あるところに寂れた村があった。その村は年々村人が減っていき今では百人にも
満たなくなっていた。その村の唯一の名物といえば村の外れの森の社にある
樹齢300年といわれる御神木のみ。しかしその村の交通手段といえば一日に
一本のバスだけ。そんな辺鄙なところにやってくる物好きはほとんどいなかった。
また他の樹齢数千年といわれる、木々に比べて見劣りするのも確かだった。
そんな村にトラックに乗って5人の若い男がやってきた。村の人々は驚いた。
『一体何をしに来たんですか。』
『木を伐採しにきたんですよ。社の周り辺りをね。』
『えっ。まさか。あの辺りの土地は村長が持っているはずでしょう。』
『さあ。しかし土地の権利はわが社の社長が持っているらしいですが…。』
すぐさま村長が住民たちに攻め立てられた。
『どういうことなんですか。』
『いやすいません。私の親戚が工場を経営しているんですが、経営が行き詰って
しまったんです。そこで資金を出していたんですが、私の蓄えも尽きてしまったんです。
そこで借金の担保として土地を私の友人で建築と林業をしている会社の社長に…。』
『なんでそんな大事なことを言わなかったんですか。』
『いや決して、伐採はしないでくれと頼んだし、相手も了承したはずなのだが。』
『しかし実際来ているじゃあないか。』
『そうですね…。金を借りた社長に電話を掛けてみます。』
電話を掛けると明日やってくると社長は言った。
社員たちは不安そうに言った。
『あのここに泊まれるところところはありませんか。一日で終わる予定だったので。』
住民たちは敵意に満ちた顔で答えた。
『なあね。こんなところにそんなもんはありませんよ。』
『そうですか。では今日のところは帰ります。』
その日すぐに住人たちが『わが村の御神木を守る会』を作った。村人全員が会員だ。
翌日から激しい闘争が始まった。伐採しようとする社長と社員たちと村人たちとの戦いだ。
何日間も続いた。そのうち社員たちが住めるような宿泊所の建設が始められた。
長い期間戦えるようにするためだ。そのうちこの争いを地方新聞が取り上げた。
これぞ環境破壊だと。そのうち有名新聞も取り上げ始め、テレビでも取り上げた。
また村には環境保護活動家が何人もやってきて伐採を阻止しようとした。
村長は国会議員に陳情した何とかならないかと。どんどんどんどん騒ぎは広がっていった。
そのうち解決策が示された国が大金を出してその土地を買おうというのだ。この解決策に
社長は応じた。そして村長は和解の証として社長の家を訪れた。
『やあ。どうも。』
村長の顔をみた社長は嬉しそうに言った。
『君かい。まあ一杯どうだ。』
『しかし君の演技も中々だったな。おかげでわが村も知名度が上がり、観光客が
たくさん来るようになった。今では騒ぎのときに君の会社が建てた宿泊所では足らない。
新しい宿泊所は君の会社に頼むよ。』
そうこれは村長と社長の芝居だったのだ。
『私も国からの金で大もうけだ。それに君の親戚の工場も助かったろう。』
『ああ。負債が全部返せたそうだ。それに私の大学の同期の新聞記者、特ダネがないと
嘆いていたが、この記事のおかげで社内でも有名になったそうだ。なんでもフリーに
なるとか。』
『私の知り合いの議員も喜んでいたよ。一躍知名度が上がったし良いイメージをもたれた。』
『それに国民も満足したはずだ。自分たちの声で環境破壊を止められたとね。』
『うんそうだ。八方丸く収まった。誰が批判できるかね我々を。』