Neetel Inside 文芸新都
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或る日に読む雑文
或る地獄

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地獄とはこんな場所だろうか。

空は白く、地は黒い。

それ以外に何もない。

風も無い。

あるのは、自分の体と、

死ぬ前に纏っていた衣服だけ。


ここでは、全てが、死んでいる。





自分は地獄へ行くものだと思っていた。

数々の女を犯し、

殺し、

歯向かう男も同じように殺した。

その末路は、犯し殺した女の彼氏に

殺されるというものだった。

酷く最後に相応しくない。

もっと残虐に、醜く殺されるというものだと

想像していた。

だって、それ相応のことをしてきた。

それが、ナイフ一刺しで

あっけなく死ぬとは。

俺に殺された人たちが報われない。

だから、地獄へ行くにしても

もっと酷い地獄、

それこそ死ぬ事なく死ぬ地獄とか、

腕を折られても、腹を裂かれても死なない、

そういった地獄に行くと思っていた。


それが、何もない。

あまりに平坦で、淡白な地獄。


あぁ、これもある意味地獄か。

人が真っ白で何もない部屋に居ると

発狂するという話を聞いた事がある。

つまり、そういう事か。

俺の最後は、発狂し続けるという地獄か。

それも有りかな、と思った。





とりあえず歩いてみた。

真っ黒な大地を、一歩一歩。

先は見えない。

全く何もない。

でも、歩くしかない。

たまに走ってみた。

すぐに息が切れた。


そうしていると、熱い風が吹いてきた。

いや、熱いだなんてものじゃない。

業火の熱風だ。

まるで怨念の業火。

全てを燃やし尽くす、火。

これで焼かれ死ぬのか、と思った。

それと同時に、


――あぁ、時間はまだ生きている。


そんな事を思っていた。



しばらく熱風を浴びていると、

遠くに悲鳴が聞こえた。

走る。

ここには俺だけじゃない、

誰かが堕ちて来たのだ。

仲間がいる高揚感。

それが嬉しくて、

たどり着いたその場所は、


地獄だった。





人が叫ぶ。

火の中で。

人が苦しむ。

業火の中で。

あぁ、そうだ。

俺はこんな地獄を望んでいた。

苦しみ続け、

どんなに後悔しても

どんなに過去を悔いても

解放される事のない。

そんな、地獄。


――俺もあそこへ飛び込もう。


そう思い、足を踏み出すと、


ドスン

ドスン


ドスン


更に遠くから、地響きが聞こえた。

あぁ、なんだっけ、あれは、

思い出せない。

ただ、徐々に近付いてくるアレに潰されては

きっと消える。

死ぬんじゃない。

消滅する。

燃え尽きて、それでは飽き足らず、

ここで全てが終わる。


そこで漸く地面に気付いた。

人だ。

人だったものだ。

真っ黒で、燃え尽きた炭を

さらに圧縮したものだ。

その上を俺は歩いてきた。

いろんな人を糧にして。

あぁ、これが現実なのだと

漸く、悟った。

俺もこの一部になるのだ、

本望だ。

罪深き一部になる。

それが罪人の本来あるべき姿だ。

また俺の上を罪人が歩き、

その上に圧縮されて、

それの繰り返し。

俺の面影などどこにも無い。



気付いたら、俺は火に飛び込んでいた。

熱い。

皮膚が爛れる。

赤、紅、あか、アカ.。

もう足は焦げて、炭になった。

もうじき全てが炭になって、

アレに潰されるだろう。


ドスン

ドスン

聞こえる。

俺の鎮魂歌。

魂が消える。

消滅する。

その音が、近付いて

もうすぐ

俺は





ごめんなさい。

お父さん、お母さん。

こんな子供でごめんなさい。

でも、貴方たちの息子でよかった。

ミキ。

俺は君を愛していた。

捨てられて、悲しかった。

ヨウコ。

そんな俺を愛してくれた。

でも、また捨てた。

俺が殺した女たち。

ごめんなさい。

欲望のはけ口にして。

俺を殺した彼氏。

ごめんなさい。

殺してごめんなさい。

俺を殺して満足でしたか?


あぁ

それにしても

死にたくない

消えたくない。

なんて罪深い。

そこまでして、まだ

生に執着している。

あぁ、でも、それは

人間のあるべき姿で。

まだ生きたい。





そもそもミキが俺を捨てたのが悪いんだ。

ヨウコがそれでも捨てたのが悪いんだ。

俺に夢を見させておいて。

女たちも抵抗するから悪いんだ。

俺は悪くない。

なんで俺を殺した?

お前がちゃんと守っていればよかったんじゃないか!

傲慢だ! 横暴だ!

なんで俺が殺されなきゃいけない?!

なんで俺が地獄に落ちなきゃいけない?!

怨んでやる。

一生怨んでやる。

お前らもここに来い。

地獄に来い。

俺の上で同じような事を思って消えろ!

一生、怨み続けてやる!





潰される手前、

眼下に見た顔は、

最後に殺した女の顔だった。





そこは地獄。

連鎖する地獄。

死してなお反省せず、

他を怨み続けたものが堕ちる地獄。

それは連鎖する。

次の罪人を呼ぶ。


さぁ

次は誰がここに来るだろう?

       

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