Neetel Inside 文芸新都
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文藝瞬発創作企画
16『無題』  作:無記名 ≪締め切り超過≫

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(はあ、もう0時か…)
3月末、少し暖かくなってきており深夜でエアコンが切れても不快ではなくなった室内で
カタカタとキーボードを叩く手を休めて時計を眺めた青年は深く息を吐いた。幼い頃からの夢であった機械設計という職に就き、憧れである松方重工の作業服に袖を通している彼だったが唯一叶わなかったのが設計している製品だった。
「どうだい鈴木君、新入社員発表のパワーポイントは?」
二次元から出てきたのではないかと思うぐらいのイケメンが話しかけてきた。
「あ、真田さん。大分できました。いい発表にしてみせますよ」
「期待してるわ。といっても、君は来週から配置転換で志望している部署にいけるようになったじゃないか。そこまで力まなくてもいいんじゃないか?」
「いえ、そうはいきませんよ。この発表はちゃんとしたいんですよ。宮城さんと一緒に出張いって客先で物を見てきたんですから」
「…そうか」

三週間前

寝癖で頭がぼさぼさの何時ものように出社した鈴木はメールソフトを開き、新着メールを眺めた。
(部長からだ…)
メールのタイトルは『訃報』となっており、鈴木はどこの部署の人が亡くなったのだろうと内容をみると

訃報

○月○日
宮城参事が交通事故で亡くなられました。
葬儀は―――

(え、何?宮城さん?の親族が亡くなられたんじゃ?)
何の冗談でもなく葬儀は執り行われ、鈴木もその葬儀に赴いた。

葬儀を回想している鈴木に真田が話しかける。
「そうだな、宮城さんに見せても恥ずかしくない出来にしよう。来週から俺も鈴木君の指導員ではなくなるけど出来る限り手伝うわ」
午前1時まで鈴木と真田は作業を続け、ひと段落ついた。
「そろそろ帰ろうか?もう帰りのバスないだろ?送っていくよ」
真田の言葉に甘えて鈴木は送ってもらうことにした。真田の車で送ってもらう最中、鈴木はふと思ったことを真田に聞いた。
「真田さん、宮城さんも俺もいなくなって今の製品は真田さんだけになったんですけど、誰か来るんですか?」
「まあ、いずれは来るだろうけど、今すぐは無いだろうね」
「…な、そんな…今、忙しいのにあれだけのオーダを一人でなんて…」
「やるしかないさ」
どことなく諦めているのか達観しているのか分からない表情で真田が答えた。鈴木は車のドアのところに頬杖を突き、宮城といった出張先でのことを思い出していた。

(この製品はどこの会社も真似できないけど、あまり利益率がよくないからね。他の部署でもこの製品に人を宛がうことをしなくてね。このようにサービス部も人を出してくれないから、こうやって設計が現地調整にいかないといけないんだよね。でも、まあ鈴木君も入ってくれたから、少しは楽になるかな?早く一人前になって真田君を楽にしてやってくれ)

鈴木は来週から配置転換となり来週からは現在の担当製品とはおさらばだ。今は亡き宮城の言いつけも守れないことの悔しさから泣きそうになったが真田に悟られないように外の景色を眺めた。

発表当日

鈴木の扱っている製品は会社の中ではメジャー製品ではないので、製品の簡単な説明から始まり用途や今後の展開などについて述べた。10分という短い時間で何とか伝えたいことは言えることが出来た。

「それでは質疑応答を」

中年の一人の男が手を挙げた。
「利益率は?」
鈴木は少しムッとしつつも
「原価の20%です」
「値段は?」
流石にはっきりとした値段を覚えていなかった鈴木は言葉に詰まり俯いてしまったが一寸置いてから喋り始めた。
「……それって、この製品が儲けないってことを言わせたいんですか?それだったらはっきりと儲けがない製品だといったらどうですか!」
強い口調で鈴木がいうと、質問した中年の男は少し驚いたものの
「いや、別にそんなことはいってない」
というと鈴木はたがが外れて大声で喋り始めた。
「ええ、確かに儲けがない製品ですよ!ええ!でもね、発表をちゃんと聞きましたか!?この製品はウチにしか出来ないし、どこも真似できない技術的に優れた製品なんですよ!!この会場には技術者がほとんどですよね?なのに最初に聞くのが金のことですか!?ああ、そういえば貴方は生産技術でしたね。さぞかしコストを抑えることしか考えられず可哀想だとお察ししますよ。拝金主義が仕事になっていることにね。ところで生産技術には世界に誇れる技術ってあるんですか?ないですよね?生産技術なんて名前じゃなくて生産経理とかに名前変えたほうがいいんじゃ――
そこで真田が鈴木を羽交い絞めにして
「鈴木君もういいから、もう終わろう。」
「だって、俺は来週からもうこの製品担当じゃないし、これやるの真田さん一人じゃないですかっ!儲けが無いからって理由で人削られて……」
気がつくと鈴木はボロ泣きしながら嗚咽混じりで叫んでいた。質問した中年の男はばつが悪そうな顔をして、
「少し、大人気なかった。事情も知らなかった。悪かった」

4月

真田の下には新人が入った。

       

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