Neetel Inside 文芸新都
表紙

会社でお姉さんと仲良くなったのに凹られた
〜ワンダーランドに凹参上、オセロの結果は黒か?白か?〜

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会社のトラックに乗り、得意先に納品を済ませた俺は
信号待ちついでに窓から高校生のカップルを見ていた。

「楽しそうだな、でもなあ、おまいさまはその娘と結婚するわけでも無いん違うん?」

相変わらず拗ねた感想だな、俺、いつからこんなんなったんだろう

「ネクランティス」
俺の高校時代のあだ名だ
「地獄で自慢できるような生き地獄みせたるわwww」
なんて事も言われたっけ
体育倉庫で同級生に囲まれて、すごく嫌な事もさせられたっけ

そんな素敵な青春時代を過ごした俺は、進んで独りでいる事を選ぶようになった。

もう、8年も経ったのか・・・

今でも俺は独りが大好きだ


「今日は事務所帰って早めに上がって、アパート戻ったら2chしながらガンダム00の録画でも見るか・・・」
そう思いながら青信号を確認し、俺はアクセルを踏んだ



     

会社に着き、トラックに乗ったままのパレットを降ろし、手を洗ってからしばらくパソコンに向かって事務処理をする。
俺は今鉄工所で働いているけど、はっきり言って面白くない。
何がおもしろくないかというと、「物を造る会社なのに、事務職をしている」というこの現状。

親父の勧めで入ったこの会社、「物を造れる」という俺の期待とは裏腹に、与えられた仕事は事務職。
まあでも事務所には女の子も居るし(現場にも居るけど)、環境的には俺は気に入っているわけだ。

5時だ。サイレンが鳴って向かいの席に座ってる女の子が立ち上がった。

「~さん、今日は残業なん?」

俺は眼を合わさずに返事した。
「いや、帰る」

眼を合わせていないのでどんな顔して反応しているのかも分からないが
「ふ~ん。ほな私今日用事あるから先に帰るわな」

という返事を背中で聞き、彼女が事務所を出て行ったのを確認してから、俺は呟いた
「さて、そろそろ帰るとするかね」




俺を事務所に配置してくれやがりました工場長を尻目に、俺は帰る準備をさくさくと進める

タイムカードを押し、事務所を颯爽と出る俺
入れ違いに現場からゾンビのようにぞろぞろとタイムカードを押しに戻ってくる職人たち
薄給のためか、皆の顔色が今日も悪く見える。

中には若く、ヤンキーそのままな人間も見受けられるが、彼らは社内下請の若い衆だ
その中に一人、早く帰ろうとする俺を睨みつける男が居る。

彼の名は TIG
TIG溶接のプロフェッショナルで、下請け工員ながら、そのパワフルさと豪快な物腰で工場内でも1、2を争う発言権を持っている。
俺は彼が苦手だ。

理由は 彼が俺を いじめるから


     

俺は今日もTIGを避けるようにして駐車場に向かう。
彼の横を大きく回り込んですれ違おうとしたけど、彼が俺を呼びとめた。

「おら、お前帰るのに現場の人間に挨拶もできへんのかい」

俺はびくっとなって足を止め、ゆっくりと振り向く
だがしかし、振りかえっても眼は見ない。
これいじめられっ子の必殺技、皆ももしいじめられたら覚えておくように。

「お疲れ様でした~」

作り笑いで誤魔化しながら挨拶をする俺、忘れるな、眼は合わせちゃあいけない。

「おいTIGや~はよ帰ろうや~」
ヒラメ顔のTIGの友達がTIGを呼ぶ

俺をしばらく睨んでいた(と思う)TIGだが、唾を吐く音と共に彼は歩いて事務所に向かって行った。

「はい、こうして俺は今日も蹴られずに済みました。結構なお手前で」

独り言を言い、車を取りに行こうと振り向いたその時
現場の奥で炭酸ガスアーク溶接の音が聞こえた。


「バチバチバチバチジジジジジィーッ」

確かに工場の奥で火花が散ってるのが見える
俺には分かっていた。誰があの光を出しているのかを

     

まっすぐ帰るつもりだったが、俺は工場の奥へ足を進める。
工場の奥では大きな鉄筋材料に向かって溶接をしている一人の姿があった。

溶接の光から顔を守るための面を被り、一心不乱に溶接をする姿
ドロドロに汚れた作業服に身を包み、しゃがんで溶接をする姿

俺はしばらくその姿を見ていた。


やがてその作業員は面を外し、腰を痛そうに叩きながら俺に背を向けたまま立ち上がる。
俺には気付いていないようだ。
現場に置いてある作業定盤の上に置いてある缶ジュースを取りに行こうとして、その作業員は俺に気付いた。

「ああ、なんだ。もうパソコン仕事は終わったの?」

関西出身の俺にはその標準語がとても綺麗に感じる。
涼やかな気分にさせられて、俺は慌てて無言で頷く。

「なんだ、したらもう帰るんだ。こっちはあともう少しで終わるんだけどね、溶接見てて楽しいの?」

俺はまた無言で頷く、なんかかっこ悪い。まるで必死で相手して欲しがってる犬みたいだ。

「何その無言返事wまあ見るんならご自由に。あんま光見ちゃダメだよ。」
「目痛くなっちゃうよ」

俺はむしろ溶接の仕事の様子よりも、彼女のかっこいい仕事する姿に見とれていた。

彼女の名は鉄火、姓と名の妙な繋がりをもじられてそう呼ばれている。
俺が最近話をするようになった,いわば数年ぶりの話相手だ。

     

鉄火は冬だというのに鼻に汗をにじませて、埃っぽい顔をタオルで拭いながらニコニコしている。
年は俺よりも上だとは聞いてるけど、いくつ位なのかは知らない。聞く度胸がないので知ろうとも思わない。


よく、対人スキルの低い人たちは
「人に自分がどう思われているのかと思うとうまく話せない」
「自分をうまく表現できないから、嫌われると思うと接点を持つ気がしなくなる」

などという言い訳をするけど、俺はちょっと違う。

俺は
「人に自分がどう思われても、やっぱり一人が好きだからこの性格をどうこうしようとも思わない」
なのであって、今の自分をとても気に入っているわけだ。

そんな性格だから俺は鉄火が、俺に唯一仕事以外の会話をするたった一人の人間だというのに、
彼女のことを知ろうともしない。

そりゃ自分で自分がずっと孤男で、童貞だってのにもうなずけるってもんだぜ。



俺は鉄火の溶接した製品を観察する振りをする事で、会話の続かないこの妙な「間」を取り繕おうとした。
だが彼女は俺に背を向けて、四角形のオイル缶に腰を掛けて座っていた。
俺がまともな「会話」すらできない人間だということに気付いているのだろうか。


突然鉄火がポケットをまさぐりながら俺の方を向いた。
「ねえ~クン、君携帯持ってんの?」

ふぇ、何ですか、壺売りですか。俺貯金はあるけど理由があって下ろさないことにしてるんですけど

俺の間の抜けた「ハィ?」という声を聞いたにも関わらず、彼女は自分の携帯をいじり、俺に向けてカチカチとボタンを鳴らしている。
何だいその携帯を俺に向けるって動作の意味するものは。
不意にロンブーの古い番組でやっていた、
「ブラックメール送信、ズキューン(笑)」
を思い出したが、俺のアドレスも知らないのにメールを送るはずもないし、何をやってるのかが疑問で俺は少し慌てていた。


鉄火が怪訝な顔をして俺に話しかける
「ねえ、早く携帯出しなよ。ホラ赤外線」

彼女がアドレス交換をしたいのだということにようやく気付き、俺は慌てて携帯を取り出す。
だがメールすら実家の姉貴や母とやり取りした程度の実力の俺に、
赤外線通信などというスキミング詐欺のような名称のハイテクニックが披露できるはずもない。

「ああ、これな、こうやってな、ごめん忘れたw」

と、やり方を忘れたふりをして彼女に丁寧に教えてもらう。
彼女が俺の真横に立って、ボタンを押す順序を丁寧に教える。
彼女の細くグラマラスなボディラインが俺の目に嫌でも入ってくる。
まあそんなものに興味など俺はひとつも示さないけどな、ケッ。

彼女の親切な指導の成果もあり、俺は一つ学習した。
彼女はCカップとDカップの間だ。

     

「ふぅ・・・・・・・・・」
「未来タンありがとう・・・・」

自宅で御握り(※1)を終え俺は溜息と共に満足げな感想を漏らした。
この世のすべてを悟り切ったかのような万感の思いと放心状態に浸り、
DVDのケースと中身を乱雑に放り投げる。こんなものどうでもいいただのプラスチックの薄板だ。

俺はジャージを引っ張り上げ、洗面所で顔を洗う。

タオルで顔を拭いながら鏡を見る。そこには潮が引くかのように煩悩が完全に浄化され、
冷静で沈着で脱力もした状態の俺がいた。今日も今日とて賢者顔だ。



食後の御握りを済ませた俺はすこぶるご機嫌だった。
けして本日の御握りの具(※2)が極めて良好だったと言う訳ではない。
今日の会社の終業後のひとときが、俺のハイパー賢者タイムを鮮やかに祝福してくれている。

鉄 火

彼女が好きになったと言う訳ではない。
ただ、CカップとDカップのあいだにある形容しがたいペーソスが
俺の冷静と情熱のあいだではげしく揺れ動く。

「これは煩悩やな、ただの。」

そうつぶやいて俺は本日のミッションをフェイズ2に移行すべく、もう一度ジャージを脱ぎ
放り投げたDVDを拾い上げ、丁寧にケースにしまい込み、本棚の上に乗せる。
代わりに本棚の上からあるものを引っ張りだした。

「未来 すごいカラダの接(ry」

俺は潤んだ目で彼女に話しかける
「よう・・・久しぶりやな・・・未来タン」




後注
※1 御握り・・・・・・オナニーの事。主人公がこの後2chスレにて「オナニー」の代替語として
            頻繁に使用する事になる。
            住人も次第に「御握り」という単語を使うようになるが、
            それはまだ先の話である。
※2 御握りの具・・・御握り(オナニー)の具(ネタ)の事。 

     

俺は二度目の賢者タイムを迎え入れた後、おもむろにPCの電源を入れた。

「そやw、このイベントを俺の常駐する孤男板に報告でもして、
『電車男』のように華々しくネットデビュー(笑)してやるぜw」

馴れた手つきでギコナビを起動し、孤男板へ。
1: 会社の人妻を好きになっちゃってる奴 2人目 (355) 2: 「あの人は今・・・」状態になった芸能人・著名人 (772) 3: 舐められっぱなしの人生 2 (53) 4: 愛国心が無い孤男 (165) 5: 通りすがりの人間に悪口を言われるその3 (106) 6: 「孤独過ぎて頭おかしくなったな…」と思った瞬間2 (423) 7: マサキいる? (620) 8: 【リア充,女】LR違反者書き込みID報告スレ【→NG】 (235) 9: 孤独な高校生 140 (285) 10: ■孤独王のスレ■ (884) 11: 孤独だし読書しようぜ 六冊目 (309) 12: (´;ω;`)おちんちんきもちいいお (38) 13: 希望なんか見つからないよ・・・ (228) 14: コミュニケーション能力を向上させたい孤男→ (56) 15: 孤独な奴は髪型どうしてる? (28) 16: 弧男ならサッカー見るよな? (18) 17: 社交性がなくて職場で孤立してしまいます11 (60) 18: 【雨のち】お天気報告スレッド【晴れ】 (593) 19: ぬるぽして一時間ガッされなければネ申45 (70) 



あっはっは・・・いいじゃないか、今日も今日とて孤男板は盛況だぜ。
ふとした拍子でj相談系スレを発見したので「ここで相談するか」と
そのスレをDL
事の顛末を話し、住人のレスを待つ

676 :名前は誰も知らない:2008/02/03(月) 19:19:00 ID:knhfOhNx0
>>650
もう孤男でいいじゃん、終了

677 :名前は誰も知らない:2008/02/03(月) 19:30:00 ID:W/BbRG4d0
>>650
妄想乙

678 :名前は誰も知らない:2008/02/03(月) 19:45:00 ID:12msxW6B0
>>650
もううぜえからここ来るな

679 :名前は誰も知らない:2008/02/03(月) 19:47:00 ID:JwobAfrw0
>>650
VIPでやれ

679 :名前は誰も知らない:2008/02/03(月) 19:55:00 ID:JwobAfrw0
>>650
なんかお前がこの板いるの分かる希ガス



なんだいおい、随分な言い草じゃないか。
俺はいたって真面目なのに、それにVIPでやれだと?なめるな孤男ども
俺はなあ・・・・・いたって不真面m


VIPでやれ?


ギコナビのツリーを戻していき、俺はツリーを最底辺へとスクロールさせていく。
慌てて「雑談系2」をクリックし、急いで板を開く

何度かここには誘導されて来たこともある。ここは・・・・ここは・・・・・・


1: 【携帯】お前ら声うp【オンリィ】 (318) 2: 「ハイチュウ」にゴム手袋の破片が混入 (5) 3: 【11月14日】国籍法改悪 外国人が大量帰化【日本を終わらせない】 (193) 4: 男子寮生活の俺が質問に答えるスレ (2) 5: 温泉で幼女のマンコを拝められたwww (16) 6: ぱにぽにだっしゅ!ムニ629トな体型の6号さん (897) 7: まったくここはひどいインターネットですね (13) 8: 要らない子が全レス (66) 9: 安価で飲み物作って売り出そうぜww (192) 10: いじめられるヤツが全部悪い (88) 11: こ こ だ け 初 代 ポ ケ モ ン 発 売 直 後 (640) 12: ここだけ1レスごとに1km/h速くなる夜行バス (79) 13: キリンカップ2008 日本×シリア 実況 (343) 14: 必殺技・武器でキャラ当て (84) 15: 偽乳 (3) 16: 死  ん  で  ほ  し  い  芸  能  人 (50) 17: 鹿児島 (721) 18: 14歳♀、じゃなくておっさんだけど質問ある? (351) 19: ピザ、全レス、VIPにて (902) 20: 今日うんこ漏らした。 (96) 21: カオスなプログラム作ってみたwwwwwwwwwwwwwww (56) 22: おまえ等本当はロリコンじゃないんだろ? (19) 23: 女の子はどんな女ならレイプされても仕方がないと思うの? (2) 24: 顔うp評価 (283) 25: 今日の午後8時にみんなでいっせいに叫ぼうぜwwww (2) 26: どうせお前らなんか俺より頭が悪いのがほとんど (3) 27: 「佐々木で思いつくもの」 (44) 28: ミンサガおもしれー (23) 29: おまんまんゆるさないで (1) 30: VIPPERアイドル「しょこたん」こと中川翔子さんと愉快な仲間たち。 (813) 31: オススメの邦楽おしえてほしい (226) 32: 【雑談+α】巨乳ちょっと来い【寒い!巨乳で暖を】 (82) 33: 妹「お兄ちゃんのPCに妹フォルダがあるけどなんで私じゃないの?」 (3) 34: 生理前ですっごいエッチな気分でムラムラしてんだけど (304) 35: 暇だから熱血親父が綴ってくれた俺の野球ノート晒す (161) 36: 【たまんねぇ】 フルハウス見てた奴いる? 【超ムカツク】 (12) 37: 心が折れました…(´;ω;`)ううう (221) 38: うはwwwwwwwwちんちん痛えww (5) 39: すぐ落ちるよ VIPでメタルギアソリッドポータブルオプス+(MPO+) (40) 40: ギタースレ (187) 41: おすすめのエロゲソング言ってけ (8) 42: 伝説のやる夫ウガバトル やる夫空の旅 (32) 43: VIPの恥ずかしいスレ晒しageていこうぜ (7) 44: 刺青入れようと思うんだが (80) 


はしゃぎすぎててワンダーランドだな・・・・・・まるで


俺は新スレ立てをすべくメモ帳を開いた。

     

翌日、俺は眼の下にクマを作りながら出社した。

昨日張り切って俺のスレをVIPに立てようと息巻いていたのは確かだ。
ただ、ワンダーランドと俺が称したニュー速VIPで
俺自身が万人を唸らせるだけの>>1になれなかっただけの話なのさ。

どうしてもおもしろい文章が浮かばず、しかもまだ俺と彼女の関係なんて、
ただの友達に過ぎない。それをどうやってVIPPERの皆様は楽しめると言うのか。
きっとつまらないに決まってるさ。だって俺ってつまんないもの。全てにおいて。

俺はそんなことを考えながらスレ立てウィンドウを黙って閉じていた。


だって、俺に何が出来るっていうのさ。孤男だぜ。つまんねえもの。
だるい体を引きずりながら俺は仕事に集中しようとした。
それが日々の心の空虚さを埋める一番の方法さ。
孤男の人々はこうして日々を当たり障りなく生きてるってことを皆も覚えておいてほしい。



眠たい眼をこすりながら午前の仕事をどうにか終え、
近くのコンビニで買った弁当を持ち、駐車場へ

俺は昼飯はいつも車で食う。とても自由な時間だ。
出勤中という拘束を伴う苦痛な時間の中で、唯一俺がフリーで居られる場所、それが俺の車の中
とはいってもこれは俺が姉貴から「借りッパチ」してる軽4であって、
厳密に言うと俺の車ではないわけだが、独りで「俺の」車で飯を食う。

うまい。誰の話を「聞いてるふり」する事もなく、相槌を打たされることもなく、
自分の時間を自分の為に使う。素晴らしい。気持ちいい。

弁当を食べ終わり、ゲフゥというため息と共にシートを倒そうとして、あることをふと思い出した。
昼休みのうちに出しておかないといけない郵便物があったのだ。
俺は舌打ちしながら事務所に戻っていった。

俺が郵便物を出してから会社に戻ると、鉄火が事務所に遊びに来ていた。
先日俺に「残業なん?」と聞いてきた、俺の向いの席に座っているくるくる巻き髪の女の子
通称「向井」と話しているようだ。

鉄火
「だからね、今日は居酒屋な気分だよw」
向井
「いや~お酒は私は今日はええわw」

っほほう、今晩はお二人でくんずほずれつのお食事会ですか。
などと俺は自分でくだらない事を心の中で言っておきながら、
その光景を妄想して勃起していた。
こういうところが俺らしいというか、なんというか
こんな自分が好きだからこそ、これまた孤男なんだな俺

とはいえなんだか俺が事務所に戻ってきてからというもの、
鉄火が俺に妙に話を振ってきて、俺は話に嫌でも入らなければならない状況に。

そして面倒臭いながらも受答えしていると、話が段々とステップうpしていくのを俺は感じていた。

鉄火
「~でさ、話変わるけどなんでいつも弁当持って行って車で一人で食べてんの?」


「だって一人で食べるの楽しいですよ 」

鉄火
「はははっ暗い、それは暗いw何の音楽とか聞いてんの?お姉さんに教えてみなよ」


「そうっすね、バンプとか」

鉄火
「一言返事の多い子だねwバンプって高校生とかが聞く歌じゃないの?」
「君若いねえ~w青春だね~w」


「ふるっ、青春って・・・」

鉄火
「だから短いってw一言返事やめてってw」
「君さあ・・・・会話のキャッチボールとかって苦手なの?一人っ子?」

なんという直球派・・・俺は言っておくけどデリケートなんだぜ、
そんな直球で話進められたら俺はキャッチボールなんて出来やしないさ。
いや元々下手投げで話しかけられたとしても話なんて出来ないけどさ。


そしてなんだかんだ言いながらも女性との話に夢中で相槌を打ったりしていたんだが、
窓ガラスの向こうからの俺を睨みつける鋭い視線を感じ、俺は心底ぞっとした。


TIGが事務所の中を、いや事務所の中にいる俺を睨んでいた。

     

俺はその日の定時後遅く、胃液で荒れた喉を咳きこませながらメモ帳にいそいそと文章ををしたためていた。
今日の出来事を思い出しながら、動揺と悔しさに涙を滲ませながら。



 今日の昼休みの終わり間際、鉄火達とそれなりに楽しいトークを繰り広げている真っ只中に
俺はTIGと眼が合い、彼の「こっち来いやゴルァ!」の視線に従い
彼の後をついていかざるを得なくなったのだ。
鉄火と向井がどんな顔をしていたのか、確認する余裕すらなかった。
ただ、怖かった。


TIG
「おい、お前今日仕事終わったら現場に寄ってけや、逃げるなよ」

それだけ言うとTIGは昼休み終了のサイレンと共に現場に戻って行った。
その足で俺は事務所に帰ろうとしたが、現場に行こうとする鉄火にすれ違いざま声をかけられた。

だが、俺は彼女が何て言ったのかすら覚えていない。
ただ、ただ恐怖で俺の心は塗り潰され、心は暗く沈んでいた。
返事をする余裕なんてあるはずもなかった。

定時後、何かに急き立てられるかのように俺はタイムカードを押し、TIGのいる現場へ
向井が何か俺に話しかけていたが、俺は聞こえていないふりをして、そのまま小走りで現場へ走って行った。

遅れたりして更に彼を怒らせてしまうと大変だから。
俺はこうして今まで自分への被害を最小限に抑えてきたんだ。

現場のTIGの持ち場に行くと、彼がいきなり俺の肩を掴んで俺の腹を膝で蹴りあげた。

TIG
「事務所のオスが何いちびっとんじゃ」

ただ抑揚のない声でそれだけ言い、俺はもう一度腹を前蹴りされた。
腹の中で異様な痛覚が渦を巻き、溢れたそれが俺の胃をうねらせた。

しっとりと缶ジュース臭い汚物が俺の喉を押し上げ、一気に中国の大海嘯のように外界へと放出される。
胃液とジュースの混じった汚物をシタシタと口から垂らしながら、俺は涙と嗚咽でむせ込むだけだった。

「痛くて苦しいけど、これを耐えたら多分TIGは満足するはず」

ゲロを吐くのには慣れている。
俺はこうやって「効いてるw効いてるw」というアピールをすることでこれ以上の苦痛から常に回避してきた。
もはやゲロマイスターと言っても過言ではない。

案の定、TIGはそこそこ満足した顔で黙ってその場を去った。
俺は洗面場で涙だらけの顔と口を流し、切り忘れたPCの電源を切りに事務所に戻った。

事務所には当然誰もいなかった。最近は残業も少ないからか、皆定時で争うようにして帰っていく。
俺は自分の椅子に座り、今日のストレスをどこに逃がそうかと考えていた。
しばらく考えていたが

「俺、いつまでこんな生活し続けるんやろ?一生なんかな?一生虐められながら、おっさんになって一人で生きていくんかな?」
そんなことを考えていると、不意に涙がぼろぼろと流れ、どうしようもなく自分が情けなくなった。
メールの着信が聞こえたが見ずに無視し、独りで泣いているうちに、昨日の夜更かしの影響か俺は居眠りしてしまっていた。


2時間程たったのだろうか。俺は不意に居眠りしていたことに気づき時計を確認した。八時を過ぎていた。
TIGに蹴られた頃は辛うじて夕日が残っていたが、今はすっかり暗くなっている。

メールが届いていたことを思い出し、携帯を開き内容を確認する。
鉄火だった。

>件名「今日TIG男にご飯誘われてるんだけど」
>本文「「**←俺」 が来るなら行くんだけど、今も残業中かーい?返信ちょうだいね」


すでに着信から2時間が経過している。まさにW死亡フラグ。

「どうしよう、どうしようおうおおあぼこあbkl」あgんこ凹」

・彼女の元へ逝く→TIGに当然発見される→文字通り逝く

・彼女の元へ逝かない→鉄火「最っ低!」→俺オワタ\(^o^)/

・彼女の元へ逝く→TIG「鉄火は俺の女でなぁw」→鉄火「キャハハキモーイ!童貞が許され(ry」→俺オワタ\(^o^)/

色々悩み考えたが唯一の俺的安心ルート

・彼女に電話→「なんでそんなに返事が遅いの!」  これも怖い
・無視→俺オワ(ry

何をどうやっても一人で泣いてた俺がアフォだったんだ、俺がメールを開いてさえいればここまで悩むことはなかったはず

「とはいえ、独りごと言ってる場合じゃない、どどどどどどどうしたらええっちゅうねん」

ふと、とりあえず片付けをして、電気とPCの電源を切ろうとして俺は固まった。
眼の前には、一基のPC、鉄工所で使っているようなPCなので、ネット閲覧の監視者なども居ない、まさに使いたい放題。
同時に俺の頭の中では昨日訪れたワンダーランドの民の顔を想像していた。

俺の実況で、楽しんでくれる人がいるかも知れない。アドバイスしてくれる人がいるかも知れない。」


俺はIEを立ち上げ、Googleのトップページを開き、馴れた手つきでキーボードを叩いた。

      _______                     __
    // ̄~`i ゝ                    `l |
    / /        ,______   ,_____    ________  | |  ____ TM
   | |     ___ // ̄ヽヽ // ̄ヽヽ (( ̄))   | | // ̄_>>
   \ヽ、   |l | |    | | | |    | |  ``( (.  .| | | | ~~
      `、二===-'  ` ===' '  ` ===' '  // ̄ヽヽ |__ゝ ヽ二=''
                         ヽヽ___//   日本
         _________________  __
         |2ch ニュー速VIP            | |検索|←をクリック!!
          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄
         〇ウェブ全体  ◎日本語のページ

     



「さぁて・・・これで、いいのかな・・・?」

俺は新スレ立てウィンドウを開き、事の詳細を書きこんでいった

「ワンダーランドの住人、VIPPER様よ、宜しく頼むぜ!!」

>1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。投稿日:2008/02/04(月) 20:35:29.16 ID:FW3MzqR00
>昨日から同じ会社の鉄工所の細身のお姉さん(現場、26歳)とメールを鋼管し始めた孤男板出身の俺25歳
>今日の昼休みとかも事務所で一緒に話してたりしてたんだけど、
>窓ガラスの向こうから俺の3歳年上のTIG溶接屋(墨入り)が(同じ会社)が睨んできた
>TIG溶接屋(墨入り)に呼び出された俺は「事務所のオスがいちびるな」と言われ腹を二回蹴られた
>んで事務所で一人泣いてたらお姉さんからメールが
>件名「今日TIG男にご飯に誘われたんだけど」
>で俺は失望&絶望、メールあけれず
>住人がメール開けろというので開けてみたら
>「「**←俺」 が来るなら行くんだけど、今も残業中かーい?返信ちょうだいね」
>すでに2時間経過、どうやって弁解していいかも分からん

>そこで連投規制くらってにっちもさっちも行かなくなってVIPに来ることを思いついた
>実際あるスレで相談してたんだけど、ほとんどレスがつかなかったのと、連投しすぎて書き込めなくなったので引っ越してきた
>たまに来るけどVIPははしゃぎ過ぎてまるでワンダーランドだな


>以下俺と彼女のメールの内容


これでいいか・・・少々虚飾も混じってるが、ひとりでも多くの人間の目に留まるのならば、
俺はもはや、なり振りなんぞ構わん!
すぐさまメールの内容、今日の出来事などを書き込み、連投していく。
俺ははっきり言って文章などまともに書ける類の人間ではない。
だから今の現状や考えてること、メールの内容など、書けるだけ書いていこうと思った。

だが、素敵な面白スレ、名スレ、
俗に言う「クヲリティの高いスレ」に慣れているグルメなワンダーランドの住人には
俺の文章はあまりにも稚拙すぎた。
すぐにDLすると、猛烈な叩きと非難に俺は晒されたのだ。

>>短すぎ 50行でまとめろ
>>釣りでした
>>目が物壊れた
>>チラシの裏にでも書いててね★
>>なんでこんなヤツとメールしてるんだろ?
>>読みづらいし展開遅すぎ
>>すげー読みにくい
>>全部読んで展開理解した
>>で?
>>いいからまず、法律屋に相談しろ

俺の目は更なる涙で覆われた。
だが、今の俺には頼る人間など一人もいない、その逆境こそが俺を強くさせる。
俺は読みづらさを解消すべく、以前にもお目にかかった産業説明ルール
通称「今北産業」を書いてみることに

>おっけ、有名な今北産業だな、まかせろ
>会社の年上女性とメール始めた俺
>人生初フラグかとウキウキ
>でも同僚の現場の男に凹られた、彼女はきょうそいつに飯に誘われてる

>これでいいか?


これでどうだねワンダーランドのグルメさん、少しでも興味を持っていただけたかね?

>>こんな形で妄想文垂れ流して何が楽しいか本気でわからない


だーーーーーーーーかーーーーーーーらーーーーーーーーー!!!11!!1!
釣りじゃないんですって!俺は、ここに、ここにいるんだぜーーーー?


俺はとにかく釣りだなんだとのたまいやがるグルメは無視しておいて、
俺の話を聞いてくれる御仁をターゲットにし、
まずは受け入れてもらえるように丁寧で分かりやすい文章を書いていこうと自分自身に誓った。

すると、中にはこんなレスも見え始めた。

>>確かに読みにくい。改行を上手く使え。
>>でも、よく読んだらちょっと面白い展開。
>>不覚にもwktkしてしまった。
>>ところで>>1は、安価メールって知ってるかい?

wktk・・・・・?

ああ、なるほど、ワクテカってぇやつだね。

安価メール?何の誤植だろう・・・
タイプミスにしては意味ありげだな、VIP語か?

>>TIGに安価で行動しようぜ
>>誰かvipらしく安価メールについて簡潔に教えてやってくれ
>>ここは、姉さんに安価メールだろ。
>>安価いこうぜ!

どうやら「安価」というのはタイプミスで出た単語ではないらしい、VIPで流行っているみたいだな。

>>1が俺らの指示に従うってこった
>>他の安価スレ見て学んでこい

なるほど、俺が踊り子となってみんなを楽しませるわけだな
乗りかかった船だ、やってやんよ!!

VIPPERの心を、狙い撃つぜえええええ!!











     

安価ルールについて若干の恥ずかしい勘違いはあったものの、
俺は鉄火とのコミュニケーションを安価によって取ることにした。

安価を俺が指示し、俺がその通りに動く
この状況を打開できない俺に代わって、VIPPERが俺を操縦する
そんなモニター越しの住人とのシンクロに、俺は今までにない期待感に股間を膨らませていた。

安価
『今日はちょっと行けないよ
また今度ね
あとTIG無しの方がいい 』

俺のメール内容もこのように決まり、とりあえず送信する。
俺は彼女からの返信を待つ間、住人にVIPのルール的なものを聞こうとしたが

>>文でしゃべるな 読みにくい

というレスもあり、黙らざるを得ない状況になった。
俺は自身の文才のなさをまたも嘆くこととなった。


すると鉄火から返信が入る

『おっそ!!遅いよ!!もう来てるよ!嫌々来てるんだよ?
飲んじゃったから迎えにきてよ、駅まででいいからさ 』


次なる安価
>>ウチにきてくれます?

・・・・・・・・・おまいさまがた(※1)・・・・突飛すぎるんじゃあないのか?
だが安価ルールは絶対との声もあり、俺はそれを送信する。
もうどうにでもなれだ


『怒るよ?***にいるから早く来てよ、TIG金持ってないんだよ、最低 』

なんという狡い男だ、俺なら女性とお出かけするというのなら、
野口の5人や6人は連れていくってもんだ。
全くレディへの気遣いってものが出来てないな、TIGは
まあ女性とお出かけなんてしたことはない訳だが。


そして半分浮かれつつ、半分やけになった俺にVIPの鉄槌が下る。
次なる返信安価

>>190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。投稿日:2008/02/04(月) 21:26:38.20 ID:k4duGsBB0
>>お前キモイよ^^w


これに対しては「送るのがルール」派と「フラグを消すな」派の間で意見は割れたものの
『お前キモいよ^^wってTIGに言っておいて」

と送ることで一応の解決となった。
最初は俺を叩くだけだった住人も、この頃にはその三分の一程が擁護してくれる側となっていた。
俺は、スレ住人の温もりも感じつつ、次なる彼女のからの返信を待つこととなったのだった。






後注
(※1)おまいさまがた・・・主人公が「オマエ」や「おまい」などの呼び方が偉そうで
               住人に嫌われるかもしれないという気持になったため、
               いつしか住人に対する呼びかけとして「おまいさまがた」
               と使うようになった。
               住人も後になり上記の言葉を使うようにはならなかった。当然。

     

『お前キモいよ^^wってTIGに言っておいて」

のメールの後、彼女からの返信を待つ間
ようやく俺のくだらないスレに乗って来てくれた住人と会話をする。

住人の声は完全に二分していた。

>>なんだこれ、本気でイライラする
>>稀に見るgdgdだな
>>>>1がはっきりしねーからgdgdなんだろ
>>だから>>1はいつまで経っても駄目なんだよ
>>進展おせぇええ
>>もうワンパターン過ぎてどうしようもない
>>日本語でおk

という声が上がる一方

>>お姉さんは>>1のこと好きだろ
>>力づくでいけや
>>さっさと迎えに池
>>なんかこの>>1可愛いな
>>待てよお前ら。1はvip初めての人間だぞ?人間最初は無知だ
   親切に教えてやろうぜ
   たまにはいいじゃねーか、ヌクモリティ 相手は待ってるのに、返信遅すぎないか?
>>再安価でも良いから、早く送ってあげろwww

というレスもあり、俺はその内容のひとつひとつに一喜一憂していた。
だがそのうち安価ルールについて熱く激論する連中も現れ、
スレは次第に混沌としていき、スレ主を放置しての住人同士の煽り合いへと発展していく。
そして俺のストーリーは一向に進まないのに
スレの進行は煽り合いによりマッハと化していく。

後に俺はパート速報VIPというヌクモリティ溢れる避難所にて報告をしていくことになるのだが、
この混沌としたスレの特色は
「パー速始まって以来の殺伐スレ」と形容されることとなるのである。

そしてスレが暴走している間
俺は彼女から掛かってきた電話を取っていた。

     

スレが殺伐としはじめた頃、俺は突然鳴り始めた電話に驚き、小さな悲鳴を上げる。
こわごわと俺は相手を確認した。

着信 鉄火

携帯を開き「もしもし?」と少しおどおどした声で応答する。
彼女の次なるリアクションが怖くて声が上ずってしまう。

鉄火
「あんな(お前キモいよ^^)の言ったら君殺されちゃうよ?馬鹿だよね
 だから何度も言うけど、迎えに来てくれないと私今日腰が痛いんだからさ
 ていうか今の時間会社でなにしてるの?来てくれないならそっち行くよ?
 ***に居るから来るか来ないか早く決めて電話してよ!!
 仕事5分で終わらせてよ!!」

なんで俺が怒られるんだよ。

その最中もいくつかの安価指示が出され、
嫌でも彼女との会話は進んでいく


「お姉さんは俺に何を期待している?
 TIGも男だし、俺も男。
 俺がお姉さんを助けるとしたら俺はお姉さんを抱くぐらいの覚悟でいくつもりでいる。

 それでもいいか? 」

鉄火
「あっはっはっ!!それ本日最高の出来だよ**君!!
 いいからもう、迎えに来てくれるよね、遅くなってるからもう家まで送っておくれよ 」


「いいですよ、でも期待スンナよ」

鉄火
「ブプフゥウーーーーーーーーー!!やっぱ**君おもしろいね、好きだわー 」


「俺もおねえさん嫌いじゃない」

俺がスレを激しくスクロールさせながら鉄火との会話を進行させていると
突然電話の声が遠くなり、何も聞こえなくなった。
そして再び聞こえてきた声は俺を戦慄させることとなった。

TIG
「ころすぞ、ちんかす 」


TIGだ、もうここまで来たら後には引けない、俺がここで迎えに行ってTIGにボコられたら、
それはそれで住人を笑わせることもできる、俺はネタの為ならもはやリアルを捨てる!


「それは殺人罪ですね^^、今からお姉さんを迎えに行くんで大事にあつかってください」

TIG
「早くこい、逃げたら家までいくぞ」


「ゲロおいしかったです^^」
TIG
「お前誰にhぶえひおgj:」

俺(息吸い込んで)
「氏ねあほ!!この低脳!!」

ブチっ


一方的に俺から切った電話を左手で握りながら
俺は自分の今日の行動を深く深く後悔した

「ああ、今朝のうちに握っておくべきだったな、チンコ」



スレ自体はすでに住人同士のバトルで収集が付かなくなっていたので
俺は独自に最終行動を決定
彼女を迎えに行こうと皮ジャンを手に取った。

       

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