Neetel Inside ニートノベル
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Vendetta 3
対人間蝙蝠編

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[対人間蝙蝠編]

 荒野に仁王立つ人影。
「母を 殺された 恨み」
 碧の青天を指差した。
「父を 殺された 恨み」
 両の瞳が意志に滾る。
「妹を 殺された 恨み」
 ベルトに手を翳した。

「いまこそ 晴らすとき」
 バックルの風車が廻る。
「ブゥイ スリィイ!変 身ッ!」
 廻転が唸り声を挙げる。

 光が人影を包む。
「"Vendetta Three"」
 風見士郎が―…甦る。
「仮面ライダー参号」
 異形の戦士として。

――変態(Metamor-phose)。
青虫が蛹を経て蝶へと成るように。
健やかな青年然としていた風見士郎は、
その容貌容姿を一変させていた。

 蜻蛉のような面立ち。
蛇のような蟲のような深い苔色の全身。
錆びた血色に染まる両腕脚。
光沢を湛える白銀色の胸板。

 そして満ち満ちる殺意。
鬼神のような害意。闘神とも呼ぶべき戦意。
 なにより一切合財を敵対視する狂気。

 "それ"を、人と呼ぶのはおぞましい。
ある者の言葉を借りれば混成昆虫―…或いは人造兵士。
しかし、"それ"は誰よりも人らしさを胸に秘めていた。

 赤い赤い風車を嵌めたベルトだけが
青年と異形の二つを結び付けている。

「推して 参る」
 立ち塞がる有形無形の敵勢に、咆哮のような宣言。

     

一千を越す同志が我先にと"異形"へ喰い付こうとした、刹那。
「拙が 往く」
 静かな静かな一声で、静止する。
異形を囲んでいた同志の動きがぴたりと止まり、
"彼"と異形との道を作るようにその場を退いた。

 "秘密結社"の人造兵士―…その一体。
ゴティック調に洗練された吸血蝙蝠の仮面を被り、
闇色の外套は足元までを覆い隠していた。

「拙は人間蝙蝠なり」
 異形に対し、正正堂堂の名乗り口上。
腰をゆるやかに落としながら、
仮面に隠された鋭い視線が異形を貫いた。

「蝙蝠一刀流」
 "人間蝙蝠"が疾走する。
改造と鍛錬を重ねた脚力が生む急加速は
音速にも近づき、間合いを一瞬にして詰める。

「秘伝奥義」
 姿が消えたかのような人間蝙蝠の行く先を
仮面ライダー参号が己れの背後だと判ずるより早く、
人間蝙蝠は腰に帯びた日本刀を抜いていた。

「二重閃波」
 "ぱ"の音と刃筋が同時に空を割いた。
蝙蝠一刀流は高速移動から展開する居合術であり、
相手に予備知識がない場合の勝率が極めて高い"奇襲"の型である。
その経験が、人間蝙蝠に"斬れた"と云う意識を持たせた。

"手応えがない"と云う感覚が一瞬遅れて発生する頃には
一寸身を前へ屈めて剣戟を凌いだ仮面ライダー参号が、
体勢を整え直してこちらを向いていた。

「遅い」

     

 その言葉を吐いたのは確かに仮面ライダー参号である。
流れるような仕草で拳に力を込め、振りぬく。

 鼓動のように波打つ血が、不整に荒野を染めた。
左の脇腹から右の肩へと迸る深い傷を帯びた―…
仮面ライダー参号が力の抜ける拳に視線を落とした。

「そんな」
 次いで移る視線は傷跡の形に注目する。
確かに回避した筈の"二重閃波"の刃筋が、
そのまま腹から肩へと刻まれていた。

「銘刀"天涯蝙蝠"が繰る表閃波が一つ」
 人間蝙蝠が抜いた日本刀が、その鋭鋒に月光を照らす。
極限まで砥がれた刀は鋼を容易に裁つ切れ味を誇る。

「そして拙の超音波が繰る裏閃波が一つ」
 人間蝙蝠が湛える微笑みは尋常ならば犬歯に位置する
二対四本の牙歯の見栄えを良くした。
 人間蝙蝠―…その名の通り、
人間に蝙蝠の性質を持たせた人造兵士は
攻撃性の超音波を自在に吐くことが出来た。
 表閃波で割いた空気の筋に吐く攻撃性超音波は
表閃波同様の軌跡を描いて敵に喰らいついた。

「表裏に敵を襲う"二重閃波"」
 表閃波で確実に相手の動きを制し、
一瞬遅れて放つ裏閃波で仕留める。
 繊細緻密とも云える唐繰りを口にする
頑なな自信が人間蝙蝠を支えていた。

「回避不能の 斬撃なり」
 天涯蝙蝠を鞘を収めた人間蝙蝠は
十歩―…自身が急加速で埋めた距離を再び取る。
乱れた外套のすそを直しつつ
もう一度"二重閃波"を放つことを、
その構えから仮面ライダー参号に知らせる。

     

「ならば」
 仮面ライダー参号がベルトに手を掛けた。
風車の回転速度が次第に増してゆく。
 風切り音が人間蝙蝠の耳にも届いた。
「何を目論もうとて 無駄」

 台詞を吐き捨てて、疾走する。
再び背後を取る―…と推測して咄嗟に後ろを向いた
仮面ライダー参号の裏を掻きいた。
 一度死角に移動した瞬間。
外套でひた隠していた黒翼を羽ばたき、上空へ移動する。
そして抜刀。
振り下ろすように頭を叩き割る刃筋を描いた。

「仕留めたり」
 今度こそ感じた手応えに、
人間蝙蝠がにやりと笑う。
 
 けれどその感触は―…
天涯蝙蝠の折れた感触であった。
"折れず曲がらず"と云う日本刀の精神を
体現した銘刀が、ぱきりと折れた。

「クロス ハンド!」
 仮面ライダー参号は両手を交差に組んでいた。

――仮面ライダー参号に内蔵される"二十六の装置"の一つ、
全身の細胞を超活性化させる"クロスハンド"が起動する。
 クロスハンドは腹胸部の斬撃痕を瞬く間に癒してゆき、
全身骨格を別人と見紛うほどにパンプ・アップさせる。
 筋骨を二周りも肥大化した仮面ライダー参号は
頭部に受けた斬撃をものともせず、叩いた刀を折った。
 攻撃性の超音波も"クロスハンド"の咆哮で掻き消し、
二重閃波を完全に防ぎきった。

 人間蝙蝠は折れた天涯蝙蝠の切先へ視線を遣った瞬間、
更に空高く飛翔した。
距離を取り、事態を把握しなければならない。
歴戦の戦士の直感が行動に隙を与えなかった。

 それでも、遅かった。
 駆けるように跳躍した仮面ライダー参号が、
飛翔する人間蝙蝠に一瞬にして追いついた。

「ライダー キック!」
 全身全霊の力を込めた一蹴り。
人間蝙蝠が、爆して散じた。

[対人間蝙蝠編 了]

       

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