Neetel Inside 文芸新都
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あるコンビニ店員の独白
ある大学生の独白

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 寂しかった、というのもある。このご時勢、単に金が欲しいなんて理由だけでアルバイトをする輩なんていないだろうし、別にいてもいいが少なくとも俺は、低い音でうなる冷蔵庫や排気の音が耳障りなノートPCと会話するのに飽きてしまったのだ。
 話したい。なんでもいいからとにかく会話をしたい。他愛ない話でもいいのだ。昨日見たテレビ番組でもいいし、テレビを見ながら作っていたせいで焦がしてしまった鍋のことでもいい、ただしゃべくりたい。そしてその後にお友達になりたい。
 ここ一週間で発した言葉は、独り言以外に、大学の講義中に回ってきたプリントを配られる際に同じ学科の名前も知らない男と交わした、「はい」「あ、ひゃい」くらいである。どちらが俺かは推して知るべきである。である。
 だから俺は、何とかして誰かと(できれば人間と)会話するために、大学生活も2年目に差し掛かって萎縮しつつある脳を総動員し、考えに考え抜いた。どうすればこの全身ユニクロorしまむらのいけ好かないネクラヤローにイエスノー以外の会話ができるのか。
 同じ学科の人。だめだ。いかんせん都市部に少し近いからってDQNとかリア充ばかりなこの大学には、俺と気の合う奴なんていないだろうし、第一そんなのだったらこんな悩みなど持たないはずだ。
 サークルに入る。これもだめだ。残念ながら俺が大好きなアニメ・ゲームの話題を取り扱うサークルや同好会は、設立から10年経っていないこの大学には存在しない。もちろん俺がつくろう、なんて気はさらさら無い。
 そうやっていくつかの構想を浮かべていっては、自らの頭の中でかき消した。どうやら俺にはこの6畳一間のコ汚い空間がお似合いのようだ。浅ましくも勇敢な俺の計画よ、さらば。
と、ここで腹が鳴る。
「もう6時か……腹減ったな」
 魅力的なハスキーボイスで語りかけてくる冷蔵庫のドアを開け、中を見回すが、特に食べられるものが無い。Mr.リフリジヱイターはかくも甘い言葉で俺を誘惑してくる上に、ドアを閉める際には投げキッスまでされる程溺愛されているのだが、俺は家電製品の子を産む気はまだ無い。
 さて、どうするか。この時間にカップラーメンでは夜中に腹が空くだろう。かといって徒歩10分のスーパーに行くのも骨である。
そうだ。家から徒歩5分ほどの、あのコンビニに行こう。店名は何だったか。まあいい。とにかく行ってみよう。

 そのコンビニは、俺のアパートから歩いて5分程。住宅街の先にある坂を下ってすぐの三角地帯にあった。オレンジの看板は遠目に見てもその系列のチェーン店であることを明確に示している。
そして、店に入ろうすると俺は、ふと。店のガラス窓に張られたポスターに目がいった。
                  《アルバイト募集中》
 そのポスターには、この店のイメージカラー・オレンジと白の制服を着た店員が3人並んで笑っているイラストと、アルバイトを募集している時間帯が簡潔に書かれてあった。
 俺の中でなにかがはじけた。これだ、と思った。
 店のドアを開ける。店員の挨拶が聞こえる。しかし、俺の耳には何と言っているかまではわからない。
 そして俺は、思いついたことを店員に言ってやったんだ。
「バイト、したいんですけど」

       

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