Neetel Inside ニートノベル
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賭博異聞録シマウマ
【外伝 七夕の雀姫】

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 そうだ、雀荘にいこう。
 金を得るためには、あそこしかない。
 一歩踏み出せば、それまでの常識は消失し、たかだか136牌がすべてを支配する世界へと変貌する魔界へ。
 そんな暗黒に通じる、とあるビルの扉を――俺は開けた。

 中は思っていたよりも明るく、タバコの臭いこそこびりついていたものの、充満しきって息もできぬほど、というわけではない。
 平日の夕方、そこには中年のオバサン、だるそうな若者、腰の曲がった老人、なぜか女子中学生など、様々な雀キチたちが卓を囲んでいた。俺の入店に誰一人として視線を向けてくる者はいない。恐らくいま、彼らは卓上の闇にダイブしているのだろう。
 俺は店員(メンバーとかいうらしい。若いのに総白髪だった)に案内され、ひとつの卓へと案内された。一欠けの卓で、俺以外の三人はすでに準備万端といった様子で待ち構えていた。全自動ではなく、平の台だ。

 俺の左隣、すなわち下家には入店して最初に目についた恰幅のいいオバサン。上家には会社帰り風のメガネとポニーテールが決まっているOL、対面には真っ黒の服を着込んだ女性(暑くないのか?)が革張りの椅子に腰かけている。
 その中の一人、下家のオバサンが俺にずいっと顔を近づけてきた。
「あんた、見ない顔ねえ。初めて?」
 俺は素っ気無く、そうだと答えた。オバサンはじろじろと俺をねめつけた後、「ま、楽しんでいきなよ」といってにやりと笑った。
 少しは善人の演技でもしたらどうだ。しかしまあ、楽しい遊びの麻雀をしに来たわけじゃない。
 俺が欲しているのは本当の勝負。そして金……この程度の牽制、むしろ望むところ。
 そう思い、一人卓下で拳を握り締めていると、今度は対面の黒づくめの女性が話しかけてきた。
「アア……お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
 俺は顔をしかめて、どうしてそんなことを聞くのかと問い返した。
「いいじゃありませんか。減るものじゃありませんわよ、おほほ」
 俺が渋々名乗ると、女性は満足気に頷いた。
「マア、素敵なお名前だこと。では、ワタクシも名前をお教えしなければいけませんネェ。
 織姫、と申します。どうか、お手柔らかにしてくださいましね?」
 織姫と名乗った女性は、サイを回した。
 ころころころころ。
 …………。


<東一局 親:俺 ドラ:西>


 初めての雀荘とはいえ、することは基本的に麻雀だ。俺が普段打っているネット麻雀とそう変わらない。
 違うのは、賭けているか、いないかのみ。
 
<配牌>

     


     

 一四五②③⑥⑥⑦45東北白

 まあまあ、と言ったところか。順当に整理していけば……
「マア……九種九牌ですわ。でも、流しはありませんよね」
「ええ、そうです」
 織姫のぼやきにOLが生真面目そうにメガネを直しながら答える。
 ホントに九種九牌か? 俺は疑う。むしろこっそり、好形タンピン手が入ってたりして。

 そして数順後、ようやく字牌整理を終えた頃、千点棒が転がった。
「リーチ!」
 織姫ではなく、下家のオバサンだ。

<オバサン捨て牌>

     


     

 ⑥21⑧西東白三五

 俺はじっと捨て牌とオバサンの顔を見つめていた。見つめすぎて「早く切りなさいよ」と怒られてしまう。
 真剣勝負なんだ、少しぐらい大目に見てくれ。

 打:七萬

「……よく切るわねそんなとこ。あんた、バカ?」
 俺はぶるっと肩を震わせた。
 やめて、そんなツンデレが頬を赤らめそうなコトを言わないで。寒気がする。いやいやマジで。

 さらに数順後……
「ツモ! リーヅモ、チートイ! 6400よぅ」
 オバサンが手牌を倒した。ばらららら。
「ついてますね、浦部さん」
「あら……せっかく国士イーシャンテンでしたのに」
 言葉は穏やかだが、織姫とOLから殺意の波動がこぼれ出ている。オバサンはまったく気づいてないようだ。
「今日はなんだかツイてるわあ、カモがいるからかしら、ね?」
 俺は舌打ちし、3200を投げつけてやった。オバサンは「もう、ギャンブルは熱くなったらダメよ?」などとほざいている。

<オバサンアガリ>

     


     

 二二八八九九③③⑧⑧88南

 クク……。
 俺は手牌を崩し、河へ混ぜ込んだ。
 二枚の南は俺以外の誰の目にも触れることなく、闇に消えた。




<東二局 親:メガネポニテOL ドラ:三萬>


<配牌>

     


     

 一二三三三④⑤⑤2389東西

 通常の手作りなら、ここは⑤か字牌を落として平和にもっていくところだが……
 俺にはわかる、この手の行く末。
「ずいぶんと、嬉しそうですわネェ……」
 ドクッ。
 心臓が跳ねた。手牌から視線を上げると、織姫が頬杖を突きながら微笑んでいる。
 俺は無視して、打牌する。

「こんなトコロにお一人でやってきて……
 退屈を持て余してしまったのでしょうかネェ」

 俺の手牌は急速に進化していく。

<手牌>

     


     


 一一二二三三⑤⑤238東西

「アア……可哀想に……
 アナタはまるで火に魅入られた虫のよう……」

     


     

 一一二二三三⑤⑤22西西東

「わかっていないのでしょう……
 自分がなにをしてしまったのか……
 どこにいるのかを……」

 つまらない問答だ。精神に揺さぶりをかけているつもりか。
 それが雀荘に巣食う悪鬼の闘い方かよ、織姫。
 俺はリーチ棒を投げた。ケチな保留する気なし。
 そして次の順、俺は引いた牌を卓に叩きつけた。

<俺のアガリ>

     


     

 一一二二三三⑤⑤22西西東
ツモ:東

 リーチ一発ツモチートイツドラドラ。さらに裏ドラが西で乗ってドラドラ。
 倍満ツモホーラだ。
 やはり恐れることなどない。
 俺は無敵だ。負けないのだ。
 勝ってここを……

 そして俺は見た。

 織姫の口が一瞬、耳近くまで裂けるのを。

 泡を食ったような心地でパチパチ瞬きすると、すでに元の顔に戻っている。
「どうかなさいましたか?」
 不思議そうに小首を傾げる織姫に、俺はなんでもないと手を振った。
 この勝負は東風戦。倍満をツモホーラしたのだ、もう安全圏、心配はいらない。
「それはどうでしょうネェ……」
 まだ言うか、と俺は織姫を睨みつける。
 なんなんだ、こいつはさっきから。
「いえいえ、気分を害してしまったのなら申し訳ありません。
 ですがね……ワタクシの親番が残っているというのに、もう勝負がついたかのような態度をしていらっしゃるのはどうかと思いますよ」
 それのなにが悪い。これから俺はタンヤオだろうがファンパイだろうが、アガってしまえばいいのだ。それで二度局が回れば勝ち。
 圧倒的な金を得て、ここを出て行ける。
「それは……アア……無理なんですよ……
 アナタには……」

 ばらららら

     


     


「天和、九連宝灯。
 ……トビですね」

 俺の時が止まった。


 やられた……


 ツバメ返しだ……


 まったく気づかなかった。いや、気づけなかった。
 未曾有のスピード……。


 ヒラの台に案内された時から、イカサマには最新の注意を払っていた。
 オバサンの打ち筋からガン牌クサさを見抜き、それを逆手に取ってチートイをアガりさえした。
 俺は完璧に闘ったはずだ。
 誰からも、目を逸らしてなんかいない。
 なのにどうして……。
 これが……
 雀荘……。


「では、清算の方に移りましょうかネェ」
「あ……」
 すでに俺の周りには黒服の女たちによって固められてしまっている。逃げ場はない。
 これから俺は、どうなるのだろう。
「マア、ご存知ないので?
 売春ですよ、売春。アナタは若々しいから、きっと殿方たちに優しくしてもらえるでしょう。おほほ。
 本当に助かります。なにせ……






 俺っ娘は数が少ないですからネェ。

 おほほほほほほほほ……」




 嫌……。
 嫌ぁ……。


【七夕の雀姫 終】

     


<あとがき>

あれ? 織姫先生にお返しFAならぬお返しSSを書いたつもりが、先生悪役になってる! ふしぎ!
すいませんでしたマジで。かっこよくしようとしたら……気づいたらこんなんなってて……。
雰囲気もあまり出せず……悪いのはマ○クのコーヒーです。全然眠気が醒めないよコレ……。

しかもシマウマに出すという話だったのに、シマウマ未登場という……いや実は店員の白髪頭がシマだったんですよ。たぶん。ごめんなさい。

文芸とニノベは風当たりが強い時もありますが、こんな風にコラボしていってもっと発展していったらいいなあという祈りを込めつつ天鳳いってきます。

やっほーい平和も張れないぜコンチクショー!!!!111

       

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