Neetel Inside ニートノベル
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賭博異聞録シマウマ
第十五話 理外の打ち筋

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 そう、永遠に勝ち続ける王など……存在しないのだ。




「ロンロンロォン! タンヤオイーペーコードラ1、6800」
「それだっ! 平和ドラ1! 2900の一本場は3200」
「ロン! チートイツのみ。2400の二本場は3000」

 シマ:49900
 倉田:7000
 雨宮:25000
 八木:18100


 倉田の目に涙が浮かんでいるのは、頭痛のせいだけではないだろう。
 卓に三本場を示す百点棒が新たに投げ込まれた。
 通常の麻雀ですら滅多にない流れ……シマ、驚異の五連続ホーラである。
 八木と倉田は、決して暴牌しているわけではない。
 ただ、いかにもアンパイに思える牌で待たれているだけなのだ。
 タンピン手を匂わせば筋ひっかけで待ち、字牌をしぼれば通常の手で討ち取る。
 まるですべての牌が透けて見えるかのように、シマは場の流れを支配しきった打ち回しを披露した。
「さて……そろそろケリをつけちゃおうかな?」
 シマの冗談めいた言葉が、倉田と八木の顔を一層蒼ざめさせる。
 ただ一人、雨宮だけが歯を食いしばりながらシマを睨みつけていた。



<東三局 三本場 ドラ:南>

 麻雀とは、結局のところアガリの速さがすべてである。
 どんな策を弄そうとも、アガられれてしまえば、あるいはアガれなければ終わり。
 シマといえども、ゴミ手が来てしまえばなすすべもない。

<シマ 配牌>

     


     

 三①②③④⑥⑦78白東西西
 ツモ:⑨ピン
  打:三萬

 にも関わらず、彼女は当然のように引いてくる。鬼手を。
 一通からホンイツ、あるいは78ソウを使った迷彩までこの手の未来は数多……。
 シマの前途を祝福しているかのような手だ。
 この大勝負でこんな流れが来たら、思わず笑ってしまいそうなものだが、天馬の顔は浮かなかった。
 彼からすれば、見せつけられているように感じるのだ。
 どうあがいても届かない……自分との格の差というものを。
 いま、倉田や八木、雨宮は懸命だ。なんとかしてシマの親を流そうと努力している。
 それに比べて、自分はなにもせず、ただうしろで見ているだけ……。
 最初から相手にされていないのだ。誰も天馬の存在を気にかけなどしない。それが普通で自然なことだった。
 無力な透明人間……。

 ……。
 まあ、いいか……。


<シマ 手牌> 

     


     

 ①②③④⑥⑦⑧⑨78東西西
 ツモ:⑤ピン
  打:東

 テンパイしたものの、ここでシマ、リーチは保留。
 外野の天馬からすれば、リーチをかければ親満確定、しかも捨て牌はピンズのホンイツ風味のこの手を保留する意図はわからない。6-9ソウがこぼれる確率は悪くないように思える。
 それに、倉田の点棒のこともある。
 今夜のこの麻雀勝負、どちらかの陣営にハコ割れが出た時点で、その半荘は決着という取り決めになっていた。
 いまの平和一通だけでは5800の三本場6700止まり。残り7000の倉田を飛ばせない。
 リーチをかけてしまえば、オリられて6-9ソウは出ないと踏んでいるのだろうか。
 と、天馬があれこれ考えているうちに
「リーチ」
 雨宮が突っかかってきた。

<雨宮 河>

     


     

 西 南 中 二 一 四 七 七 八 9 ③(リーチ)

 向こうも染め手の気配、ピンズかソーズか。
 もしくは単なるタンピン手とも考えられるが、その場合は振ってもせいぜい3900かそこらだから問題ない。
 どちらにせよ、マンズはアンパイと考えていいだろう。
 ここでシマがアタリ牌を掴むとは思えない。
 
<シマ 手牌> 

     


     

 ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨78西西
 ツモ:六萬

 やはり、この局もシマのものか……。
 そう天馬が思った次の瞬間、

 シマ打:西

(え……?)
 シマが降りた。この状況でシマがオリる理由などたったひとつしかない。
 六萬がアタリなのだ。
 そこに至るロジックは不明だが、いままで完璧に読みきってきたシマの理を疑う気持ちはすでに天馬にはなくなっていた。
 そして当然のように、次順……

「ツモだ」

<雨宮 手牌>

     


     

 一一一三三三六七八九北北北
 ツモ:九萬

 やはり、またもやシマのヨミは的中していた。
「リーヅモホンイツ三暗刻。ハネマン、6000・3000の三本場は6300・3300」
「あらら、四本場まではいけなかったかあ」
 シマが減らず口を叩きながら点棒を投げ渡した。
 読みきったシマも異常だが、あの捨て牌からこんなアガリを作るとは……雨宮もまた、常人離れした豪運の持ち主だと天馬は痛感せざるを得なかった。
 しかも、点棒が危うい倉田のことを考えないツモあがり。とにかくシマの親を蹴ることを優先したのだろうが、果たしてそれが最善策かどうか。
 倉田はこれからは、1000点のフリコミすら莫大なリスク。まともな闘牌はもうできないはずだ。
 次の親は倉田だ。シマがマンガンをツモるだけで、親っかぶりで倉田は飛ぶ。
 次の手次第で……すべてが変わる。


 シマ:43600
 倉田:3700
 雨宮:37900
 八木:14800

       

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