抗力だとかのおかげかどうかはわからないけれど、もう誰になんと言われようとも、何にも
感じなくなってしまったのだ。無関心なおもしろみのない人間になってしまったのだ。たったのこの2週間の間で。
僕に背を向け、たばこの箱からたばこを取り出し、見るからに安そうなライターで火をつけようとしていた吉田に、僕はこう言い放った。
「おい吉田、たばこはいい加減やめろよ。体に悪いぞ。……じゃなくて」
「なんだよ」
「菊蔵って奴はさ、どんな奴なんだよ」
「トマト好きな奴だよ。トマト人間ってあだ名をつけられてるよ。顔は俺とおまえよりはかなりいい。性格も悪くはない」
「今度会わせてくれよ」
「わかった。考えとく」
「考えとく」に疑問を持った僕だったが、深く聞くことはなんだか良くない気がしたから、聞かないことにした。
「じゃあな」と吉田。「じゃあな」と僕が言った。
「えっ?」
「ひ、引っ越ししてもずっと友達だからな!だからな!」
と吉田は言うと、顔をこちらに見せずに、吉田はチーターのように教室を後にしていった。